記録9 クローチェとそうめんの戦い
「今日のお昼は、流しそうめんがいい!」
クローチェのその一言により、魔族たちはクローチェのノートに書いてある流しそうめんの資料を元に急いで流しそうめんの機械を作り上げた。
「すっごおぉい」
クローチェは感嘆の声をあげる。城内に張り巡らされた黒くていかにも固そうな魔王城流しそうめん機。もうちょっと大きければ人も流れることもできそうである。
「いやぁ、圧巻ですね・・・はい、姫様」
そう言ってクローチェ専用の箸とお汁のはいった器を渡すのはフィクだ。この間の勇者たちとの戦闘で受けた傷はまだ、完全に完治はしてないものの、元気はいっぱいである。
ちなみに魔王代理はと言うと・・・
「カメラ頂戴」
魔王代理が右手を出してカメラを催促する。隣に控えていた魔族がさっとカメラを懐から出し、魔王代理に渡す。そして魔王代理はシュバッ!シュババッ!と、すごい早さかつ、さまざまな角度からクローチェの写真を撮る。そしてほわっとした顔になる。
「あぁ、箸と器を持ってキラキラと瞳を輝かすクローチェ・・・可愛いっ!今日も完璧かつ、可愛いクローチェの写真を撮らないとねっ!」
そうこうしている内に食事が始まる。そう、ついにそうめんが流れるっ!
「あ!来た来た!」
クローチェ、すかさず箸で一口サイズのそうめんの塊を捕まえる、が!
すりゅっ
「あぁあ!?」
箸をすり抜けつかんだのは一本の細いそうめんのみ!
「あらら、姫様、残念でしたね~」
そう言うフィクの箸には、クローチェが取り逃したそうめんがっ!
「あああ・・・フィクずるい」
「ふふふ、相変わらずクローチェはトロイわね~でも、そんな所がクローチェらしい!」
「トロイって・・・!え、お母様、いつの間に私の隣にっ!?」
クローチェの側に張り付きカメラをかまえるのは魔王代理である。
カシャカシャカシャッ!
「ちょ、お母様、フラッシュでそうめんが見えないですっ!」
クローチェの言う通り、そうめんが流れてしまう。
「よっしゃ、とれたぁ!」
歓喜の声をあげるのは小鬼の少年。
「よし、次こそはっ!」
ながれて来るそうめんをじっと見つめて・・・今だっ!
カスッ
「あ!?そうめんっ!」
「とれましたわ~」
羊の獣人女性が美味しそうにそうめんを啜る。
「ふふ、クローチェってばどんくさい!」
魔王代理はクローチェの頭をナデナデ。
「む、むぅ・・・次こそ!」
スルリ
「そうめぇえん!!」
クローチェの箸には、何もなかった。
「とれたにゃー」
化け猫がガブガブそうめんを食べる。
「クローチェってば、ポンコツ!」
魔王代理はクローチェの頭をポスポス。
「けっこう難しいのね・・・こうなったら何が何でも!」
つりゅっ
「・・・そ・う・め・ん!」
クローチェ地団駄!
「おー取れた」
ヴァンパイアの青年は血のお汁につけてズルリ。美味しそうだ。
「クローチェは、本当にのろまね~」
魔王代理はクローチェの頬をムニムニ。
「お母様!私の事、誉めてませんよね!?けなしてますよね!?」
「え、最初から魔王代理、姫様の事かなり、けなしてましたよね!?気づいてなかったんですか、姫様!?」
「やだぁ、私は全力でクローチェの事、可愛がってるわよ?」
ぐきゅう~
クローチェのお腹が鳴る。
「うぅ~全然取れないから、はらぺこ~!」
「しょうがないわね~お母さんが取ってあげるわ。ほら、貸しなさい」
クローチェは箸と器を渡す。
そうめんが流れて来る!
シュバッ
「す、すごい!とれてる!」
シュバッ シュババッ! シュバッ!
クローチェの器にどんどんそうめんが入る。どんどん入るから白いそうめんの山が・・・
「お、お母様!それぐらいでいいです!それ以上は溢れますっ!あと、私のお腹に入りきりませんっ!」
クローチェは魔王代理から器と箸を奪う。
「あら、いいの?」
「あ、ありがとうございます・・・お母様」
クローチェは早速そうめんを口にする。
「美味しい・・・!!」
クローチェはズルズルもぎゅもぎゅと食べる。その姿はまるでハムスターの様だ。
魔王代理は微笑む。しかし、その笑みは美しいと同時に背筋が凍る様な笑みでもあった。まわりにいた魔族たちは固まる。
クローチェは、気づかず美味しそうに食べていた。
夏の間、魔王城では定期的に流しそうめんを食べるようになったりもしたのである。
相変わらずクローチェはそうめんを取れずじまいだったが・・・
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