第82話 驚愕の告白
「けどどうすんだ虎門? あの野郎……バケモノまで仲間にしちまった」
「そうね。あなたが情けなく蹲っていた間にね」
「うぐっ……悪かったな。けどこっからはもう折れねえ! ぜってーにアイツを倒してやる!」
「その意気で最後まで願いたいものね。――シキ」
「はっ、ここに」
俺の影の中からぬぅっと現れるシキ。
その姿を見て、「何だアイツは?」と流堂が怪訝な表情を浮かべている。
「アレに勝てるかしら?」
「ブラックオーガ……別名『黒の巨兵』。かつて一体で一国を滅ぼした怪物ですな。確かに単純な力では向こうの方が上ですが……力だけですべて決まるわけではありませぬ」
「……やれるのね?」
「無論。姫が望むのであれば、たとえSランクでも屠りましょうぞ」
「頼もしい言葉だわ。――行きなさい。あなたの力をこの場にいるすべての者に見せつけてやりなさい」
「――承知!」
シキがその場から消えたように動き、瞬く間にゾンビを瞬殺しながら駆け寄り、ブラックオーガの懐へと到達する。
そのまま右腕の鎌を振り、ブラックオーガが纏っている黒炎を切り裂いた。ブラックオーガも、そんな簡単に炎の鎧を切り裂かれるとは思っていなかったのかギョッとする。
「お主の相手を賜ったシキと申す者。まずはその邪魔な鎧を切り払ってみせよう」
うわぁ、もうアイツが主人公っぽいよなぁ。動きやら喋りやらカッコ良いのなんのって……。さて、あとは……。
「崩原さん、どうやらもう勝負なんてどうでもいいみたいだから、あのバケモノは私たちが始末をつけるわね」
「流堂が勝負を放棄しやがったからな。まあそうなるとは思ってたけど。だがあの野郎だけは俺が倒すぜ」
「そのためには道を切り開く必要があるわね。その道を私たちが作ってあげる。……勝てるわね?」
「もう二度と奴には屈しねえよ!」
その揺るぎのない瞳を見て、完全に崩原才斗が復活したことを知る。これならおいそれと後れを取ることはないだろう。
「ならついてきなさい!」
「おうよ!」
「ソル! ゾンビどもを排除!」
「はいなのですっ!」
ブラックオーガはシキが何とかする。あとはこの無駄にいるゾンビどもだ。多くはブラックオーガによって屠られたとはいっても、まだまだ数はいる。
それをソルと俺で引きつけ倒していく。その隙を突いて崩原を、流堂へと送るのが使命だ。
「――と、虎門、後ろだ危ねえ!」
不意に崩原の声が轟き、背後から迫って来るゾンビに気づく。
「…………ソル」
直後、俺を中心にして竜巻が現れる。ただの竜巻ではなく、炎を纏った紅蓮の渦だ。
それが俺の周囲にいたゾンビたちを飲み込み、燃やしながら上空へと弾き飛ばしていく。
この現象を引き起こした存在はソルだ。
「す、すげえ……! てかソル、お前のその身体……!?」
崩原が驚くのも無理はない。今のソルの身体が、全身が炎で構成されているかのように燃え上がっていたのだから。
そんなソルが、音速で俺の周囲をグルグルと飛行することにより炎の竜巻を発生させたのだ。
これがBランクへと上がったソルの真骨頂――《炎化》による技である。
この状態のソルには物理攻撃はほとんど効かない。攻撃速度も飛行速度も上がる、まさに無敵状態というわけだ。
ただこの最強モードには時間制限があるので、おいそれと使用はできないが。
そして俺もまた《桜波姫》の隠された力を発揮する。
俺は刀を地面に突き刺す。
「――《
すると突き刺した先の地面が突如桜の花びらに変化し、その上にいたゾンビどもが落とし穴にかかったように落下していく。
その際に撒き上がる桜は見惚れるほどに美しい。
「お、おいおい、んなこともできんのかよ……」
当然とばかりに崩原は目を丸くしている。流堂も信じられないといった面持ちだ。
「伊達に大金を叩いて購入していないわ」
見ての通り、この《桜波姫》は突き刺した対象を、ある一定の範囲ならば桜化することができるのである。ただし無生物に限るが。
それに使用するだけで達人並みの立ち回りもできるようになる。これと《パーフェクトリング》を合わせるだけで、Bランクまでなら単独で相手にできる力は得られるようになるのだ。
「道を切り開いてあげたわ。あとはあなたの役目よ、崩原さん」
「おう! 感謝するぜ!」
流堂へと繋がる道に立ち塞がるゾンビを落下させたことで、崩原の前には障害がなくなった。
「ちっ、おいブラックオーガ! いつまでグズグズやってる! さっさと俺を守りやがれ!」
その命令を聞こうとブラックオーガが、崩原に意識を向けようとするが、黒炎を切り裂いてその先にある肉体に裂傷が走る。
「グラァッ!?」
「……申したであろう。お主の相手はそれがしだ」
さすがはシキ、その姿に憧れるし痺れるのだが、マジでアイツが主人公じゃね?
