第189話 スキル購入の見送り

〝殿はどういったスキルを御所望なのですかな?〟


〝う~ん、そうだなぁ……やっぱ生存率が上がるスキルが欲しいな。いきなりSランクのモンスターの襲撃に遭っても、どうにかなるような?〟


〝たとえ殺されたとしても《リスポーンタグ》がある故、結果的には何とかなるのでは?〟


〝それは殺された場合だろ?〟


〝む? どういうことですか?〟


〝例えば、対象を一瞬で麻痺させたり、眠らせたりできる相手だったら?〟




 そういう効果を持つファンタジーアイテムもあるが、どれもSランクの力には耐えることができない代物ばかりだ。やはりそれだけSランクの力は強力だということらしい。 




 もちろん時間が経てば、さらに強い耐性を持つアイテムがアップデートされる可能性は十分にあるが。




〝それに怖いのは封印系の力を持つモンスターがいた場合だな〟


〝封印系……ですか?〟


〝ゲームでもあるしな。相手の能力やスキルとかを封じる力を持つヤツ〟




 もしスキルを封印でもされたら最悪だ。一時的だとしても、〝SHOP〟も開けず、さらには《ボックス》も活用できないとなれば、大幅な戦力ダウンになってしまう。




〝なるほど。確かに相手の力を封じる能力を持つモンスターは存在しますな〟




 シキは唸りながら言う。




 俺は別に驚かない。何せ封印を解除するためのアイテムや、封印防止のアイテムなどが売っているからだ。売っているということは、つまり封印は存在するということ。




 そしてこのアイテムもまた、完全に封印を防止することはできないものばかりだ。


 早くSランクモンスターに対抗できるようなアイテムが、次々とアップデートされることを願うのみである。




「とりあえず今はスキル購入は見送るか」




 それよりももっと金を貯めて、できればカザやシキをSランクに進化させたい。


 今でも一人だけなら進化させるだけの資金はあるが、百億が一気に泡となって消えるので躊躇いが生まれる。




 それにこれから【幸芽島】も、より発展させたいと思っているので、金は幾らあっても足りないのだ。


 信頼できる者たちだけを集めた島で、のんびりスローライフを送る未来は、まだまだ遠いのである。




 もういっそのこと、住民が逃げて放棄された家などを勝手に売却してやろうか。


 そうすれば一気に目的の金額まで近づくことができるが、それは最終手段にしていることからも悩む。




 イズにしてみれば、こんな世の中になり法律など皆無になったのだから、俺の好きなようにしても良いというが、何となくそんな手あたり次第な感じが、俺の美学に反してしまう。




 何の役にも立たないちっぽけなプライドかもしれないが、悪党でもない奴らから問答無用で奪い取るという選択肢は今のところ選ぼうとは思わない。




 本当にどうしようも無くなった時や、所有者が完全にこの世からいなくなったことが分かった時に考えよう。




〝では殿、この教団の者たちにも武器や食料などを売れば多大な利益になるのではないですかな?〟


〝う~ん、確かにそうだけどなぁ〟




 これだけの規模の集団なのだし、大口の商談になることは間違いないだろう。




〝でもその分、男がこの世から減っていくスピードも増すぞ?〟


〝む、確かに。しかし他の連中のことなどどうでもよいのでは?〟




 シキにしては珍しく冷たい意見だ。いや、そもそもコイツらは俺の利益になることしか考えていないので当然といえば当然か。




〝まあ考えとくか。武器はともかくとして食料とか日用品関連の商談だけでも十分利益になるからな〟




 シキとしばらく話したあと、俺はトレイを持って部屋を出て、沙庭に言われた通り台車にトレイを置いておく。




 そのまままた資料室で時間を潰していると、階段がある方角から「お疲れ様です!」という立場が上の人に言うようなビシッとした声音が聞こえてきた。


 カツカツカツと、足音がこっちへと向かってくる。




 どうやら誰かが俺を尋ねてきたようだが……。




 待っていると、驚くことに小百合さんが直々に会いにきた。もちろん青頭巾という護衛を引き連れてだ。


 てっきり部下というか、信者に言伝すると思ったが……。




「おはようございます、鳥本さん」


「おはようございます、小百合さん。さっそく依頼ですか?」


「少々お話したいことがあるのです。私の執務室までご同行頂けませんか?」


「俺を呼び寄せるくらい、信者を使えば良かったのでは?」


「少しこちら側に来る用事がありましたので。お願いできますか?」




 俺は「了解しました」と言い、小百合さんのあとについていくことにした。


 執務室は別の建物にあるようで、一旦空の下へと出ることになる。




 晴れ晴れとした空を見上げ、俺が大きく伸びをするのを見て、小百合さんが申し訳なさそうに言ってきた。




「すみません。本来なら地下などではなく、もっと見晴らしの良い部屋をご用意するべきですのに」


「ああ、別に構いませんよ。旅なんてしてますけど、気質はインドア派なんで問題ありません」


「そう言ってくださると助かります。今信者たちに鳥本さんに相応しい部屋を整理させていますから、もうしばらくお待ちください」




 どうもあの地下室が俺に用意された私室ではなかったようだ。




「いいんですか? 男を特別扱いなどして。周りからの反発が激しいでしょうに」


「特別な存在を特別に扱うことに異論など持ってはいけませんよ」


「そこまで評価されているとは嬉しい限りですね。それが美しい女性なら尚更だ」


「ふふ、お上手ですね」




 うん、演技とはいえ、自分で言ってて背筋が凍りつく思いだわ。




 青頭巾の一人からは、「何を口説いてる?」的な睨みをぶつけられたが、軽やかにスルーしておいた。


 二階建ての建物の中へ入り、階段を上って二階にあるという執務室へと向かう。








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