記録34 ハッピーエンド?
街の食堂で住み込みで働くシンデレラ。
昼食の時間が過ぎ、シンデレラも賄いを頂き、今は掃除をしている。
食堂内では、シンデレラが掃除のために机や椅子を動かす音と、食器を洗う音だけが聞こえる。
机を雑巾で拭きながら考えるのは、武闘会のことだ。
そんな時だ。
「きゃぁああ!!」
食堂の外で叫び声が響く。そして、すぐに「ひったくりだ!」という声が聞こえた。
シンデレラは食堂を飛び出し外に出る。
丁度いいことに、ひったくりが目の前にいたのだ!
シンデレラは武闘会でやったように、氷の礫を魔法でつくりだし、素早くひったくりに向けてぶちまけた!!
ひったくりした男は驚き、顔を庇うように腕を出し、立ち止まった。
その隙にシンデレラが男を押さえ込もうと近づくと、突然、全てを焦がすほど熱く、蛇のように細くうねる炎があっという間に男に巻き付いたのだ!
「うわぁあ!熱いっ!!」
男は叫び、その拍子に奪い取ったのであろうカバンを落とした。
シンデレラは素早くカバンを手に取った。
「あぁ……!それ、私のカバンです!」
1人の女性が涙を流しながらやってきた。シンデレラは女性にカバンを手渡した。
(それにしても、今の炎……)
今の炎の魔法をシンデレラは見たことある。
そう、武闘会で……
「おい、誰かコイツを連れていけ」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
シンデレラは振りかえる。
艶やかな黒髪にリンゴの様な赤い瞳、上質な服に身を包んだ、小柄な少年……この国の王子が、武闘会で戦った王子がそこにいたのだ。
2人は目が合う。
シンデレラは思わずサッと目をそらしてしまう。
(な、何で王子様がここに……!?や、やっぱり決着をつけないで逃げちゃったから……もしかして、怒られる?ハッ!まさか継母とお姉様達の件!?武闘会の最中に騒いだりしたし……一応、戸籍上はあの最低最悪なお姉様達と継母は私の家族になるし、ば、罰せられる……)
シンデレラが頭の中でグルグルとそんなことを考え、そして、ジリジリと後ずさる。
しかし、王子は逃さなかった。
「待ってくれ!君、シンデレラだろう!?」
王子はシンデレラの手を掴んだ。
「ひ、人違いでは?」
「いや、間違いない。君はシンデレラだ」
「な、なんでそう思うのですか?」
「その灰色の髪に、さっきの氷の礫を使った技……間違いない、君はあの武闘会で僕と互角に戦ったシンデレラだ!」
王子にそう言われ、グッと喉をつまらせるシンデレラ。
王子はさらにこう言った。
「まだ人違いだと言うなら……この靴を履いてくれ。この靴が履けないなら、確かに僕は間違っているのかもしれない」
そう言ってシンデレラの前に出したのは、薔薇の飾りがついたガラスの靴だ。
シンデレラが武闘会の日に履いていて、逃げる際に落としてしまった片割れのガラスの靴……
シンデレラはおそるおそるガラスの靴を履いた。
ぴったりだ。
窮屈でもないし、大きすぎない。
シンデレラにぴったりのサイズだ。
王子の瞳がキラキラと輝く。
そして、シンデレラの前で跪く。
シンデレラはギョッとした。
「王子様、一体何を……!」
「シンデレラ、どうか私と結婚して欲しい!!」
「え、え?私と……結婚??」
てっきり怒られると思っていたシンデレラは求婚されてポカンとしていた。
王子は必死だ。シンデレラを見つめる瞳は、熱帯びていて、すがるようであった。
「君しかいないんだ!この国の王子と言え、僕はなめられた扱いをされている……!あの城は悪魔の巣窟だ。君のような強い女性でなければ悪魔のような臣下達に心を食い殺されてしまう……。それに、僕も君のような人が伴侶であればとても心強いっ……!」
そう言う王子の表情は、雨の日に捨てられた子犬のようだ。
シンデレラは、そっと王子の手を取った。
「わかりました……。私は貴方の剣となり盾となります。そして共に戦いましょう」
