エピソード 3ー1 夕べは三人でお楽しみでしたね? はい、次は貴方の妹とも楽しみます

 アリスとソフィアとクレアねぇとの結婚式を挙げる。その前に、リズとオリヴィアとティナとリアナを妾にするべく、それぞれの親の元に挨拶をしに行くことになった。

 どこの人格破壊者だと問い詰めたくなるような状況――なんだけど、これも自分で蒔いた種というか、今まで問題を先延ばしにしてきた結果なので仕方がない。

 俺はさっそく、行動を開始した。


 まずは近場――ティナの姉であるミシェルのもとを訪れた。


「リオン様が私に用事とは珍しいですね」

「最近は、そうだな。子供の頃は……なにかと世話になった気がするけど」

 初めて会ったときは、いきなり『姉弟の契りに興味はおありですか?』なんて聞かれた。あのときは、なにを言ってるんだこの人、なんて思った。

 けど、ミシェルはクレアねぇの母親代わりで、俺はなにかと助けられてきた。


 そんな恩人の妹を、自分の妾にしたいという。

 ……非常に、打ち明け辛い。


「そう言えば、お祝いの言葉がまだでした。クレア様とご結婚、おめでとうございます」

「あ、ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ」

 嬉しいのだけど……このタイミングでそれは、ますますもって打ち明けづらくなる。そんな俺の内心を知ってか知らずか、ミシェルは懐かしそうに遠くを見つめた。


「最初は、いずれは政略結婚の道具にされてしまう、そんなクレアお嬢様に、少しでも恋愛をしてもらいたい。そんな一心でした」

「……あぁ、そう言えば聞いたよ。姉弟で恋愛をするのは普通だって、ミシェルがクレアねぇに吹き込んだんだってな」

 それが、クレアねぇが俺にアプローチをする切っ掛けになったそうだ。最初に聞いたときは、なんてことをと思ったものだけど……まぁ今では感謝している。

 いや、お姉ちゃんぶった生娘と、知識だけは凄まじい妹という組み合わせもありだなとか、そういうことを考えていたわけではなく。


「そう言えば、夕べはお楽しみでしたね」

「――ぶっ!? ごほっ、な、なんで……?」

「ふふっ、クレアお嬢様が、幸せそうな顔でご報告に来ましたから」

「うわああああああっ」

 よりによって、育ての母親も同然に相手に、自分の初めて――しかも複数でのプレイを報告するとか。俺はどんな顔をすれば良いんだ。


「顔がにやけていますよ?」

 ………………いや、その、なんかごめん。

 いままでダメだって言い聞かせていた分、一度一線を越えたら吹っ切れた。今は凄く晴れやかな気分なんだけど……でも、その、今はティナを妾にするという話をしに来たのだ。

 この流れで……言うのか?

 夕べは三人でお楽しみでしたね? ええ、今度は貴方の妹とも楽しむつもりです――とか。わりと、刺されても仕方がない気がする。


「……ありがとうございます、リオン様」

「え、な、なにが?」

「私はあくまで、クレアお嬢様をお支えする立場で、リオン様に命を救われたときも、そうするようにお願いされました。だから、妹のことを私からはお願いできなかったんです」

「あ、あぁ……ティナからも聞いていたのか」

 インフルエンザが領地に広がり、感染者が焼き殺されようとしたあの日のこと。ミシェル達を救う切っ掛けになった。そんな俺に、ミシェルは恩を返したいと言った。

 そんなミシェルに、俺はクレアねぇをこれからも支えて欲しいと言った。

 ミシェルはその約束を守り、クレアねぇのことを優先していた。だから、妹の気持ちを知っていながらも、俺に妾にして上げて欲しいと言えなかった――と。


「気付かなくてごめん。それと、約束守ってくれてありがとう。ティナを必ず大切にするよ」

「……はい、ありがとうございます、リオン様」


 ミシェルはそう言って、優しく微笑んでくれた。良かった……ひとまずは怒られないで良かった。……なんて、一番大丈夫そうな相手から打ち明けたんだけどな。


「ところで、両親にも挨拶しようと思うんだけど」

「それでしたら、リオン様の結婚式に招待してもよろしいですか?」

「良いけど……まさか?」

「はい。結婚式の前後にでも、ご挨拶をさせて頂ければ」

「ええっと……それはつまり、アリス達との結婚式をティナの両親に見せつつ、あんた達の娘は妾にするからと宣言しろ――と?」

「はい、きっと喜ぶと思います」

「よ、喜ぶかなぁ……」

 俺なら間違いなくぶち切れるんだけど……って思ったんだけど、ティナの両親は、ティナが俺の妾になりたがっていたとずっと知っていた。だから心配なのは、正妻達と仲良くやれるかどうかと言うこと。こちらに招いて、仲が良いと安心させて上げたいのだそうだ。

