良き水曜日ですね
和団子
第一幕
1話
もし、俺たちが違った
【開幕】
コンクリートの廊下に、等間隔で設置されたゴミ箱。その中身を、
まだ飲みかけのパックジュースでもあったのか、ビチャリと音がして、オレンジ色の飛沫が彼の清掃服に跳ねた。しかし、帆信は顔色ひとつ変えずに、空になったゴミ箱を元に戻すと再びカゴ車を押した。機械的に、まるで仕組まれた歯車のように、彼は目の前にあるゴミ箱を1つずつ片付けていく。
白木学院大学――
4階をすべて廻った帆信は、エレベーターで3階へと降った。箱から出てすぐにある掲示板にも、ポスターははみ出すくらい貼ってある。カゴ車が何かを踏んだ。見ると、どこかのサークルのポスターだった。帆信はくしゃくしゃになったその紙キレを丸めてカゴ車の中に放り捨てると、どこからかテレビゲームの音が漏れる長い廊下を、進みはじめた。
帆信は浪人生だった。2度、同じ大学の入試に失敗している。1年目は親の金で予備校に通えた。だが、2年目――今年は許されなかった。お世辞にも裕福とは言えない赤井家は、2年間の予備校費を出せるほどの余裕はなく、結局、帆信は自らバイトをして勉学のための費用を貯めているのだ。
暮らすためには金が掛かるように、何かを学ぶためにも金が掛かる。なのに、現代の日本では大卒が優遇されている。勉学こそ平等であるべきはずが、経済的な格差が生じる矛盾もあった。
帆信のバイトは、水曜日と日曜日の週2回。ここ白学の学生会館のゴミ箱の中身を回収する派遣の清掃仕事だ。朝と夕方、大きなカゴ車を押して、1階から4階まで廻る。時間にしておよそ20分程度。あとは守衛室で何かあった時(特に何もないのだけれど)のために待機するといった、隙間時間に勉強が出来る浪人生にとって好都合なバイトだった。実労働時間が短い割に時給も良い。
しかし、帆信は違った。カゴ車を押す彼の手と足がとあるドアの前で止まる。部屋の中から学生たちの笑い声が聞こえてきて、帆信は思わずそのドアを蹴飛ばしそうになった。
都合の良い派遣の清掃バイト。だが、帆信に命じられた勤務先――白学は、彼が2度受験に失敗した第一志望の大学だったのだ。
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