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「えっ」


………………

…………

……


「ここ、は?」


キョロキョロと周囲を見渡します。

……ああ、そう、そうです、某の家の前、です。


『普通の住宅街』の中にある、普通の一軒家。


空を見上げれば、晴天が広がっていて、陽光の眩しさに目が眩みます。

何故、一瞬、自身を見失っていたのでしょう。

なんだか、長い夢でも見ていた気分です。

夢の中身は忘れましたが、そこでは、『別の自分』として生きていた様な、そんな白昼夢。


ガチャ 「あれ? なにボーッと突っ立ってんの?」


背後から声を掛けられ、振り返ります。

「……母、上?」

「どこの時代劇よ、ほら、遅刻す……って、なに急に泣いてんの? そんなに学校、行きたくない?」

「なにー? どしたー? (ひょっこり)」

「お、お婆様も……?」

「どこの貴族だい?」

「二人とも、亡くなった筈では……」

「「殺すなっっ」」


母と祖母に頭をはたかれ、「はよ学校行け」と放り出された。


……学校、学校、か。

某は、今、制服を纏っていました。

学生、なのでしょう。

記憶は未だ朧げで、まだ完全に夢から醒めきってない感覚です。


しかし、足は勝手に動いていて。

気付けば、学校前に到着していました。


……手持ち鞄に入っていた学生証を確認するに、ここで間違ってない様子です。

『なにに影響されたか知らないけどその変な話し方戻しとけよ』

母上から追い出され際に念押しされた言葉を思い返します。

話し方……話し方……


キャハハー エグイテー ウケルー ヤミケー ピープスー アタオカー


某の横を通り過ぎ、校門を潜っていく女生徒二人組。

……ここは海外でしょうか?

何を話してるのか、さっぱり理解出来ません。

いえ、単語を読み解けば解読出来ないでも無いですが……。


「あー、神代ちゃん、おはー」「今日も金髪キレーだねぇ」

「(ビクッ)あっ……ど、どうも」

「なんかテンション低ー」「ウケルー」


背後から声を掛けて来た別の女生徒二人が、笑いながら離れて行きます。

……こちらの存在は認知されてる様子ですが、某の方は記憶に御座いません。

会話の内容からして、普段の某は、快活な女だった?

どんな立ち振る舞いをしていたのか……ふとした時に思い出せるのか……今は不安しかありません。

いっそ、今日が入学初日なら良かった。

誰も、某を知らないので。

……上手く演じなければ。

変な子だとは思われて、結果人が離れて、孤立する未来は避けたいです。


——ゾワッ


「っっ……」


不意に、肌が粟立ちます。

誰かが……某の側を通り過ぎて……


「はぁ。学校ダル」


背中まで伸びた黒髪を揺らす女生徒。

大人びた雰囲気の方で、幸が薄そうで、妙に色っぽくて……

そして、何か、『黒いモヤ』のようなモノが、彼女の周囲に纏わりついています。

不吉、しか感じぬナニか。

……ああ、少し、思い出して来ました。


我が家——神代家は代々、巫女の家系『だった』らしくって。

母も祖母も、ふとした時に、あのような『よくないモノ』が見えるのだとか。

しかし、除霊のような専門的な事を出来る者は今はおらず……見て見ぬ振りをしていたとの事でした。

当然、某にもその選択肢しかありません。


「あ、あのっ」


だというのに、気付けば、彼女を呼び止めていました。


「ぁん? なに? 私?」


当然、相手は訝しげに某を見ます。


「てか、誰だっけ? 同学年、みたいだけど、外人さんなんて居たかな……日本語、通じる?」

「(コクコクッ)」


この方は、どうやら某を知らないご様子です。

なんと『都合の良い』。


「ふぅん。で、なに?」

「あの……その……それ……じゃなくて……わ、私と! 放課後! 遊びに行かナイ!?」

「ええ……」


ま、不味いですっ、凄い怪しまれてますっ。

それに、慣れない言葉遣いでイントネーションも変な感じにっ。

インチキ外国人みたいな喋り方ですっ。


「いや、別に遊びは良いんだけど……どこに?」

「じ、神社ッ」

「特殊すぎるでしょ、パワースポット巡りでもしたいの?」

「ならお寺でもイイッ」

「似たようなもんでしょ……プッ」


わ、笑われてしまいました……除霊出来そうな場所を挙げただけなのですが……。


「あんた、面白いじゃん。名前は?」

「そ……わ、私は、神代 『ミヤコ』ダヨッ」

「そ。私は『ヒトミ』」


友達が出来ました。


——その日の、朝のホームルームにて。


「えー……突然だが、こんな時期に転校生だ。ほら、そんな不貞腐れた顔じゃなく笑顔で挨拶してっ」

「……田道間クノミです(ぶすぅ)」

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