記録8 勇者、再び魔王城へ

魔王城にアラームが鳴り響く。

魔族たちはそれぞれの持ち場につき、勇者の戦闘に備え待機していた。

クローチェは今か今かと大斧を片手に魔王城玄関で勇者を待っていた。

「姫様!止めましょう?きっとこないだのは偶然ですよ!!相手は勇者ですよ!姫様のお父様である魔王様を封印した勇者です!」

フィクは、クローチェの服をぎゅうぎゅうと引っ張る。

「大丈夫だって!楽勝だったもん。それにお母様も何も言ってこないし!それに今日こそはあの勇者の心臓を貫いてやるっ!」

クローチェの瞳は輝いていた。

「君になら貫かれてもいいかも・・・」

クローチェとフィクが振り返るとそこには勇者リザシオンがいた。

「勇者り、りず・・・勇者来たわねっ!」

「姫様、思い出すの諦めましたね?」

「君にだったら何度でも名乗ろう。僕の名前はリザシオンだ」

「やあぁぁあっ!!」

クローチェは聞いていない。大斧を振り落とす。

「ちょっと、お前っ避けろっ!!」

金髪の格闘家がリザシオンを慌て引っ張る。

なんとか二人は避ける。

「お前、何してんだよっ!?」

「わ、悪い、彼女に見とれてた・・・」

そう言った瞬間、ドガッ 二人は吹き飛ばされる。

二人を吹き飛ばしたのは・・・

「こうなったら私も本気でやるしかないですね・・・姫様には指一本も触れさせません」

クローチェ専属メイドのフィクだ。

「チッ!リザシオンっ行くぞ!」

「彼女・・・クローチェは、絶対に殺すなよ」

「ずいぶん、面白い事を言ってるわね!」

クローチェは大斧を振り回す。

金髪の格闘家はクローチェを攻撃しようとするが、それを妨害する者がいる。

フィクだ。

「姫様を殴ろうとはっ!私が許しませんっ!」

「お前なんか、一瞬で殺ってやる!」


リザシオンはクローチェを攻撃しようとするがクローチェに剣の切っ先が当たりそうになると、つい、手が緩み、クローチェは避ける。

「私は事なめてんの?」

クローチェはイライラした顔で大斧を振る。

リザシオンは反応が遅れ、避けるが頬が少し斬れ、血が垂れた。

(ダメだっ!クローチェに近づくと・・・表情がより鮮明に見えて・・・見とれてしまうっ!イライラした顔も可愛いっ!)

リザシオンはもう、この気持ちをどうする事も出来なかった。

そんな時・・・

「固まれ!冷やせ!地面よ凍れ!」

リザシオンの仲間である魔法使いが氷の魔法でクローチェ付近の地面が凍る。

「姫様っ!!」

フィクは自前の羽で飛び立ちクローチェを捕まえ地面から離す。

しかし・・・ガッ!

「きゃあっ!?」

金髪の格闘家がフィクを蹴り飛ばす。そしてクローチェを掴んでいた手が緩む。

「ひ、姫様っ!!」

「嘘っ!?」

クローチェは落ちる。

「く、クローチェっ!!」

とっさにリザシオンは手を伸ばしていた。

ドサッ!!

「いたた・・・」

クローチェは、はっと見てみれば、勇者を押し倒す様な形になっていた。

リザシオンの顔がやや赤くなる。そこで、クローチェは何を思ったのかスカートをめくる。

リザシオンは顔が真っ赤になる。

「クローチェっ!?」

今回はめくっても大丈夫!ちゃんと見えてもいいように白いハートマーク付きの黒いスパッツをはいている!

いやいや、スパッツとかどうでもいい。

スカートの裾に仕込んでおいた小刀をクローチェは取り出しリザシオンにその切っ先を向けた。

勇者リザシオンにクリティカルヒット!!

しかし、勇者は死なない。装備品のスキルにより、勇者は死ななかった。

クローチェはもう一度攻撃しようとするが・・・

「風よ吹け!風よ舞え!吹き散らせ!」

魔法使いによる風の魔法で吹き飛ばされる。

「姫様!」

羽を負傷したフィクがクローチェを抱き止める。

その間だに勇者の仲間がリザシオンを回収し、あっという間に魔王城から去っていく。

「い、行っちゃった・・・」クローチェは呆然と呟く。

ドサッ

「ふ、フィクっ!?」

突然、フィクが倒れる。

クローチェがフィクの体を抱き起こそうとすると、別の人物がフィクの体を抱き起こした。

「お、お母様っ!?」

「よく、クローチェを守ったわね・・・しっかりおやすみ・・・」

魔王代理の転送魔法でフィクは城内へと送られる。

魔王代理はクローチェを見て微笑む。それは、背中がぞっとするような笑顔だった。

「クローチェ、部屋でしっかり休みなさい。ふふ、私はまだやることがあるから・・・」

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