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 僕らドラゴンスレイヤーたちの活躍で、とうとうドラゴンが最後の一匹になった。それも僕らの攻撃で手負いの状態だ。だが、仲間のドラゴンスレイヤーはみな怪我をしていたり、体力の限界だったりして動けない。ここはやはりエースの僕の出番だ。僕は鬨の声を上げながらドラゴンに向かって突進し、首に向かって一太刀を入れる。


 ドラゴンが悲鳴を上げる間もなく、その首が飛んだ。


「……やった、やったぞ!」


 僕は剣を高々と上げて振り返る。


 人間は、とうとうドラゴンの脅威から完全に解放されたのだ。


 僕らは意気揚々とドラゴンの巣から街へ凱旋した。沸き上がる歓声。セイバー、セイバー……みな僕の名前を口々に叫んでいる。群衆にもみくちゃにされながら、しかし僕は、何かがおかしい、と感じていた。


 いつもなら、大体この辺りで目が覚めるのだ。ところが、今は全くそういう感じがない。


 ……。


 まあいいや。帰れなきゃ帰れないでかまわない。ここでこのままスーパーヒーローとして暮らしていく方がよっぽどいい。だから僕はそれっきり気にしないことにした。


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 こうして世界は平和を取り戻した。僕はドラゴンスレイヤーの中でも一番のエースとして、最高に尊敬を集めた。王様から一生遊んで暮らせるだけの報奨金もいただいた。この国は一夫多妻制なので、妻も選び放題。まさにハーレムだった。


 この世界に留まることになった僕は、あらためてこの世界を詳しく知ろうと思い、街の図書館に向かった。中にはほとんど人はいなかった。この世界の識字率は低く、滅多に図書館に来る人はいないのだ。僕は古文書を書写したものを開いた。それは今は失われた文明の言語で書かれており、誰にも解読できないと言われていた。にもかかわらず、僕はそれをすらすら読むことができた。何のことはない、それは日本語で書かれていたのだ。


 そしてそれを読み終えた僕は、驚愕した。


 意外にも、この世界は高度な科学技術の産物だったのだ。どこかのSF作家が「十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」と言ったらしいが、まさにそれを地で行く感じだ。日本語が古文書になるくらいの、遥かな未来世界なのか……


 例えば、ドラゴンは白亜紀に存在した恐竜のDNAをバイオテクノロジーで復活させ、さらにそれを改造して火を噴いたり空を飛んだりするように仕立て上げたものなのだ。遠い昔、かつて栄えた科学技術文明が、最終戦争用の生物兵器としてそれを作ったのだった。


 あんな小さな羽でドラゴンが空を飛べるのは、その体内に含まれる負質量物質エキゾチック・マターのせいだった。魔法使いがほうきにまたがって空を飛べるのも、大体同じ理屈だ。

 ドラゴンの体が普通の剣をはじき返すのも、負質量物質の性質によるものだ。伝説の聖剣には、ドラゴンの体と同じ負質量物質が含まれていた。だからドラゴンの体をぶった切ることができるし、正質量の通常物質とは異なる不思議な動き方をするのだ。


 こんな感じで、この世界で「魔法」と呼ばれるものは全て、今は失われた科学技術のなれの果てと言ってよかった。僕は少し拍子抜けしたが、慣れ親しんだ科学(の延長線上の技術)が通用する世界だったことに、安堵もしていた。なんとかこの世界でもやっていけそうだ。


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