第201話 拠点の館

「ったく、何でアンタの護衛までしなきゃなんないのよ」




 どうも小百合さんから、外出する俺の護衛役としての任務を授かったようだ。




「ケイちゃんってば、『神の御使い』様の護衛ができるなんて大役だよ? それだけ私たちが信頼されてるってことなんだから」


「信頼されてるのは嬉しいけど、だったら別の任務が良いわよ。せっかく最近実力が認められて『狩猟派』に配属されたってのに……」




 『乙女新生教』には、役目に応じて派閥が存在する。




 その中の『狩猟派』というのは、主に男狩りを任務とする者たちだ。つまりは教団の戦力そのもの。しかし誰もが配属できるわけでなく、戦う意思があって、その上で腕が立つ者が選ばれるというが、どの程度が最低基準なのかは分からない。




 腕が立つといっても、やはり女性だし、軍隊のような特別な訓練も受けているとは思えないので、実際には武器の扱いが上手い者という選別基準なのかもしれない。




「それに知り合いって、確か『イノチシラズ』っていう野蛮なコミュニティなんでしょ? 一体そいつらがどんな理由でアタシたちに接触してきたってのよ?」


「さあ? そればかりは当人にしか分からないよ」


「何よ、使えないわね」


「だからケイちゃん、失礼だってば!」


「いいのよ別に。どうせ男なんだし」




 恐らくだが、そうやって俺を挑発し、俺が我慢できずに手を出した時、それを理由に殺すつもりなのかもしれない。それだったら言い訳もつくしな。




 ただ俺にとってコイツの態度なんてそよ風みたいなものだ。もっと汚い、泥に塗れたような感情に晒され続けていた俺の精神力は、そう簡単に揺らぐことはない。




 それにそもそもコイツには、それなりの理由があるからということも知っている。沙庭が口にできないほどの悲劇に見舞われたことも。




 だからって俺に怒りをぶつけるのは間違っているとは思うが、俺も似たような考えを持っている分、コイツ……釈迦原のことを否定できないんだと思う。


 コイツは男を認めていない。




 俺は人間に期待していない。さすがに全滅しろとまでは思わないが、別に全滅したってどうでもいいくらいの考えはある。


 程度の差こそあれ、釈迦原と俺は恐らく……同じ穴のムジナなのだろう。




 すると走っていた車が停止し、本当にそれほど離れていない場所が目的地だったのだということを知る。




 車から降りると、目の前には古い洋館が建っていた。まるでホラーゲームにでも出てくるような怪しげな雰囲気を持っている。




「ここは我らが拠点の一つです。どうぞ中へ。会議室がございますので」




 そう言うと、小百合さんが青頭巾や信者たちを引き連れて中へ入って行く。


 そのあとに崩原も、チャケたちを連れて続く。




「何度来てもここって幽霊が出そうだよね」


「ちょっと止めてよ凛羽!」




 沙庭の一言に、怯えたようにキョロキョロと周りを見始める釈迦原。




「もしかしてホラー系が苦手なのかい?」


「べ、べべべ別に苦手じゃないわよ! つーかいきなり話しかけないでよね!」


「もうケイちゃん……ごめんなさい鳥本様、ケイちゃんは怖いのが嫌いで。お化け屋敷もダメだし」


「ちょっと凛羽! 余計なことを言わないでよ!」




 うん、態度から大分苦手のようだ。これは面白いことを聞いた。いつかそっち系で怖がらせてやるのも愉快かもしれない。




「お化け……か。ま、知らない方が良いかな」


「な、なななな何よその言い方! も、もしかしてアンタ、その……見えるってタイプの奴なの!?」




 俺が意味深なことを言ったがために、さらに俺から距離を取ってしまう釈迦原。




「さあ……どうだろう。ただ……」


「ただ……何よ?」


「この館には……」


「や、館には?」


「……いや、言わない方が良いこともあるよ」


「そ、そこまで言ったら言いなさいよねっ! アタシたちはここに何度も来ることになるんだからぁ!」




 涙目で俺を睨みつけてくる。




 あ、そのうちからかってやろうと思ったが、ついつい即撃ちしてしまった。




 しかしまあ、思った以上の反応で面白い。




「そんなことよりさっさと行かないと小百合さんに叱られるよ」


「うぅぅぅ……」


「ケイちゃん、大丈夫?」


「だ、大丈夫よ……ええ、大丈夫決まってるわ。お、お、お化けなんていないし。存在しないし。そうよ、たとえいても見えない以上はいないのと一緒よ」


「……あっ!」


「にゃあぁぁぁっ!?」




 俺が急に大声を上げたので、驚いた猫のようになって逃げて行く釈迦原。




「ああ、ケイちゃん!」


「あはは、ちょっとやり過ぎちゃったかな?」


「すみませんケイちゃんってば護衛役なのにどっか行っちゃって……」




 呆れたように沙庭が俺を見てくる。




「いやいやごめんごめん。俺がちょっとからかい過ぎただけさ。俺は先に中に入るから、二人はゆっくりおいで」




 俺は手を振ると、そのまま一人で洋館へと入っていった。






 会議室には円卓が部屋の中央に設置されていて、両者の代表が対面する形で座り、それぞれの連れは、その背後に控えるというスタンスを取っていた。


 ちなみに俺は、その両者の中央の椅子に腰かけて、成り行きを見守ることにしている。




 すると会議が始まる直前に、釈迦原と沙庭が入って来て、彼女たちは俺の後ろへつく。その際に釈迦原から「覚えてなさいよね!」といったような鋭い視線をぶつけられたが無視しておいた。






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