万世の轍
須永 光
はじめに
みなさんは、
頭のなかに、知っていることを思い浮かべてごらんなさい。授業で学んだことでも、誰かが言っていたことでも、読書で得た知識でもかまいません。
どうでしたか。どれくらい出てきましたか。
ためしに筆者が端末で調べてみたところ、このような記述がありました。
“遡臓(そぞう)は、人間の臓器のひとつ。おもに、前世記憶の貯蔵を
記憶や空間学習能力に関わる海馬が脳にあるのに対し、遡臓は心臓にきわめて近い位置に存在する。形状は海馬同様に細長く、層構造をなしている。唯一、心臓とのみ血管で結ばれている”
読者の皆さんも、これくらいは理科や生物の授業で習ったかもしれませんね。
遡臓というのは不可解な臓器です。発見されてから80年近く経つ今でも、謎が多いのです。
2020年代以前に生まれた人類には遡臓がありませんでした。このことから、遡臓は人間の生命維持に関わりのない部位であることは推察できます。
臓器は、ときに病巣となることがあります。ガンや肝硬変、腎不全などがその一種です。
しかし、遡臓が原因でかかる病気は今のところ発見されておらず、遡臓のあるなしが寿命の長短を決めることはありません。
言ってしまえば、たとえ存在しなくとも人体になんの影響も及ぼさない臓器なのです。
ですので、発見当初は「心臓の付属物」だなんて言われていました。心臓のこぶであり、偶然の産物だという人も多くいました。
研究が進むにつれ、遡臓を持つ人間には前世の記憶があることが分かり、前世の記憶を思い出すときに遡臓が活性化することが確認されてから「遡臓」という名前がつけられました。
これは歴史の授業で習った人も多いでしょう。国語のテストで「遡臓」を書く問題が出されてバツをつけられた人も、多くいるはずです。
本書では、謎の多い遡臓について、現段階で明らかになっていることを中高生の皆さんに分かるように解説しています。
なぜ遡臓は脳ではなく心臓近くにあるのか。遡臓が損傷するとどうなるのか。多くの臓器移植手術が成功を収めるなか、なぜ遡臓は移植が成功していないのか。前世の記憶は我々になにをもたらすのか。
遡臓に関して寄せられる質問に、できうる限りで答えました。
本書を読んだ皆さんが、少しでも遡臓に関する知識を深め、自らの前世とどう向きあうのかを考えるきっかけになれば幸いです。
国立記憶科学研究所 所長 楢橋康二
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