夜の魔王城
時間を少し遡って、魔法使いこと、ミーチェが罠にかかってクローチェに出会うまで…
「夜の魔王城ほど不気味なモノはねーな…」
格闘家のアガットがリザシオンの後ろを歩きながらそう言った。
今、リザシオン達、勇者御一行は魔王城内を探索中。
今回は魔王代理やクローチェに要はないので、魔王城内の探索が終わったらサクッと帰る予定である。
「それにしても…何度かこの魔王城には来ているけれど、案外知らない事ばかりね。この辺、隠れるのに向いていないわね…注意しなきゃ」
ミーチェがアチコチ覗いたりしながらそう言う。
リザシオン達の今回の目的は魔王城内をよく知る事。
魔王城は、リザシオン達にとっては戦闘を繰り広げる場所である。やっぱり、戦闘を行う場所をよく知っているのは重要だろう。そう考えたリザシオン達は、魔王城内の探索をすることにしたのだ。
「いやぁ…このランプ、お洒落だな。ふぅむ、この壁飾りも良い…!」
「は?頭蓋骨とか骨が組み合わさった壁飾りなんて、不気味じゃねーか。このランプも何だ?蝙蝠を模して作ってんのか?」
「よく見てごらんよ、アガット。この繊細な蝙蝠の翼。よく出来てる…!この骨の組み合わせかたも…」
芸術鑑賞会みたいな事をしているフォルティと、何だかんだで真面目にフォルティの話を聞いてるアガットの頭をミーチェは叩く。
「ちょっと、2人とも。本来の目的を忘れてるでしょ。主にフォルティ!私達は美術館に来たんじゃないの。魔王城に来たの!!」
「あぁ、もちろんよくわかっているよ。魔族達も俺達と同じく素晴らしい美的センスを持っている事が、今回の探索でよくわかった!」
ガクッと肩を落とすミーチェ。ボソリと、「コイツ馬鹿だわ…」とぼやきながら、静かに探索しているリザシオンの元へと行く。
「どう?リザシオン」
「あぁ、ミーチェ。あっちの方を見てきたんだが、どうやら工事中の様だ。この魔王城、次に来た時には、少し変わっているかもしれない。きっと、僕達を警戒しているんだろうな…。それと、今まで見たことない通路を見かけた」
「確かに警戒して当然ね。何度もここに来ているんだもの。魔族達も馬鹿じゃないだろうし、何か対策をしてくるのは想定内よ。それにしても…あの2人にリザシオンの爪の垢を煎じて飲ませたいわね…。全く、リザシオンみたいにもっと役に立ちそうな情報を掴んできなさいよっ…」
ミーチェがそう言えば、リザシオンは苦笑いをする。
「おーい!フォルティ、アガット!見たことない通路を見つけたから、そっちを調べに行こう!」
リザシオンが2人を呼びかける。真っ先にフォルティが食い付く。
「見たことない通路かぁ…!それはワクワクするねぇ。フフ…一体何があるんだろうね」
「おいフォルティ…そのニヤニヤした顔はやめろよ…かなり気持ち悪いぞ…」
隣にいたアガットがちょっと身を引く。
「へぇ~確かに初めて見るな。けっこう広いから大暴れできるな!」
アガットはちょっと嬉しそうな顔。
「アガットの言う通りだな。狭いと、いつの間にか壁際に追い込まれて、身動きが出来なくなる。お?左右に道が続いている…どこに繋がってるんだろうな…」
リザシオンもアガットと一緒にうんうんと頷きながら、新たな道を発見する。
ミーチェも罠が無いか注意しながら、リザシオン達の側を歩く。
そこでふと、気がつく。フォルティがいない。
ハッと辺りをミーチェが見渡せば、フォルティがある壁の前で立ち止まっている。
ミーチェは小走りで、置いてきぼりにしてしまったフォルティの元へ向かう。
「ちょっとフォルティ!罠があるかもしれないから、私達の側を離れないで…!」
フォルティはどうやら、壁に少し斜めって掛かっている絵画が気になっている様だ。
ミーチェが声をかけても気づいていない。しょうがないから、フォルティの上着を引っ張ろうとした。
そこで、ゾッと何かをミーチェは感じた。
ミーチェの体の中の魔力が警戒しろと叫ぶ。
(微量だから近づくまで気づかなかった…!)
