桜が散るその下に

きたっを

はじまり

彼女は、杉原さくら。福岡県の田舎生まれ、田んぼに囲まれて育った女の子。


彼女が生まれてすぐ、両親が交通事故に遭った。彼女を祖母に預け、買い物の帰り道のことだった。


事故現場には、たくさんの子供用服、離乳食が散らばり、そして

大きな大きな桜の木がそびえたっていた。


そこに、祖母は墓を作った。


両親から名前を聞いていなかったので、孫にさくらと名付け二人での生活が始まった。



「行ってきまーーす!」


今日も、体のサイズには合わないランドセルを大きく揺らしながら元気に家をでる。


「さくらちゃん、行ってらっしゃい!」


田んぼばかりの街に元気な女の子が生まれたと、彼女は町中の人気者だった。



時は過ぎ、、



「じゃあ、行ってくるけんね!ぜーーったい帰ってくるけん!みんな元気にしとってよ~~~!」」


町の皆に思いを伝えた後、あの大きな大きな桜の木へ向かった。


風が強く吹き、散った桜が彼女を包み込んだ。


お母さん、お父さん、ありがとう。行ってくる。


祖母もすでに亡くした彼女にはこの大きな大きな桜の木が心の支えだった。


お母さん、お父さん、行ってくる。


心の中で何度も何度も祈り、彼女は駅へと向かった。


ドクン。ドクン。胸の高鳴りが横にいるおじさんに聞こえていないか心配になるくらい彼女は緊張していた。


そう。初の東京。上京だ。


友達、できるかな。どんなバイトしようかな。楽しいことを考えていくうちに、緊張もだんだんとほぐれていくのが自分でも感じ取れた。


東京駅。


福岡にももちろん都会はある。だが、ずっと田んぼに揺られていたさくらは人の多さ、建物の高さにポカンと立ちすくんでいた。


ディズニーランドの袋を持った女子高生、髪の毛を明るく染め上げた女子大生。見たことのない風景に心を躍らせていた。


駅から徒歩5分。学校までは電車で15分。申し分のない立地。

祖母の貯金を譲り受けた資金でいままで生活をしていたのでお金はもちろんなく、

ワンルームの小さな部屋だったが、ここでの一人暮らし生活が始まった。


さくらにとって「死」は身近なことであり悲しさは誰よりもわかる気がしていた。


そんな死に関わりたい、救える命は救いたいと、看護師になる道を選んだ。

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