蒼き瞳の君を探して

蒼恋華

プロローグ 

 ずっとずっと昔。この世界にはドラゴンが存在した。

 彼らは堅牢な鱗で身体を守り、業火を吐き出し、近づくものは鋭利な牙と爪で引き裂き、大翼で空を飛翔し、強靭な脚で大地を駆け回る。

 他の生物は竜を恐れた。特に、人間種は高度な感情をもつあまり竜を憎んでいた。

 人間種は、特有の高い知能を以って竜に対抗しようとした。はぐれた仔竜を殺し、その鱗や牙を使い武器を作った。竜の血を浴びたものはたぐいまれな生命力と身体能力を得た。 後に『 竜殺しドラゴンスレイヤー』と呼ばれる者たちである。

『竜殺し』たちは世界中の竜を狩った。狩って狩って狩りつくしていった。

 それからというもの……


「話が長いよ、おじいちゃん」

 私はあくびをしながら話を聞いていた。

「その話、百回は聞いてるよ。大体、竜なんているわけないじゃん。火を吹いて、空を飛んで、鋭い牙や爪で襲ってくる生き物なんて、人間が対抗できるはずないじゃん」

「百回も話しておらん。それに竜は存在するのだ。実際に化石が見つかっている」

 竜の化石。聞いたことがない。どうせおじいちゃんの妄言に決まってる。

「まぁ仮に見つかっても極秘資料として回収されるのだが……」

「なに、その嘘みたいな話。なんで竜の死骸が極秘資料になるのよ」

「死骸ではない。化石だ」

「どっちも同じでしょう? 」

「そのあたりは論点ではない。話を戻すぞ。竜の化石というのはこの世界の文明を高度に発展させた素材そのものなのだ」

 そう言うとおじいちゃんは壁に掛けてある剣を手に取った。刀身は分厚く、鋭い。

「これは竜の骨と爪、鱗を使って作られた剣だ。丈夫で切れ味も良い。扱いに慣れた者ならば木くらいなら一撃で切断できる」

 そういうとおじいちゃんは小さな木材を放り投げ、剣を構える。

 ひゅん、と音がする。木材は中心から真っ二つになっていた。

「これは金属の刃ではなかなかできない。これが竜の牙や爪を使ってできている剣だという証拠だ」

「……竜の化石は極秘資料なのよね?なんでおじいちゃんが持っているの? 」

「……先祖代々の品だ」

「言い訳が苦しいよ、おじいちゃん」

 私はため息をついた。

「大体、竜の伝説についての話は学園でも聞くしみんなただの御伽噺だとおもってるよ」

「何を言う。お前も竜殺しの子孫なのだぞ」

「でもどうせ私は竜殺しじゃない。おじいちゃんの話なら竜殺しは身体能力は高いし生命力もあるんでしょ?私は身体能力も生命力も並の人間よ」

 ちらりと時計を見る。

「そろそろ時間だわ。またね、おじいちゃん。私、もうそろそろ帰らなきゃ」

 上着を羽織って立ち上がる。

 空はもう深い紺色に染まっていた。

「気を付けて帰るんだぞ。道を外れないように。森に入り込んでしまうと魔物が出るからな」

「そのくらい分かってるよ。何回ここに来たと思ってるのよ」

 少し歪んで軋むドアを閉め、私はぽつぽつと歩き出した。

 冷たい風。もうすぐ暦の上では春のはずなのに、凍えるような風が吹いていた。

「空も澄んで月も明るくて星も綺麗なのに、この寒さだけはもったいないなぁ」

 空を見上げると、青白い流星。

 ──まっすぐに、落ちてきた。

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