記録5 クローチェ、勇者と出会う

今日も、魔王城はいつも通りである。そう、さっきまでは・・・


いつも通りクローチェは城内で人間の領地にちいて臣下たちと喋っていると、突然、城内のあちこちに設置してあるアラームが鳴り響く。そして、魔王代理の放送が流れる。

「えー、魔族たち、どうやら勇者たちが来たみたいです・・・皆、勇者と戦闘する準備をするように!あ、クローチェ!この放送聞いてるー?クローチェは、自室待機してね?大事な大事なクローチェを勇者に合わせるわけにはいかないからね!わかったぁ?約束守らなかったら、ほっぺたにちゅーしちゃうからね☆・・・放送は以上。卑怯な手を使ってでも、勇者を倒すのよ!」

「マジか!勇者と戦闘かぁ、姫様、魔王代理の言う通り、早く自室に戻ってくださいね!それでは、我々はこれで・・・お前たち、いくぞっ!」

臣下たちは急いでその場から去っていった。

「勇者・・・」

クローチェは、眉をひそめる。クローチェの父である魔族最強の魔王をさくっと封印してしまうほどの力の持ち主・・・

クローチェは、放送の通り自室で待機していた。


「何?勇者たちが城内に入ってきた!?」

クローチェはフィクから報告に驚いた。

「どうやら、そのようです・・・」

「これじゃあ、あの時と一緒・・・このままでは、お母様まで、封印されてしまう!」

クローチェは、大斧を取り出す。

「ちょっと、姫様!まさか、勇者と戦う気ですか!?」

「そうよ!このままでは被害が大きくなるばかり・・・たくさんの臣下を死なせるわけにはいかない!最悪の場合、お母様が封印されてしまう・・・!」

「姫様!魔王代理の放送の通り大人しくしましょう!姫様が勇者にでも倒されたら・・・!」

しかし、クローチェは部屋を飛び出す。

「大丈夫よ、フィク!危なくなったら、私の大得意な炎の魔法で全部焼き尽くすからっ!」

「ちょっと姫様!」

フィクは慌てクローチェを追いかけるのだった。


クローチェは目にも止まらぬ早さで勇者たちがいる魔王城一階の大広間に向かう。

クローチェが到着した頃には、ほとんどの魔族が倒れていた。

そして勇者が骸骨の魔族にとどめを刺そうとしていた。

「待ちなさいっ!勇者!貴方の相手は私よ!」

クローチェは、大斧を振り下ろし勇者を襲う。

勇者はさっと避ける。そして突然のクローチェの登場に驚いた様子だ。

クローチェは、はじめて勇者を見る。

勇者はクローチェと、同い年か、いっても少し年上といった感じの年齢、栗色の髪に金色の瞳。顔はそれなりに整っている・・・様な気がする。

「き、君は・・・」

「喋ってる暇はないわよっ!」

勇者の言葉は遮り大斧を振り回す。勇者は避けたが、勇者の前髪が少し切られる。

「あーもうっ!ネズミみたいにさっさと動いてっ!」

ふと、見れば、勇者と一緒に来ている魔法使いが何か魔法を唱えていた。

クローチェは、大斧を振り回し、魔法使いが使っている杖を弾き飛ばす。そして勇者の仲間がクローチェを攻撃しようとするが、クローチェは華麗に、ドレスを翻し蝶の様に避ける。勇者と一瞬、目があう。勇者は呆然とクローチェを見ていた。

クローチェは、にっと笑みを浮かべた。

「隙ありっ!」

クローチェは大斧を振り下ろす。

勇者は避けなかった。

勇者にクリティカルヒット!

勇者は倒れる。しかし、しぶとい事にまだ死んではいなかった。クローチェは、とどめを刺そうとしたが、勇者の仲間たちが素早く勇者を回収する。

「ヤバイぞ!勇者がいなきゃ、魔王代理は倒せないっ!」

「ひとまず、撤退ですっ!」

勇者の仲間たちはアワアワしていた。

クローチェは思わず大笑いする。

「あっははは!お父様をあっさり封印してしまうからもっと強いのかと思ったら全然強くないじゃない!今日の所は見逃してあげる!ふふ、魔王代理を倒したければ、まずは、私を倒すことね!」

クローチェは、どや顔で仁王立ちする。

勇者たちは逃げようとするが、勇者が止める。

「ま、待ってくれ・・・君は、いったい・・・何者、なんだ・・・」

「ふふん!その耳に焼き付けるといいわ!」

「姫様・・・たぶん、焼き付けるは違うとおもうんですが・・・」

骸骨の魔族がコソッと言う。

「え、嘘。ま、まぁ、いいわ・・・後で調べとこ・・・こほん、私は、魔王の娘、クローチェよ!」

「魔王の娘・・・クローチェ」

「ちょっと、勇者も名前、教えなさい!私、ちゃんと名乗ったんだから」

「僕の名前は、リザシオン・・・」

「ふぅん、勇者リゾート・・・」

「姫様、勇者リザシオンです・・・」

「え、リゾット?」

「いや、リザシオンです」

「今の内に逃げるぞっ!」

こうして勇者たちは去ったのである。


「クローチェ、よく勇者を追い払ったわね!

でも・・・お母様のいった事、守らなかったわね?」

「う・・・ごめんなさい」

「もう・・・でも、無事で良かったわ!」

そう言って魔王代理はクローチェを抱き締める。そしてさりげなくほっぺに・・・ちゅっ

「ぴいいぃ!ちょっとお母様!」

「ふふ、だって、約束守らなかったら・・・ね?」

「うう・・・お母様にはかなわない・・・」

こうして魔王城には平和が戻ったのである。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る