第4話 ゴブリンとの遭遇

 ――翌日。


 シャワーを浴びようと風呂に入ったが、水道は生きているがガスが通っていないことに気づく。

 そしてついでに電気もである。

 どうやらライフラインが徐々に削られていっているようだ。


 俺はその気になれば《湯》でさえ購入できるから問題ないし、あったかい飯だって同様だ。

 しかし今後、俺以外の者たちにとっては苦しい生活が強いられることだろう。


「ていうかよく考えたら、スキルはあるのにレベルとかは無いんだよな。それってゲームみたいに簡単に強くなれねえってことか」


 物語なら、ステータスがあって、モンスターを倒して経験値を貯めてレベルアップする。そうすることでパラメーターが上昇し、強いモンスターとも戦えるようになっていく。

 しかし存在するのはスキルだけ。いや、俺だけなのかもしれないが。

 他の連中にはちゃんとステータスというシステムが備わっている可能性だってある。


 まあそれはいずれ分かってくるだろう。

 ただもしスキルだけしか存在しないというのなら、余程上手く使いこなせなければ生き抜くことはできないだろう。 


「……ま、他人のことを心配してもしょうがねえけどな」


 俺はもう他人には何も期待しないし、率先して関わろうとも思わない。

 もう俺は、このスキルさえあればどこでだって生きていけるから。

 あとは金さえ手にできる環境さえ構築すれば問題ないのだ。


 こんな世の中になったお蔭とも言うべきか、金の価値は大いに下がったはず。

 何せ商売そのものが機能しなくなっているのだから。

 悠長に店を構えて、商売を行うような者たちは、時が進むにつれ消えていくことだろう。


 というよりも店そのものが、生き抜くために理性を失った人間たちの狩場へと成り代わっていく。

 今はまだ大丈夫かもしれないが、自給自足という手段しかなくなったその時、この世界はもっと荒れていく。

 人間は、モンスターだけじゃなく、同じ人間に対しても警戒しなければならなくなる。


 そう、この世は終末へと向かっているのだ。

 そうなっていけば、さらに金の価値は失われていき、俺のスキルがさらに輝きを増すようになる。

 金だけじゃない。金品そのものが無価値になる可能性が高い。

 そういったものを手に入れ、売却することで俺は潤っていく。


「俺の人生も報われる時が来たってことなのかねぇ」


 だとしたら、このスキルを与えてくれた神には感謝しかないが。


「とりあえず今日はどうするか。一度モンスターと接触して討伐の経験もしておきたいが」


 無論弱いモンスター相手にだ。

 経験を積んでおいた方が、今後のためにもなるしな。

 それに確かめたいこともある。


「……少し外に出て様子を見るか」


 現在午前十時。

 普段なら学校でイジメられている時間帯だが、これからそういう鬱屈とした時を過ごさなくてもいいと思うと嬉しい。


 俺は《ボックス》から《アクセルシューズ》を出して履く。靴自体はグレー色で靴紐などもない、シンプルなデザインだが、履くだけで必ずフィットする作りになっているらしい。

 ナイフは、ホルダー付きのベルトを購入したので、そこに二本のナイフを左右に携帯する。右が《キラーナイフ》、左が《アシッドナイフ》だ。


 これで準備は整った。いつも外に出る時に被るお気に入りの赤い帽子を装着して、そのまま玄関を出た。

 不思議なほど外はシーンと静まり返っている。いつもならどこかしらで主婦たちの井戸端会議が発生しているが、人の声が聞こえてこない。

 少し歩いていると、不意に鼻をつくような血のニオイが漂ってきた。


 そのニオイはどうやら目先にある一軒家に続いているようだ。

 確かめるために家に近づき、壁に手をかけて頭を出して思わずギョッとしてしまった。

 そこは庭になっているのだが、あまりにも凄惨な現場が広がっていたのだ。


 一人の男性が首を切られて倒れており、その傍には犬らしき残骸も横たわっている。

 庭が真っ赤に染め上がり、そしてそれを成したであろう正体も判明した。

 縁側からのっそりと顔を見せたのは、学校で見たようなゴブリンらしきモンスター。その手にはビッシリと血液で真っ赤に染まったダガーが握られている。

 俺はポケットからある物を取り出す。


 それは一つの単眼鏡。もちろん普通に望遠鏡としても使えるが、これは普通のアイテムではない。

 単眼鏡で捉えた対象物を鑑定することができる《鑑定鏡》というファンタジーアイテムなのだ。

 レンズを通して見るモンスターの名前などを知ることが可能らしく、情報収集のために購入しておいた。


 名前はゴブリン。ランクは最低のF。弱点は火・毒。


 などといった特性などを知ることができる。外に出て確かめたかったことの一つがこれだ。

 やっぱゴブリンだったんだな。けどランクは最低のFか。

 それでも一般人はああやって殺されてしまうくらいの強さなのだ。倒すことだってできただろうが、それには相応の準備だって必要になる。


 しかも……だ。


 縁側にさらにもう一体が現れて、ゴブリン同士で会話のようなものをしている。

 こうして複数出現すると、とてもではないが突然では対応することなんてできないだろう。


 恐らく、この家そのものがダンジョン化したのではなかろうか。他の家にはゴブリンがいないのに、ココだけというのはおかしい。

 つまりモンスターが出現するには、一定の領域内のダンジョン化が必要になる。


 ならモンスターをすべて倒したらダンジョン化が解ける……のか?


 一体のゴブリンは部屋の奥へと戻り、もう一体は庭に降りて人間の死肉を食らい始めた。


 うっ……見ていて気分の良いもんじゃねえな。


「……よし、試してみるか」


 俺は小石を拾って、食事中のゴブリンに向かって石を投げつけた。

 コツンと頭に当たったことで、俺の方へ振り向いたゴブリン。

 手だけを出してチョイチョイチョと手招きをして、その場で少し待っている。


 すると玄関口の方へと歩き出す足音が聞こえたので、手を引っ込めて脇道へと入って身を潜めた。

 そしてゴブリンが敷地内から、道路の方へとキョロキョロしながら向かってきたのである。


 ……なるほど。敷地内からも出られるんだな。


 てっきりダンジョン化した場所から動けないかと思ったが、そうじゃなさそうだ。これは一度ダンジョン化してモンスターが生まれれば、普通に外へと闊歩してくる危険性が増した。





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