第6話 酒場ベレシート
サラーガの露店が立ち並ぶ場所から少し離れた目立たない所に酒場『ベレシート』という看板を掲げている小さな建物がある。
店の内装はというと木目調の綺麗な床にグレーの壁には肖像画や写真、サインが
あちらこちらまわりに飾っており歴史の深さを感じ。
ほどよいオレンジ色のライトがその場にいる人間の心を癒す。
カウンター横木の前には客用のカウンター席が四つ置かれ
少し離れた所にはハイテーブルと椅子が設置されているのでのんびりしたい客に好評
カウンターの奥には地元住人なら見慣れている酒や逆に今まで見たことのない酒がランダムに置かれていた。
酒の順番や内装も店長が気分で変えているとのこと。
そんな店の扉がカランと乾いたベルの音とともに開かれた。
「さあ、はいってはいって」
ドアを抑えながらベレシートの店長に笑顔で招かれ洒落たバーに足を踏み込むサーナと放浪人。
「随分と洒落た店だな」
味のある内装にヒューと口笛を吹き。
なんの躊躇もなく店内に入る放浪人に対してサーナは
「ちょっとどんどん進まないでよ」
と放浪人のマントの裾を握りながら後ろに隠れながら辺りを見回していた。
「タワケガ!」
同時にそこからスコンとシショウに脇腹を突かれた放浪人は不機嫌そうにサーナに振り向いた。
「何故、俺のマントを掴んでいる」
サーナはビクンと身を震わせた。
「う、う、うるさいわね!放浪人!しかたないじゃない!だ、だ、だってこういう店は大人が来るところだし」
慌ててマントから手は放したものの手が寂しいのか人差し指をぐるぐる回しながら赤面する。
そんなサーナの様子に店長は振り向きながら優しく笑いかけた。
「そんなに緊張しなくてもいいわ。今は一人もお客様はいないから。というより普段からいないのだけど。だからそんな固くならずにリラックスしていって」
笑顔を向けられ放浪人の後ろに隠れると「はうう。あの人しゅごいよ」とサーナが悶絶する。
「よかったな」
そんなサーナの撃沈っぷりに対して放浪人は再びため息をついた。
「ていうか、なんであんたは緊張しないのよ」
サーナの問いに放浪人は「別に…」とメディアに反感を買いそうな一言を返した。
「な、なによその言い方。私を子供扱いしてない!」
「子供も何も、自分でいったんだろうが」
サーナは悔しそうに顔を背けた。
「うー。それは言葉の綾というか。なんというか」
「二人共喧嘩なさらずに席に座ってください」
ミストレスはクスクスと楽しそうに笑いながらカウンターの方に歩いていくと放浪人とサーナは顔を見合わせてすごすごとミストレスの後ろに続く
すると
「ニシシーお客はいるんだけどねーミストレスー」
奥4人用テーブルから突然の声が上がった。
「あら来てたのね。ごめんなさい気が付かなかったわ」
ミストレスと呼ばれた女性は驚きもせず声の方に手を上げ挨拶を返した。
声をかけた人物もひらひらと手を振り返す。
見た目は黒いローブに赤い髪。眼つきの悪い女。いかにも中世の魔女という風貌。
「ミストレスさん?」
サーナが名前を確認する感じでたどたどしく名を言うとミストレスは優しく微笑み
「そう呼んで構わないわ。うふふ。わたしもサーナちゃんて呼ぼうかな」
と返した。
再びサーナは赤面して放浪人の背中に逃げるように隠れ放浪人はシショウから洗礼を受ける羽目になる。
「おい!緊張するからっていちいち俺のマントに隠れるな!肩に乗ってるシショウが毎回どつくんだよ」
放浪人はマントを脱ぐと腕にまくりかけた。
逃げ場を失ったサーナがうううと唸り声をあげ勘弁したのかきょろきょろと小動物みたいに肩身を狭くしながら店内を歩いていく。
ミストレスは二人をカウンター席まで案内し酒の瓶がおいてある受付に回り込んだ。
二人はそれぞれ席に座り、シショウは放浪人の横のテーブルにとまった。
「お酒は出せないからジュースでいいかしら」
「はいっだっだだだだいじょーぶです。ありがととーございます」
サーナは緊張して言葉に詰まっている。
ミストレスは近くの棚から飲み物の瓶を取り出すと二つのガラスのような半透明な
コップにオレンジのような色の液体を注ぎそれぞれのテーブルに置いた。
「どうぞ。最近仕入れたビタミンたっぷりの果実水です」
ミストレスの笑顔と共に出された飲み物のコップを
「いただきますと」サーナはお辞儀しするとコップを持ちあげて
少し口に含み「ふぅ」と一呼吸して落ち着きを取り戻そうと奮闘する。
すると奥のテーブル席に座っていたソルシエールと呼ばれた女性が放浪人達がいる
カウンター席に歩いてきた。
「ヘー。この世界で私以外の初めての客だね。ミストレス」
煽るような声を上げたソルシエールはニヤニヤしながら金色の瞳で
放浪人とサーナを交互に上から下をなめるように観察する。
「二人に迷惑かけないでね。わたしの大切なお客様だから」
「シシシ。だいじょーぶ。だいじょーぶ私は優しいから」
ヘラヘラとミストレスの話を流しながらサーナの隣の空いている席に躊躇なく座りこむ。
そして図々しく「それよりさー見て見て」といいカウンターに乗り出し
サーナと同じバンドを操作して細かな数値がかかれた画面を
ミストレスに見せつけるように立体的に表示した。
「ついに私ここの世界の魔術、魔法スキルコンプリートしたのー」
嬉しそうに笑いあげるソルシエールをミストレスは「そうなのすごいわね」とあまり興味がない様子で聞き流していた。
「なによ。興味なさそうね。ミストレスー」
「だってわからないんですもの魔法とか魔術なんて」
「えー。ちょっとは興味もってもいいんじゃない。便利よ」
「うーんそういわれても専門外だからねー。それに便利は作れるし」
ミストレスは困ったという表情を浮かべる。
そんな二人のやり取りを隣で見ていたサーナと放浪人。
「よくわからんが魔法や魔術のコンプリートってなんかすごそうだな。
もしかしたらお前よりすごいのかもな」
煽るようにチラリと横目でサーナを見る放浪人。
「…えっ嘘」
「あっ?どうした」
サーナは怒りもせずただ目を見開きソルシエールを見ながら驚いていた。
「ん?なにあんた鯉が餌をもらうみたいに口をパクパクして」
熱い視線にソルシエールは怪訝な顔をする。
もしやあまりの実力差を感じて逆上したのでは
と放浪人は今にも飛び掛かろうとしているであろうサーナを危惧して止めようと手を伸ばした時
「貴方様は伝説の天才魔女ソルシエール様!」
予想とは裏腹サーナは興奮しながらソルシエールの手を両手で握った。
手を握られて啞然とするソルシエールをみて
ミストレスは「天才魔女魔女ね」とつぶやき微笑んだ。
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