第4話 転職エージェントの裏側2

石原の発した言葉に金城は強い興味を持って聞き直してしまった。


「存在意義?でしょうか。」


「そうです。金城様は何となく企業がお金を払って転職市場が動いていることはご存じでした。でもそこに疑問を感じられることはなかったかと思います。」


「はい、今も何をおっしゃっているのかまだちゃんと理解できていないです。」


「では一つたとえ話をさせて頂きますね。金城様は現在住宅メーカーの営業職としてご勤務されていますね。金城様にとって大切なお相手は誰ですか?」


「それはもちろんお客様です。」


これは金城が入社以来、研修でも、現場でも口酸っぱく「お客様第一」と言われていることもあり、自然と口に出た言葉だった。


「はい、おっしゃる通りです。余談ですが、私も新卒で働いていたのは住宅メーカーでした。」


石原との思わぬ共通点で金城は更に親近感が沸くのを感じた。


「住宅メーカーの営業職として大切なのはお客様。では家を建てるのに必要な部材を売ってくれる建材メーカーや、設備メーカーさんなどはどのような存在でしょうか?」


「大切なパートナーと教えられています。」


「そうですね。私もそう教わりました。では実際の現場目線での関係性はどうでしょう。建材や設備メーカーさんから接待をされることや、お客様の希望を叶えるためにこちらから値引き交渉や、納期の短縮交渉などはされませんか?」


「しています。ついついお客様が困っていらっしゃるのを見ると、少しでも安くして、少しでも早く工事を終わらせたいと思います。」


口にはしなかったが、飲み会の場などでも、ペーペーである自分にかなり年配の方がお酌をしてくれて、ゴルフに行ってもあからさまに持ち上げてくださっている風景や、自社の工事監督が下請け業者の方々を怒鳴り散らかしている様子が頭に浮かんだ。


「それが業界として当たり前ですよね。パートナー、ときれいな表現をしていても、実態は明確な上下関係が存在します。」


「おっしゃる通りです、、、」


金城も日ごろ、その点については違和感を感じてはいたが、だからと言って業者さんとの関係性を変えることはできていなかった。


「ではなぜ仕入れ先企業と違い、お客様はそれほどまでに大切にされるのでしょうか?」


「それは、、、お金を支払って頂いているから、ですか?」


「おっしゃる通りです。整理するとお金を支払っているお客様の要望を叶えるために、必要な建材などの商品を、必要な価格と納期で調達をされて、良い家が建ちます。そのお手伝いを金城様はされていますね。」


金城は少しずつ石原の意図が見えてきた。


「では今の構図を転職市場に置き換えてみましょう。転職市場でお金を支払っているのは求人している企業です。そしてそのニーズを満たすためにお手伝いをしているのが転職エージェントで、企業のニーズ、欲求を満たす“商品”として存在しているのが求職者の皆様、そう、金城様という構図になります。」


桜井も以前同じ説明を聞いたのだが、前回はその時の相談者の経歴に合わせて通信会社のビジネスモデルを例に説明をしていたのを思い出し、相手に合わせて例えを変えられる石原をあらためて尊敬していた。


金城は衝撃を受けていた。なぜ考えたら当たり前のことに疑問を持てなかったのだろう。そんな自分への嫌悪感すら抱き始めていた。その様子を見てか、


「金城様が驚かれるのも当然です。日本では幼少期から成人するまでの長い、長い時間をかけて、“疑問を持たないための教育”がなされているからです。これも仕組みの問題で金城様は何も悪くないです。」


と石原はフォローしてくれた。

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