記録24 秘密のガールズトーク


「え。人間達ってベビードール着ないの?こんなに可愛いのに?」

「そんな薄っぺらいのなんか着たら風邪引くじゃない。それに、布団に入って寝るだけにそんな破廉恥な格好しないわ…」

「破廉恥?嘘、これ破廉恥の部類に入るの?」


クローチェとミーチェはすっかり打ち解けて、和気あいあいと会話を…ガールズトークをしていた。



「そうだ。ねぇ、ミーチェちゃんの好きな食べ物は?」

「そうねぇ…バウムクーヘンかしら」

「バウバウクーヘン?ナニソレ。甘いの?辛いの?」

「バウムクーヘンね。ふふ、バウバウって…犬の鳴き声…。バウムクーヘンは、甘いお菓子よ」

「バウムクーヘンってどんなお菓子なの?」

「クローチェは、木の年輪を見たことがある?」

ミーチェがそう聞くと、クローチェは力一杯頷いた。

「見たことある!アレよね、こう…層がいっぱい重なってるよね。あ!水の波紋!あんな感じだよね!?」

「そうよ。あんな感じのケーキ。木の年輪みたいだから、幸せを重ねる…とか言われたりしてるわ…ちなみに、クローチェの好きな食べ物は?」

ミーチェの質問に、クローチェはよくぞ聞いてくれました!と、言わんばかりの顔をした。

「ポイズンアップルパイ!!」

「え…毒リンゴ…」

「美味しいよ~!焼き毒リンゴも好き!と言うか~毒リンゴ自体が好き~!」

「な、なるほど…リンゴが好きなのね」

ミーチェはつくづく、見かけは人間そっくりでも魔族達の体のつくりが違うことを実感した。


そこで突然、クローチェが「あ」と間抜けな声を出す。

「恋バナ!ガールズトークの鉄板は恋バナだって聞いた!ミーチェちゃんって好きな人いる!?」

ミーチェは何とも言えない顔になる。

「…私、恋愛より、魔法について研究したりする方が好きだから。その手の話は苦手なのよ」

「あ、苦手な話を振ってごめん…!でも、そっかぁ…ミーチェちゃんは、魔法が好きなんだね。私も、魔王城の皆が好きだけど、恋愛感情で好きな人はいないんだ」

「ふぅん…そうなのね」

ミーチェがなるほど、と頷く。


沈黙が訪れる。


「そ、そうだ!ミーチェちゃんって、勇者…何とかオン…とか、金髪の格闘家の人とか、銀髪の不思議な歌を歌う吟遊詩人とか…気になる人っていないの?」

クローチェがそう聞くが、ミーチェはなんで、あの3人が出てくるのかわからなかった。

「気になる…?」

「ほら、勇者御一行…あれ、逆ハーレムって言うんでしょ?女の子のミーチェちゃんが1人に対して、回りは皆、男の子」

クローチェのその言葉で、ようやく言わんとしていることがミーチェは理解した。

「全く気にならないわね」

ミーチェはふと思う。

(そもそも異性として見たことが何度あったかしら…)

今までの彼らの行動を思い起こしてみる。

(いや、無いわ)


「あ、全く気にならないんだ。理由は?」

「謎。脳筋。素朴でいい子、ただしそれだけ。以上」

ちなみに、フォルティ、アガット、リザシオンの順に述べている。

「ミーチェちゃんから見た3人はそんな感じなんだね~」

クローチェは「なるほど~」と言って頷いた。


「ちなみに…クローチェから見た私達はどんな印象なの?」

ちょっと気になるミーチェ。

「え?勇者御一行?う~ん…そうだなぁ。ミーチェちゃんはー…なんか猫っぽい!」

クローチェのその言葉にふふっと笑うミーチェ。

「よく言われるわ」

「あ、やっぱりそうなんだー!後は、金髪の格闘家さん?う~ん…元気溌剌!!って感じ?バトルスタイルも荒々しい感じがするし…」

「そうね。私もそう思うわ。何て言うか…雑なのよね。まぁ…明るい性格は好ましいとは思ってる」

二人はうんうんと頷く。

「銀髪の吟遊詩人さんもいたねー。そうだなぁ…あんまりあの人は関わった事がないからな~。あ、でもあの吟遊詩人の歌は何だか不思議な歌だよね。あの見た目から想像もつかない歌だったな~」

