ままま

ネミ

色々

【魔女】


 魔女と常人の女。それの物質的な違いは個体差程度だが、非物質的な違いは大いにある。

 魔女と常人の違い。それは魔力を溜める器の有無。

 魔女が持つ器。それは、流れる水を止め、溜める瓶の様に、世界を循環する魔力を集める器。

 それを有する魔女は、知覚し得ぬ器の中。そこに魔力を溜める。それは魔女の意思と無関係に。


 魔女の意思と無関係に起きた問題。その一つは魔物の被害。

 己の意思で制御できぬ魔力。それが具現化した魔物。それらは人々を害する凶器に成り得た。それは昔から続く厄介事の一つ。

 それに加え、魔王と魔女の間に生まれる子。魔獣が人々を襲う事も。

 魔王の支配に反抗する人々は魔獣を増やさぬ為に魔女を忌むべき者と見なした。

 それらは魔女の抹殺に十分な理由を与えた。人々を脅かす要因。それを排除する為に行われた魔女狩りは、現代で違法とされる行為。

 それが禁じられた原因。それは魔導士の出現にある。

 突如、現れた魔導士。彼は魔女の魔力を導き、それを無害にし、魔獣を殺す武具を現した。

 制御できず、敵に益をもたらす魔女。それ故に殺された彼女ら。人々を苦しめた魔女は、人々の希望と成り、存在を許された。それが魔導の歴史。その始まり。


【魔王】


 魔獣の縄張り、それは魔界とも呼ばれる。そこの主、魔王。それは魔獣たちの父。そして、魔女を娶る雄。

 数多の魔王。その全てを滅ぼす事こそ、人々の悲願。その為に結成された組織。それが騎士団。


 魔導士が導く戦乙女たちは騎士と呼ばれ、魔導士と共に魔王討伐の責務を果たす。

 人々が魔女に求める役割。それは騎士となり魔王や魔獣を討つ事。

 魔導士は呪文を用い、魔女が宿す魔力を具現化し、武具を作る。

 具現化された鎧を纏い、三者三様の得物を持った魔女は、魔獣や魔王と対峙する。

 敵の行動や状況に応じて、魔導士は呪文を用い、魔女の魔力を変容させる。球状の障壁を張り、守る事あれば、魔女らの魔力を合わせ簡易的な橋を作り道を作事も。

 魔導士の役割。その一つが隊の長。魔導士の武力は当てにすべきではない。だが、魔導士が居なければ、臨機応変な対応が難しく、魔女の力を発揮できない。

 魔導士は戦場で魔女を管理する役割を持ち、従える魔女らと共に任務を全うする。


 この世は男尊女卑。それは魔界とて同じ事。



【武具】


 魔女が宿す魔力。それを導く魔導士は魔獣との戦いに欠かせない存在だ。


 肉を切り裂く鉄、鉄を溶かす熱、熱を奪う冷気。それは生物を殺せど、魔物に致命傷を与え難い。

 それら化け物と戦うために魔女は必要だ。たとえ、魔女の身体が危険に晒されようとも。

 切れ味の良い刃、鋭利な槍、巨石を砕く鎚、標的を射貫く弓矢、など、魔女の魔力から具現化した魔物は、魔王や魔獣との戦い。その勝敗を決するモノだ。


【ある魔導士の話(前編)】


 その昔、俺の騎士になる、と誓ってくれた彼女は、俺の魔導が未熟なせいで利き腕を失った。


 幼い彼女が纏う鎧、それは俺の魔導が具現化した彼女の魔力。その鎧は魔獣の噛む力に負け、その利き腕を守れなかった。

 引き裂かれた腕から大量の血が流れる様子。痛みから叫ぶ彼女の悲鳴。その光景を前に何も出来なかった俺は不出来だった。

 魔獣を追っていた騎士たちに助けられて彼女は生き永らえた。が、彼女の腕は戻らない。切り傷とは訳が違うのだから――。


 ――それは、俺たちが10歳の頃に起った出来事だ。

 俺は「魔導士になる」と誓い。彼女は「騎士になる」と誓った。そんな俺たちは大人たちに黙って、魔界で秘密の特訓をしていた。

 魔界と言っても大した魔獣が居る訳じゃない。無茶をして命を落とすなんて馬鹿じゃなかった。

 でも、想定外ってのは起こり得る。

 騎士たちが追っていた魔獣が偶然、その縄張りに逃げ込んできたらしい。

 想定外の魔獣に遭遇した俺は動揺してた。そんな俺を守ろうと彼女は魔獣に挑んだ。

 勝てない相手に挑む理由は、きっと俺を逃がす時間を稼ぎだったんだろう。

 でも、俺は逃げなかった。逃げるっていう考えは浮かばなかったし、身体も思うように動かなかった。

 魔獣から視線を外し、逃げない俺に「逃げて」と呼びかた彼女の利き腕は、魔獣に噛み千切られた。


 彼女を守った鎧。それを具現化したのが俺じゃなくて、立派な魔導士だったら。彼女の利き腕は今も、残っていた――かもしれない。

 あの時、俺が逃げていたら、彼女は利き腕を噛まれなかったのかもしれない。

 だから、俺には責任がある。彼女に利き腕を奪わせてしまった俺には。


 俺は彼女の腕。その代わりを求めた。そして、ある魔導士に弟子入りした。

 その人は、騎士を導く事。それを引退した老人だ。そんな人に俺は懇願した。

 迷惑だと知りながら、それでも、彼女の腕を用意したい。彼女が不自由なく生活できる腕を贈りたい。そう思ったから。

 それしか、俺が取れる責任はない。

 利き腕が無い彼女は不自由な生活を強いられている。そんな彼女は魔獣と戦う事を求められないかもしれない。 

 もし、そうなるなら、俺が彼女を騎士にする。それは腕を失う前に、彼女と交わした約束を守る事にもなる。


