ここは。

 人生に疲れた方。

 人生に憂いを感じている方。

 そして、人生を終えようと思考される方のみが立ち寄る事を許された、最後の一時を過ごすためのBARでございます。

 二度目のご来店は出来ません。

 訪れることが出来るのは貴方の人生でたった一度っきり。

 なんとも貴重で、なんとも稀少な、ただその一時を差し上げる。そんな場所でございます。

 ですから……。

 この店は貸し切り。

 決して他の者が入り込むことのない様に、一日お一人様限定。

 それ以上のお客様はお迎えしておりません。

 その一日の間であれば幾ら滞在くださっても結構。

 時間を忘れ、自分の過去を振り返るもよし、あるはずだった未来の自分を語り明かすもよし。

 アナタはただ、この空間をご自由に、自らの空間として、自分の思考のみで埋め尽くしてください。

 ここはそんな店なのです。

 私ですか? はい、私はこの店のマスター。

 ご注文されればどんな品でもお出しします。

 BARではありますが、おにぎりが欲しいといわれればおにぎりを出しますよ。

 おや、可笑しいですか?

 この空間はBARであってBARで無いのです。

 さて、今宵はどの様な方がやってこられるのか?

 ほら、ドアの向こうに影が……。


「いらっしゃいませ。貴方にとってより良い一時を」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る