第7話 転職エージェントの裏側5
金城は石原の話を聞く中でずっと疑問に感じていたことがあった。金城が利用している求人サイトの石原の評価点が極めて低かったのだ。でも目の前の男性はその前評価を大きく覆すほど、素晴らしい人物に感じられた。自分の感性が変なのか、何か他に理由があるのか、、、気になったことは聞かずにはいられなかった。
「もう一つ、聞いていいですか。失礼かもしれないですが、石原さんのサイトでのご評価がそれほど高くないように感じたんですが、他の方はもっとすごい人たちなんですか、、、?」
金城は言葉選びを間違った、と反省したが石原は気にもとめない様子で笑いながら自虐的に答えてくれた。
「ハハハ、、、ご配慮ありがとうございます。高くない、というよりめちゃくちゃ低いですよね。」
「、、、ええ、確かに。」
「一概に何をもってすごいかの判断は人それぞれかな、とは思いますが、サイトの仕組みだけお伝えしますね。あのサイトの評価点を決めるのは、あのサイトを通してスカウトのメールを送った数や返信してもらった確率という活動量と、サイトを通じて転職をした人の数が大きな部分を占めるからです。」
「量、数、ですか?」
「そうです。量と数です。しかもそのサイトの中だけの話です。」
石原はペンを強くいじりながらつづけた。
「これも先ほどのお話と同じで、何をゴールにしているかというお話で、求人サイトのゴールはサイトの売上が上がること=一人でも多くの人が転職することなので、それを満たすエージェントを高く評価していきます。そのための量や数ですね。ただしそこには利用した人の幸せや満足度は度外視される傾向が強いです。」
「でもよくコマーシャルとかで満足度No.1とかうたっているサイトもありますよね?」
「そうですね。とてもキャッチーなキーワードですよね。ただ何をもって満足度を図っているのかはそれほど言わないですよね。」
言われて見ると確かにそうだ。
「日本人全体を見たときに権威に弱い傾向がある、という判断からそのようなキャッチコピーがどのサービスでも見受けられます。ただ本当の満足度というのは、個々の方々でそれぞれ求めるポイントが違うもので、一律で定義できるものではないと思います。」
「確かにそうです。化粧品でも満足度No1のものを試したこともありますが、自分の肌には合わなくて、、、」
「そうですよね。言っては何ですがお化粧品であれば合わなければすぐに別のものに変えればよいですが、人生を左右する転職では、合わなかったからといって簡単に辞めて解決することではないですよね。」
石原のお話はごもっともだったが完全に意識できていない話だった。大きなこと、小さなことを含めて目に見える一つ一つのことに、本質に気づくヒントはあったのに、何も見えていなかった自分が恥ずかしくなった。それと同時に大きな1つの想いも膨らんでいった。
金城はこの想いをぶつけて良いものか、、、と考えてはみたものの、考えるよりも早く衝動が勝ってしまい、気づけば想いをぶつけてしまっていた。
「、、、石原さん、私のことをどう思いますか!?」
唐突な愛の告白と取れる言葉に、それまで静観していた桜井は大きく口を開いて金城を見つめて、口をあんぐりとあけたまま固まってしまった。
そんなことは気にも止めず石原は冷静に答えた。
「とても強い探求心もお持ちで、それに伴って向上心もお強いと思います。何より誠実に一つ一つのお話を聞いてくださり、ご理解いただけるスピードも早く、大切なポイントを押さえてご質問頂けるのでとても助かりました。」
金城は自分の見た目だけを褒めてくる男にはごまんと出会っていたが、内面にばかり触れて承認してくれる男は初めてだった。それでもまだ確かめたいことがあった。
「ありがとうございます。、、、では逆にダメなところはどこですか?!!」
さすがの石原も金城の圧力に圧倒されながらも答えた。
「え~~~っと、これは私なりの考えなのでご参考までに、ということですが、ダメなところはない、というのが答えかと、、、」
歯切れの悪い答えで納得する金城ではなかった。
「どういうことですか!??」
「良い、悪いを決めるのは環境です。ある環境では良いとされることも、ある環境では悪いとなります。例えばうちの会社では、たくさん失敗できる人が評価されますが、一般的な会社ではそうではないケースが多いと思います。」
「なんで失敗したら褒められるんですか?」
「それは失敗というのは頑張ってできないことにチャレンジした結果と私は考えているからです。失敗しない=自分のできることしかしない、とも言えますし、失敗しない方は大きくは成長しない傾向にあるからです。特にうちのような小さな会社では、毎日が挑戦の連続なので、たくさん挑戦して、たくさん失敗できる方の方が向いているからです。」
石原はたとえ話でしてくれただけだと思うが、金城が今の会社で不満に思っていることをそのまま言葉にしてくれたように感じた。
金城はその見た目からか、新人の頃から目立つ存在だった。良いことも悪いことも人の目に留まりやすいのだが、どうしても悪いことばかり周囲に指摘をされてきた。他の人であれば目につかないような失敗も、結果的に良い方向に転がったような失敗も、金城の場合は失敗だけを周囲から指摘され、評価があがることには全く繋がらなかった。だが金城としてはその失敗と向き合ってきたことで、同世代のライバルよりも大きく成長をしてこられた自覚があった。
石原の言葉をきっかけにこれまでの認められなかった努力が走馬灯のように駆け巡り、その全てを承認してもらえた気がして、涙が出そうになった。
その様子を見ながら、更に石原は続けた。
「なのでご自身の性格で良いもの、悪いものは何か、という考え方よりも、それらは全て個性で、その個性が良い武器として発揮される環境か否か、という観点で物事をみるタイプの人間なので、悪いところと聞かれると答えられなくてすみません。」
そのように語る石原はきれいごとではなく、本心から語っているように感じられた。これも実体験からくる言葉だからだろう。金城はその言葉を聞いて決意した。
「石原さん、、、私もGEARで働きたいんですが、選考してもらえますか?!!」
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