4 【EP2】

【EP2】


風呂を上がって。


「で、部屋に戻って来たわけだけど、この後の予定は?」


「お世話ですっ。先ずはおぐしを乾かしましょうっ。そこのソファーに座って下さーい」

「僕は自然乾燥派なのに」

「それでこんなに髪が傷んでないって凄いですねー」

素直に長ソファーに腰掛ける僕。

後ろでカチャカチャと準備をしていたクノミちゃんだが、「ふっふっふー」どうやら終わったようで、僕の隣に座り、サラリ……湿った僕の髪を撫でて。

「はぁはぁ……半乾きな髪と小さな横顔が凄く色っぽくて……なんだかドキドキしてきます」

「貞操の危機を感じるから後ろ向くね」

クルリとソファーの上で体育座りになると、「これもこれで……」と更に鼻息が荒くなった、なんでもありか。

背後から襲われるのを懸念していたが、踏み留まってくれたようで、ドライヤーのスイッチをオン。

「ドライヤーテクには自信ありますよー、いつもおチビちゃん達にやってますのでー」

「ドライヤーに上手いも下手もあるのかよドライブテクみたいに言いやがって。いや、あるか。変なハネとか作らないでねー」

まぁ、口で言うだけあってドライヤーの当て加減は絶妙だ。一点が熱くなりすぎずホワホワと気持ち良い。眠くなって来た。

「はーい、終わりですよー。……(くんくん)はぁ……同じシャンプー使ってるのに、どうして瓏さんのはこんなに良い匂いするんでしょう……」

「ええい、頭皮に直に鼻くっつけるな」

「カプカプッ」

「ひえっ、耳を噛むなっ」

「ふふっ」

明らかな味見の動作。

お風呂で煮た後は僕を美味しくいただくつもりだな?

「さぁて。次わぁ……えいっ」

強引に後ろに引っ張られた僕はそのまま倒れ込んで……ぼいんっ、一度彼女のおっぱいで後頭部をバウンドさせ……ぽふんっと、太ももに着地した。

「ふっふっふ……次のお世話は耳掻きですよぉ」

「誰だ……? ここからじゃ天井と出っ張った乳しか見えない……」

「クノミですよっ」

両手で彼女は乳を押し潰し顔を覗かせた。

クノミちゃんだったか。

「耳掻き、ね。体内の不純物を取り除いて美味しく頂こうって魂胆だな?」

「よく分かりませんがそうです」

「やっぱり!」

震えていると「ジッとしてて下さいっ」と体を横にされ、側頭部を太ももに押さえつけられた。

「腕前は女将さんから太鼓判おされてるんで大丈夫ですっ。挿れますよー(ずぶっ)」

「あふんっ」

風呂上りで湿った僕の穴に容赦無く棒が侵入する。


コリコリ……カリカリ……ゴリゴリ……


耳というのは繊細な器官だ。

ここほど『命』と直結する所もないだろう。

耳を掻く音は体全体に響き、それが一層恐怖を掻き立てる。

経験者ならば理解出来る筈だ、この緊張感を。

奉仕をされているのではなく、この命を握られている感覚を。

「じゃー、次は反対にーゴローン」

ゴローン。

「うふふー。なんだかこうしてると昔を思い出しちゃいますねー。よく『妹』と一緒にママからやって貰ってたんですよー。私がこーして殿方にするだなんて夢にも思いませんでしたー」

「へー。そういえば住み込みだっけ。たまには里帰りしてるの?」

「いーえ? ひーふー……今が一六歳なんで、もう『十年』は帰ってませんねー。妹も大きくなってるでしょうねー」

「ふーん。仕事熱心な事だよ」

六歳の子供が家にも帰らず宿の仕事をしている。

まぁそういう環境も無くはないのかな。

「瓏さんのご家庭はどのような感じですかー?」

客のプライバシーをずけずけと訊いてくる彼女には一切悪意など無いのだろう。

ただの興味。

話の流れ的にもおかしくはないし。

「僕は今『一人暮らし』してるからねぇ。家族は……基本『母親と兄』で、仲はまぁ『悪くは』無いよ」

「一人暮らしっ。凄いですねー。私なら寂しくて無理ですよー」

「そうかな。『人と居るより一人の方が寂しく無い』って考えもあるんだよ」

「私には理解出来ませんねー。毎日女の子達に囲まれた生活から、急に一人になるだなんて考えられませんよー」

「それが普通だよ」

僕が特殊な家庭環境なだけで。

「みんな、小さな頃からここに居て、一緒に長い時間を過ごした家族ですからねー。あ、でもー。いつまでもここに居るわけじゃ無いんですよー。決まって、担当したお客様を『追って宿から出て行く』んですー」

「……うん?」

背中にヒヤリと冷たい汗が伝る。

「ここってー、一人のお客さんに一人の女中が担当するって言ったじゃないですかー。不思議なもので、女の子はみんなその時お世話したお客さんを好きになって『山を降りる』んですー。今まで、何人ものお姉様方をお見送りしましたねー」

「そ、そう。じゃあ、二人と別の客を担当する事はないって事ね……」

「はいっ。殿方が苦手だったり、怒りっぽかったり、ミステリアスだったり……今まで個性豊かなお姉様方が居ましたけどー、みんなお客さんを好きになっちゃってー」

「ふ、ふーん」

「不思議ですよねー。まるで……担当したお客さんが、『運命の相手』みたいで……」

カリッ。

耳掻きの動きが止まる。

怖っ、ホラー映画のワンシーンかな。

「ほ、ほら。普段男の人が側にいないから惚れっぽくなっちゃうんだよ。場のノリ、ってやつ」

「うふふ……やはり、この出逢いは運命……出て行ったお姉様の言ってた通り……『お客さんをひと目見た瞬間理解(わか)る』って……本当だったんですね」

スッ―― 耳掻きが抜かれた。

ざわざわ …… ざわざわ ……


「あ、そうだ、良いとこに案内しますっ」

そう言って急に起こされ、手を引かれ、部屋から廊下に出て、二つほど隣にあったその場所とは――

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