遥か彼方の放浪者~RenewalWord

fuyu

序章 ワシは神お前のことが気に入った

俺の意識は覚醒した。

無意識に体を起こし辺りを見渡す。

目覚めたばかりだというのにスッキリとした視界に映し出された

のは、昼とも夜とも見分けがつかない風景。

前方には丸々と淡い光を放つ金色の月。

だが夜ではない。後ろを見ればギラギラと強い光を放つ大きな太陽。

その中間に位置するこの真上の空は夜になればいいのか

それとも朝になればいいのか迷うように色を変えている。

せわしなく変わる空に比べて足元は何も変わらない

白い床にただ長い長い道がどこまでも伸びているだけだ。


「どこなんだ…ここは」


つまらない独り言。無音の空間の中自分の言葉を口にしないと自我がなくなりそうな恐怖に体が勝手に判断したのだろうか

そんな弱い自分を払拭するかのように首を振り口をギュッとつぐむとこの異常な状況を整理しようと目を瞑る。

ここはどこだ?なぜここに俺はいるんだと、そもそも俺は何なんだ。

必死こいてここまでの経緯…記憶をたどる。

いかんせん現実逃避のように無理やり考えたせいか頭が真っ白でどうしていいのかわからなかったが……

だが少しずつだったが脳裏に情景が流れていく。

白い雪景色。氷。そして赤い雪…


微かだが思い出す。寒い極寒の地。一歩一歩雪を踏む音が聞こえ

目の前にいる誰か……誰だ?後ろから手を伸ばしているのは俺か?

何をしようとしている。

脳裏にノイズが走る。手を伸ばしてその人物を掴んだ。プツン

脳内に流れる映像がここで途切れた。


「お前は死んだ」


記憶の映像が切れたと同時に後ろからの聞こえた声が耳に入った。

俺は慌てて首をきしめかせ後ろを振り向くとそこには白髪の老人が腕を組んでこちらをジッと見ていた。老人と言ったが背筋がビッとして少し若くも感じられる

老人は俺を指さし口を開く。


「もう一度言うお前は死んだ」


俺は死んだ……?俺…死んだのか。


「ってちょっと待ってくれ。あなたは一体誰だ。というかここは…」


無論そんな現実受け止められるわけがない。現に俺はこうして存在しているのだから

死んだことはないからよくわからないが。俺は老人を問い詰める。

すると老人は髭をいじり不敵に笑いを浮かべると

「ふん。馬鹿め」と罵倒の言葉を言い放った。


「見てわからんかここは…」


老人は目をつむり大きく息を吸い込むと


「生と死の間だ!」と目を見開いて怒鳴り声を上げた。


……なんだと

俺は頭が悪いのか状況をうまく把握できなかった。

いや突然そう言われてはいそうですかと普通信じられるものではない。

はいそうですかと即答できる人間は頭のサイコの野郎だろう。


俺はもう一度冷静に考え老人に問いかけた。


「たしかに俺あまり頭は賢くはない。どちらかと言えば悪い方なのだろう

だからうまく理解できない。もっと筋道をたてて教えてくれないか」

「何!貴様ここまで言われてまだワシが誰だか気付かぬか!このうつけ」


罵倒される。

老人は腕を組み口を閉じると「あててみろ」という熱い目線を送ってくる。


いや本当になんだ。ていうか俺本当に死んだ……のか

重苦しい目の前の老人のプレッシャに耐えながら冷静に足りない頭で考える。

どうやらここは俺のいた所ではないのは確実だ。生と死の狭間といっていたしな。

まだ辛うじて生きてる可能性があるということか?よくわからないが臨死体験みたいなもの?


「まだワシが誰かわからぬか!」


いつまでもだんまりしている俺を見かねてか老人が怒鳴り声を再び上げた。

そうだとりあえず老人が誰なのかとりあえず答えないと俺は老人をよく見て考える。

ロクに思い出せない記憶をたどっても既視感も何も感じない。

親戚なのかはたまた親なのか(こんな親はイヤだ)

老人の態度と口調を思い出す。やけにここに詳しそうで、俺の状況も説明して見せた。

俺はハッとした。今ある自信ある答えが浮かび上がった。


「わかった。あなたも俺と同じ生と死の間を漂ている方か!

それはすまない。自分の事で手いっぱいで…」


自信のある答え


……静まりかえる謎の間


老人は、わなわな震えはじめた。

嫌な予感が脳内に知らせると同時と瞬間。先ほど俺と老人にあった距離が一気になくなり


「この…このーーーヴァカァタレガがーーーーーーーーーーーー!」

「ヴォハァァァァ」


老人の勢いある蹴りが俺の腹部に容赦なく食い込み体は見事九の字にまがると

体はぶっ飛ばされ近くにあった大木に激突した。


当たった衝撃で木がめきめきと音を立て倒れると俺はその場にうずくまり

あまりの痛さに腹を抱え……ん。痛さに?