「フォルティ!その絵画に触れないで!!」
「え?」
だけど、フォルティは既に指先で額縁に触れていた。
考えるより先に体が先に動いていた。
ドンッと思いっきりフォルティに体当たりをするミーチェ。
ピカッ!
「うっ…!?」
ミーチェは目映い光に飲み込まれた。
ドサッ!
気がついたら、まるで自分がボールにでもなったかの様に乱雑に放り投げられた。
「イテテ…全く何なのよ…」
固い床にぶつけた肘などをさすりながら、ミーチェは立ち上がる。
狭く、暗く、冷たい。そして、自由に出入りする為の扉が無い部屋…。
「まるで牢獄ね…」
ポツリと呟いたミーチェは、ウエストポーチから杖を取り出す。
「我が身をリザシオン達の元へ転移せよ」
そう唱えて杖を振るが、全く反応しない。
「転移!!」
ムッとしながらそう叫んだが、やはり反応しない。
ウエストポーチから魔方陣の書かれた紙を取り出す。
「転移!」
何も起こらない。流石にミーチェも焦り出す。
「他の魔法は…?氷よ、わが手の上で花を咲かせ…!」
手をかざすが、いつまでもたってもミーチェの手のひらに氷が現れる事はなかった。
「魔法が使えない…」
(いや、違う。使えないんじゃない。正確に言えば、封じられている…)
たぶん朝になったら魔族達が殺しに来る。
魔法を封じられて何も出来ないミーチェを殺しに…。
「あ~ぁ…フォルティの馬鹿。私も馬鹿。もう寝よ…」
自暴自棄になったミーチェはゴロンと横になる。
寝る、と決めたが、床が冷たくて固いから、結局は浅い眠りを繰り返すだけだった。
うつうつと寝ていたミーチェは、ハッと意識が覚醒した。
(何か来る…?)
そう思ったら、天井がぽわ~っと光って…
後は怒涛の展開だった。
クローチェが落ちてきて、クローチェがミーチェの事を殺しに来たのかと思えば、クローチェも同じく罠にかかり、魔法が使えない状態。
そして…
「ここは、朝までガールズトークしよう!」
「…は?」
これに至る。
「ねぇねぇ、ミーチェちゃんの好きな食べ物は?好きな動物は?あ!今、人間達の間では何が流行なの?そうだ、たい焼きって何?甘くて美味しい食べ物だって聞いた!でも、鯛の塩焼きとは何が違うの!?」
思考が追い付いていないミーチェはそっちのけで質問責めをするクローチェ。
「ちょ…ちょっと待ちなさいよ!そんなに質問されても困る!後…貴方、馬鹿じゃないの!?私達、敵同士なのよ!」
ミーチェはクローチェから距離を取る。
クローチェはきょとんとしてから、暫しの沈黙の後、口を開く。
「でも…今は私達、ただの女の子だよね?だって魔法使えないし」
その言葉に、ハッとするミーチェ。
目の前にいるクローチェは、目は2つ。指は5本。耳も2つ。足も2本…。
ミーチェと変わらない、女の子が目の前にいた。
ミーチェは、随分前に聞いた話を思い出した。
人間が魔法を使えるのは、魔族達が住む所から風に乗って流れてくる僅かな魔力を人間達が体内に溜め込み、魔法が使える様になった。そして、それが子々孫々と受け継がれ、人間達は今も魔法が使えるのだと。
(魔法が使えなきゃ、私もあの子もただの女の子。そして、私達人間の体内にある魔力も、元を辿れば魔族達の魔力と一緒…。よく考えてみれば不思議な事ね…)
ミーチェとクローチェの間には、またもや沈黙が訪れた。
「くしゅんっ!」
突然、クローチェがくしゃみをする。
クローチェは、ひらひらでペラペラのベビードールしか着ていない。
ミーチェは1つため息をつくと、自身の紺色のポンチョをクローチェに羽織らせた。
「あ、ありがとう…!」
ミーチェはクローチェの横にストンと座る。
「それで?何が聞きたいわけ?」
ミーチェがそう聞けば、クローチェの紅色の瞳はキラキラと輝き、笑顔になった。
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