 それから数年。俺たちは成人した。


 彼女は、彼女以外の魔力を導かない原因は自分にあると、責任を感じている様子だが、俺は二頭を追った結果一頭も得られない。そんな未来は望まない。


 だから、俺は彼女の魔導士になる。その実力を得るまでは多くを望まない。

 魔導士になる理由を彼女に求めている自分は愚かだろう。

 そうだとしても、今も消えない罪の意識を終わらせる為に、俺は彼女の魔導士になりたい。

 俺は彼女に贖罪している、とは言い難いだろう。

 俺がしているのは、自分勝手な押し付けなんだから。


【ある魔導士の話(後編)】


 師匠の下には〝孫〟と間違えるほど、若い魔女が居た。

 その魔女は高い魔力を有しているが、何らかの事情で人見知りしているらしい。

 師匠から弟子入りする条件として提示された事。それは、その子から認められる事だった。

 それまでは弟子じゃないから、魔導を教われなかった。


 人見知りなその子を騙せるほど、上等な演技は俺に不向きだった。だから、俺に出来る事は諦めず、何度も挑む事だけだった。


 そんな中で、その子から聞かれた事がある。それは興味本位だったのだろう。

 俺は答えた「騎士になると語っていた幼馴染の魔女、彼女の利き腕を俺は失わせてしまった。その償いになればと、俺は彼女を世界一の騎士にしたい。その為に、師匠に弟子入りしたい」と。

 その子は、俺に心を開いてくれたとは言い難かったが、師匠の前で演技をしてくれた。俺と仲良くなった、と。

 その御蔭で俺は弟子入り出来た。

 だが、その対価に、召使にさせられた。主人である、その子に逆らえない俺は、色々な事を要求されたが、無茶なことは言われなかった。ただ一つを除いて。

 それは、俺が彼女と共に旅発つ時「行かないで」と求められた事だ。

 利で近づいた俺と一定の距離を置いていたその子は俺に情が沸いたのだろうか?

 それでも、俺は償うために旅に出る他ない。彼女を世界一の騎士にするために。

 そんな時、師匠から提案された。「この子を連れて行ってくれないか?」と。

 俺は断った。いつの間にか懐かれていたとはいえ、その子を背負う程、俺に余裕は無い。

 無責任に引き受けられる程、この子の命は軽くない。

 そんな俺に彼女は言った。「連れて行こう。一人の魔導士が複数の魔女を侍らせるなんて当たり前でしょ。むしろ、一人前の魔導士なら必要な事だよ」と。

 「私の魔導士さまは、そんな度量の狭い人だったのかな~?」なんて、挑発された俺は、彼女の言葉に逆らい難い。それは負い目があるから、なのか。

 俺は、師匠の提案を、彼女の後押しを、受け入れ、その子の願いを聞き入れた。


 こうして、俺は、二人の魔女を従える若輩者の魔導士になった。



【魔王と壊れた瓶】


 魔女の意義、それは魔王や魔獣の討伐。その役割を全うできない魔女に人々は冷ややかな目を向ける。

 魔力を溜める器。それが壊れた少女に、その役割は不相応だ。

 役立たずに成り人々から捨てられた少女は、魔王へ魔女売りで生計を立てる奴隷商人に囚われた。


 魔女の市場。少女はそこで彼と出会った。

 誰からも見向きもされぬ少女。彼はそれに同情し、手を差し伸べた。

 差し出された手を掴む少女は今の苦しみから脱したい。展望なき未来を進む。


 少女は存在意義。それを失っていた。

 そんな少女は彼の助力で器の機能を取り戻した。魔力を溜める、その機能を。

 その噂を聞きつけた騎士団は「囚われの魔女を救う」その正義を持って、少女の奪還を試みた。


 彼は魔王に相応しくない。魔獣の父と成らず、人々との争いを避け、身を隠し、穏やかに暮らしている。

 彼は少女に家事を任せた。騎士として積み重ねた日々は、家事の役に立たなかった。

 慣れない日々は新鮮な生活を際立たせ、少女は第二の人生を歩み始めた。

 そんな少女の様子。それを見守りながら彼は考える。少女の幸せとは何か――を。


 人は人の世で暮らす。それが幸せなら、それを少女が望むなら、奪わせてやろう。

 その考えに到ったのは、少女を騎士団が欲している、それを知ったから――だ。

 彼は騎士団が試みた奪還作戦。その成功を目前まで見守った――が、少女を救いに来た騎士たち。それらの手を少女は掴まなかった。


 魔王と言う悪から魔女を取り戻す正義。それを振りかざす為に、騎士らは彼を侮辱した。その時――少女と騎士らの認識。その乖離が表れた。

 自らを捨てた騎士らより、自らを拾い救った彼こそ、少女の救世主なり得た。


 騎士らを拒む少女の意思。それを無視し腕を強引に掴んだ騎士らの姿。それに憤った彼は騎士たちの目前に現れ、少女へ手を差し伸べた。

 その手を掴んだ少女は騎士らの目前から姿を消した。差し伸べられた手と共に。


                          終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ままま ネミ @nemirura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る