シンデレラはそう言ってから「剣となり盾となるって言ったけど……私、魔力が少ないから小賢しいマネしかできない……」と、呟いた。
王子はふっと笑った。
「実に頼もしい。小賢しいやり方も戦略の1つだ。恥じることはない」
「ありがとう、シンデレラ。私との結婚を受け入れてくれて」
王子がそう言って微笑んだ。
シンデレラもつられて笑った。
こうしてシンデレラは王子様と結婚しました。
そして2人は、幸せな家庭を、争いのない平和な国をつくりました……。
「ホホ……映画、皆から大絶賛で良かったですね、クローチェ様。視聴覚室にわんさと魔族達が来て、ついでに図書館の利用客も増えて司書達も喜んでますよ」
図書館の館長のムートが目を細めて笑った。
「何回も見に来てくれてる人もいるみたいで、すご~く嬉しい!次はこんな作品を作ろうよって言ってくれる子もいるんだよ!」
クローチェは嬉しそうに喋る。
「そういえば……アルジェント様から手紙が来たと伺ったのですが……」
ムートがそう言うと、一瞬でクローチェは苦虫を噛み潰したような顔になった。
「あ~……映画見てくれたみたいでね、感想が書いてあったんだけどさぁ、『俺が作った音楽、ちょっとしか流れてないじゃないか!?』って怒ってた」
ムートは苦笑いした。「でもね~」とクローチェは続けて喋る。
「アルジェお兄様ね、『また必要なら言え。俺は器用だからササッと作ってやる。今度はもっとすごい曲を作ってやる!!1曲と言わず何曲でもな!』って言ってたから、また、ありがた~く利用してやろうと思ってる!」
アルジェントは相変わらず素直じゃなかった。
「そうでしたか。ホホ……クローチェ様、なぜフィクさんは貴方の後ろに張りついているのでしょうか?」
ムートはずっと気になっていたことを聞いた。
クローチェの小さな背に隠れるようにフィクがぴったりと側にいるのだ。
「あー……フィクねぇ、映画のおかげで一躍スターになっちゃってね。1人でいるとファンになった魔族がわんさと寄ってくるんだって。そんなわけで、誰かといると声をかけてくる魔族も減るから~今は私を盾にしてるの」
「た、盾だなんて……!姫様を盾にすることなんて出来ませんっ!!ただ、ちょっと背中を貸してもらいたいだけで……それに、姫様といれば、今は仕事中だって言うと引き下がってくれる方もいるので……!」
フィクがゴニョゴニョと言い訳をする。
「ねぇムート、フィクすごいんだよ!毎日、部屋が埋まるぐらいのファンレターとラブレターをもらってるんだよ!」
「ホホ……!それほどでしたか!フィクさん、良かったですね」
「う、嬉しいことは嬉しいですが……姫様より目立ってるのは申し訳ないです!」
「えーそんなに気にしなくて大丈夫だよ~フィク。それに、私はみんながフィクの魅力に気付いてくれて嬉しい!!」
「そんなもの、姫様以外誰も気付かなくていいです……一生」
ムートはクローチェとフィクのやり取りを聞いてホホッと朗らかに笑った。
「まぁまぁ……噂も75日と言いますから」
「75日も待ってられません……もう殴るしか……」
「フィク、殴ると決闘に発展しても~っとめんどくさいことになるよ~」
クローチェにそう言われ、フィクはグッと喉をつまらせる。
「ね、フィク!私といるなら一緒に遊ぼうよ~久しぶりにフィクとチェスしたり、私と決闘しよ~?斧以外に大剣とか、ハンマーとかでフィクと勝負したい~!あ、お喋りでもいいよ!!」
「では……チェスをしましょうか」
クローチェはフィクの手を引っ張って遊戯室へと向かう。
遊戯室へ向かう途中、2人は映画を上映していた視聴覚室をチラリと見た。今日もわんさと魔族が見に来ている。
魔王城はしばらく映画ブームだろう。
クローチェは今度はどんな流行を作るのか……?
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