「そうね…あんな歌でも効果覿面だからすごいわ…本当に」

そして残るは…

「えっと…後は勇者……何とかオン。う~ん…う~ん…何か、印象薄い…勇者だしもっと強いかなぁって思ったけど、私が女の子だからなのか、全力で挑んでこないから真の実力わかんないし…」

「印象が薄い…。まぁ、確かにそうかも知れないわね」

ミーチェはそう呟いた。

「ミーチェちゃんもそう思う事があるの?」

「そうねぇ…ガンガン前に行くタイプじゃなくて、仲間である私達と、同じ歩幅で一緒に歩きたいって感じのタイプなのよね~」

クローチェは「そうなんだ~」と呟く。


(今頃リザシオン達、くしゃみでもしてそうね)

ふと、ミーチェは今頃自分を探しているかもしれないリザシオン達の事を思い出した。


「そういえば、ミーチェちゃんは魔法以外に好きな事ってある?」

話題が変わって今度は趣味の話だ。

「そうね…映画が好きよ。本を読むのも好きね」

ミーチェのその言葉にクローチェの瞳がキラーンと光る。

「本は私も大好き!!魔王城内の図書館によく行くの~!でねでねっ、ミーチェちゃんに聞きたい事があるんだけど…」

「ん?何?」

「映画って…アレだよね。娯楽の映像作品だよね?物語みたいな夢いっぱいのファンタジーとか、キュンキュンの恋愛とか、ホラーとか色んなジャンルがあるんだよね?」

「えぇ…そうね」

「映画って私にも作れるかな…?」

「作れると思うわよ。だいたい魔法を使わずに人間達が映画を作れるから、クローチェ達なら膨大な魔力を駆使すればあっという間に出来るわよ、きっと」

クローチェはぱあっと笑顔になる。

そこでふと、ミーチェは疑問に思った事を口にする。

「魔族達の間では、面白い映画は作られてないの?」

クローチェはふるふると首を横に振った。

「そもそも映画がないの。魔王城内の図書館には、視聴覚室はあるんだけど、あくまでも今までの魔王城の様子とか、歴代の魔王の御言葉が入った映像ばっかりで、娯楽の映像作品はないの」


人間達と魔族達は同じ世界に生きていて、山とかでちょっと隔たれているだけで、地続きにそれぞれの国がある。

しかし、文化は大きく異なるのだ。

ミーチェとクローチェはそれを実感する。


「せっかく広い視聴覚室があるんだから、活用したいな~って。後は、魔族達皆に、新しい娯楽を知ってもらいたいな~とか、皆で一緒に映画を作ったら、もっと皆と仲良くなれるかなって思って」

「そうだったのね…それでクローチェは、娯楽の映像作品を、映画を作ろうとしているのね」

クローチェは力強く頷く。

「あ、ミーチェちゃんはどんなジャンルの映画が好きなの?私が映画を作るとしたら、どんな映画がいいと思う?人間達では、どんな映画が人気なの?」

またもやクローチェの質問責め。しかし、質問責めになれてきたミーチェは苦笑する。

「クローチェってば、少し落ち着きなさいよ。まずは私の好きなジャンルね…」


「姫様!」

ミーチェが言いきる前に、薄暗いこの部屋に、まばゆい光を放つ魔方陣が現れる。

そして、ふくろうの羽を持つ少女…フィクと、数名の騎士達がやって来た。


ミーチェは思わずこの部屋にある小さな窓へと視線を向けた。


窓からさしこむ赤い月の光は弱まっていた。魔王城があるこの場所は、永遠の夜の国とも言われるが、太陽が上らず、赤い月がずっと浮かんでいるだけで、朝になれば、漆黒の夜の空から、群青色から青色のグラデーションの空になる。


ふと、ミーチェはシンデレラを思い出した。


(魔法が使えない『普通の女の子』でいられる時間も、もうおしまいね)


「姫様から離れろっ!!」

ハッと気がついた時には、ミーチェの回りを数名の騎士が取り囲んでいた。

一斉に槍や剣を向けられる。


(チッ…串刺しにするつもりなのね)

ミーチェは心の中で舌打ちした。

(さぁて、どうしようかしら。魔法が使えないから厄介ね…)


ミーチェがどうしようかと考えていた時だ。


「やめなさいっ!」

いつになく逼迫したクローチェの声が響いた。

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