 まあ……そういうことならやぶさかじゃないと了承した。



 ――という訳で、ティナを妾にするための問題は取り敢えずクリア。次はリアナ――と言うことで、後日。俺はリアナを伴って、レジック村を訪れた。



「これはこれは、リオン様。お待ちしておりました」

「急に来て悪かったな」

「いえいえ、ちゃんと先触れを頂きましたから」

 村長であり、リアナの父親でもあるカイルさんが出迎えてくれた。そして、隣にはサリアがならんでいる。と言うか、俺の視線に気付き手を振ってきた。


「サリアも、元気そうでなによりだ」

「おかげさまで、楽しい日々を送っているわ。それで今日は、視察に来たのかしら?」

「いや、そっちも見せてもらおうとは思ってるけど、今日はカイルさんに話があるんだ」

 俺の横に控えていたリアナが少し恥ずかしそうに身をよじった。けれど、カイルさんは気付かなかったようで「私に話ですか?」と首を捻った。

 だけど――


「もしかして、そういうこと?」

 サリアがピンときたようで、少し驚くような顔をしている。

「まあ、そんな感じだ」

「それは、彼女一人だけなの?」

「え、いや……四人だけど」

「へぇ~なるほどねぇ……」

 なにがなるほどなのかは――聞くまでもないな。三人も奥さんにしておきながら、更には四人も妾にするのかと思われているのだろう。

 エルフは個体数が少ないからか、一夫一妻が基本みたいだしな。

 なんて思ったんだけど――


「ねぇ、リアナさん」

 サリアがリアナを手招きした。そして――

「ねぇ、それって……ごにょごにょ」

「……えっと、たぶん、大丈夫だと思います」

 なんてやりとりが聞こえてきて――ほどなく、


「ねぇリオン。この植林が終わったら、ミューレの街に行くわね」

「……えっと、まあ……かまわないけど」


 なんか、微妙に嫌な予感が。――って、別に惚れられるようなことなんて……そう言えば、奴隷として他国で捕まっていたところを助け出したな。

 いや、気のせいだ、気のせい。気のせいに決まっている。サリアは森の精霊だしな。


 ……いやなんでもない。取り敢えず、カイルさん達と話をしよう――と言うことで、植林場の視察は後にすることにして、俺はカイルさんのお家へ向かった。



 やって来たのは、村長の家。贅沢というわけではないけれど、ミューレの街の最新技術が詰まった一軒家のようだ。

 リアナが稼いでいるので、その恩恵を受けているのだろう。


 ただ、その部屋のリビングにあるテーブル。向かいの席にいるカイルさんとその奥さんが、緊張した面持ちで俺を見ている。


「それで、その……お話というのは? もしかして、娘がなにか粗相をしたのでしょうか?」

「いや、そういう話じゃないから安心してくれ。むしろ逆というか……」

「逆、ですか?」

 まったく想像もしていないのだろう。カイルさんも、その奥さんも、俺がなにを言い出すのか分かっていないようだ。

 ミシェルの時は、相手から切り出してくれたから良かったんだけど……って、いいかげんに、俺も腹をくくろう。リアナ達を受け入れるって決めたんだからな。


「話は他でもない。リアナを俺の妾にしたい」

 俺がそう切り出した瞬間、リアナの両親は絶句した。

 リアナは今や、ミューレの街になくてはならない存在で、しかも外見も可愛くて、貴族からも引く手あまた。いくらでも幸せな未来を選ぶことが出来る。

 そんなリアナを、妾の一人として俺が手に入れる。これは文句の一つや二つは覚悟しなければな――と思った次の瞬間、リアナの両親は無言で泣き始めた。

 そ、そこまで嫌だったのか……?


「リアナ! 良かったなぁ、おめでとう」

「ようやく夢が叶ったのね、おめでとう」


 俺の不安をよそに、紡がれたのはそんな言葉だった。


「あの……二人とも、リアナを俺の妾にすることに不満はないんですか?」

「もちろん、あるはずがありません!」

「そ、そうなんですか? 正妻ではなく妾、なんですよ?」

「正妻だろうが妾だろうが性奴隷だろうが、娘が望むのならそれでかまいません。逆に娘が望まないのであれば、無論反対しましたが」

 いや、さすがに性奴隷は反対しろよ。娘がこの人の性奴隷になりますっていって、喜ぶ両親ってどんなのだよ。

 なんて思っていたのが顔に出たのだろう。カイルさんが苦笑いを浮かべた。


「リオン様の呆れる気持ちは分かります。ですが……私達は一度、娘を捨てた身です」

「……は?」

「お忘れですか? グランシェス領全体を飢饉が襲い、私達の村も食い扶持を減らさなくてはいけないと言う状況で……」

「あぁ……そうだったな」

 グランシェス家が食糧支援をしたので、実際に口減らしに売り払ったわけではない。


 けれど、カイルさんを初めとして、一期生として娘を差し出した者達は、俺が食糧支援と引き換えに、慰み者を求めていると誤解したと聞いている。

 つまり、事実がどうであれ、彼らは娘を食料と引き換えに差し出したつもりだった。


「本来であれば、娘が少しでもマシな人生を送れるように祈るのが精一杯でした。でも、リオン様のおかげで、娘はこんなに立派になった。その上、娘の望みを叶えてくださるというのですから、文句などあろうはずもありません」

「そうか……ありがとう。約束する。リアナは必ず大切にするよ」

 

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