「いった……くはない」


不思議と痛みはなかった。

何か背中と腹部に触れた感じがあっただけで、本来訪れるであろう激痛がまったく感じられない。


「わかったか!ここは生と死の間!。そしてワシはーー」


一呼吸入れ大きく息を吸い込むと


「神だーーーー!」と宣言した。


無論、衝撃な真実!に驚くこんな滅茶苦茶な方が神様。

チガウオモッテタノトチガウ。


俺はかなり驚いた顔をしたのだろう神と宣言した老人は深いため息をついた。


「ふん!低能のお前には分かりやすく教えた方がよいな」


神?は指を高らかに鳴らす。すると先程の空間が一気に変わり

どこにでもある部屋へと変貌した。

目の前には大きなテレビが設置されたそれ以外は殺風景の部屋。

試しとばかりにテレビのリモコンをつかもうと手を伸ばすも掴むことなくすり抜けていく

改めてここが現実とかけ離れた世界だと実感した。


「さて本題に入るか」

「……あ、ああはい」


俺はとりあえず正座した。これが夢も世界だろか現実世界かわからないが下手な事をして

無駄なリスクを背負う必要はない。もし本当に俺の目の前にいる老人が宣言した通り

神と呼ばれるどえらい存在なら失礼な行動をすれば大変な目に合うかもしれない

うまくいけば生と死の狭間で彷徨っている俺の魂を生き返らせてもらえる希望がある。

俺は神と宣言した老人に期待の目を向けた。

それを察してか神は厳しい顔つきで俺にこういった。


「さて少しはお主の立場が理解したところで改めて言わせてもらうぞ。お前は死んだ」

「はい…ってええええええええええええええええええ!」


驚くしかなかった。

死と生の狭間なんて言われれば誰だって生の可能性があると勘違いするものだから。


「驚くな。先ほどから言っておっただろう」

「さっきいた場所…生と死の狭間…ですよね」

「そうだが」

「だったら死と生の隣合わせって感じなのではと」

「普通はな、だがお前は間違いなく死んだあの世界でな。だからロクに思い出せる記憶も少ないだろう。最低限の基礎知識はまだ残っているかもしれんがな」


ああ死んじまったマンにナッチャッタヨ。

俺は顔を下げ塞ぎこんだ。ふざけて見たがキャラにあっていないのかしっくりこない

そもそも俺自身の存在もハッキリしない。両親、親戚、親友記憶には何も残っていない

それが唯一の救いだろうか。覚えているのはおぼろげでなんのてがかりもない記憶だけ……だが俺はふと疑問が残る


「なぜ俺はここに?死んだ魂は、天国あるいは地獄に送られる…というところまでの知識があるのですが」


無論本当かどうかよくわからないが

中には現世を彷徨うというのも…俺の知っている知識などその程度しかなかった


「フハハハハハ!」


神様は豪快に笑って見せた。

本当はなんの神か名前を訪ねようとしたが結果が見えたのでやめた。


「貴様は死ぬ前に善行を行った。中々勇気のあることだ」

「善行?まったく記憶にございませんが」


残っている映像を思い出す限りその記憶はない。もしかしたら俺らしき人物が手を伸ばした。誰かのことだろうか


「本来貴様は問答無用で地獄に送られるはずだったが。お前が救った人物は創世の歴史に刻む者。

この功績はでかい!他の神もそこだけ評価した!喜べ神々はお前の地獄行きを勘弁してくれたぞ」


地獄いき…生きていたころはよっぽど悪いことをしていたのか?

とはいえ罪を犯したという記憶もないのに地獄に送られるのは勘弁願いたいが


「ということは俺の行くところは…天国って奴ですか?」

「いやそこにある木に寄生して一生を過ごすぞ」


そこは天国じゃないのか。ということはロクな人生を歩んでいなかったのか俺は


「しかしワシはお前の最後の勇気。そこが気に入った!ということでワシがお前に新たな行き先をワシが示す!」

「行き先?」

「よいかお前はこれからワシの修行を受けるのだ」

「あまり乗り気はしない」

「正直でよろしい!しかし修行が終わったらお前は違う世界でまた新しく生きることが出来るようにしてやろう!」


神はそういうとさっきみたいに指を鳴らす

すると部屋の天井が見たことがない世界の風景に変わった。


「これは!」

「貴様が新しく生きるところだ。お前をそこの世界に送ってやるそこで新しい人生を生きるがよかろう」

「第二の人生みたいなものか」

「そうだワシが責任をもってお前をあの世界に送ってやろう」


疑問がわく。


「…俺の生きていた世界に復活というのはダメなんですか」

「死亡が確認された奴が復活したら怖いだろ」

「確か」


唐突な真顔の正論に俺は納得した。そもそも死ぬ間際以外の記憶が曖昧であまり未練はない。

記憶がなくなるというのはここまで生の未練から断ち切れるものだろうか

俺が今魅力を感じているのは目の前の天井に広がる広い世界。とても綺麗だ。


「お前を転生もさせることも考えたのだが。あまりにももったいないのでな」


もったいない?そこまで創世とかいう者を助けたことの功績がでかいのだろうか?

だったらもっと待遇をよくしてもいいと思うが


「ということで選べぃ!ワシのところで修行し見事大きく成長するか!

第二人生を送るか!そこの樹木に寄生し永遠に何もない人生を送るか!己の口からどうしたいか口にせい!」


究極でもない選択。考えるまでもない!答えは決まっている!


「ぜひ貴方様のような偉大な神様の下で修行させてください!」


俺はその場で頭を下げ頼み込んだ。


「よろしい!ならばついてこい貴様を徹底的に鍛えなおしてやるわ!」


鍛えなおす…少し怖いが大丈夫だろうか


「おっお手柔らかにお願いします!」

「断る!」


この瞬間俺の一つの人生が幕を閉じた

そして新たな人生の幕が上がった。


……それと同時に地獄のような修行が始まった。

心も体も精神も全て変わるほど

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