俺はそんなことを思いながら、ソルとともにまだまだ湧き上がってくるゾンビどもを一掃している。
「クソが! せっかく手に入れた駒も役立たずか! んだよあの忍者もどきはぁぁ!」
「流堂ぉぉぉっ!」
「崩原ぁ! 粋がってんじゃねえぞぉ!」
再び崩原が右拳を突き出していき、流堂もまた同じように拳を放つ。
「学習能力がねえのかてめえはぁ! また腐らせてやるよっ!」
両者の拳がぶつかった直後、今度は流堂の拳の方から骨を砕いた音が轟いた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!?」
見ればたった一つ残った流堂の左拳から、痛々しいまでに血液が流れ出ていた。しかも砕かれた骨が皮膚まで突き破っている様子。
どうやら今度は崩原の方が上回ったようだ。
「てっ、てめえぇぇ……っ!」
「――《崩波》。お前がスキルを使うなら俺だって使わせてもらうだけだ」
恐らく拳が衝突する際にスキルを使って、相手の腐食の攻撃が届く前に衝撃で粉砕したのだろう。
「これでお前はもう両手が使えねえ。終わりだな、流堂」
「クハッ! 舐めんなっ! たかが両手が使えねえだけでこの俺が殺られるわけがねえだろうが!」
すると流堂がそのまま崩原へと迫っていき、烈火のような勢いで蹴りを放ってきた。
その動きはやぶれかぶれというわけではなく、見事に洗練されていたところを見ると、蹴り技もしっかり修めていることが分かる。
流堂の蹴りを崩原は腕で受け止めるが、そこから腐食が始まってしまう。
「あっつ!?」
すぐさま流堂から距離を取ろうとするが、それを流堂は許さず詰め寄って攻撃を繰り出していく。
「このままてめえを俺の手駒にしてやるよっ、崩原ぁっ! それとも愛しい愛しいあのクソ女が待つ場所へ送ってほしいかぁ、ああ?」
その言葉を耳にした崩原の顔が一気に険しいものへと変化し、あろうことかそれまで回避のために踏んでいたステップを止めて、流堂の蹴りを左手で掴んで止めてしまった。
止めたことは凄いが、掴んでいるせいで、シュゥゥゥゥ……っと、崩原の手から焼けているような音が聞こえてくる。
だが崩原は痛みに顔を歪めることもなく、凍り付くような低い声を発した。
「……今、何て言いやがった?」
「あん? ……ちっ、つい勢いでネタばらしをしちまったじゃねえか」
それまでの興奮が一気に冷めた感じで、流堂が不機嫌そうに足を引いて崩原から距離を取った。
ポタ、ポタ、ポタ……と、崩原の左手から血が零れ落ちている。
「クソ女……だと? 巴のこと……か?」
「……クク、だとしたら何だよ?」
「……お前、巴のことを誰より好きだったはずだろ? 何でアイツのことをクソなんて呼べる!」
確かにチャケに聞いた話だと、施設に送られた流堂が心を開いたのは崩原と、葛城巴という女の二人だけ。
その中でも巴に心惹かれた流堂は、彼女を愛していたというが。
「さっきのネタバレってのは何だ? お前……何を言ってやがる?」
追及する崩原に対し、流堂は愉快そうにニヤリと口角を上げた。
「本当はてめえをもっと追い詰めてから言うつもりだったんだけどなぁ。まあいい。こうなったら教えてやるよ、崩原ぁ」
そして、流堂からとんでもない告白が為される。
「葛城巴を殺したのは――――――この俺だ」
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