真の力を解放する者

志央生

真の力を解放する者

 私の中には、もう一つの人格がある。最近はその人格との入れ替わりが激しく、学校に居るときですら、表に出てこようとしてくる始末。

 左目が疼き、右手が勝手に動き出そうとする。今は何とか力を封じ込めているが、それでも気を抜いてしまうと暴走しかねない。

 ゆえに私は常に孤独でいるのだ。何かがあったとき、周りに被害を出さないようにしている。決して、友が居ないわけではない。

 それに、友など居なくても私は孤独を愛している。だからこそ、独りでいることに何のさみしさもない。

「ふははは、私が真の力を発揮したならば貴様らなど一捻りなのだ」

 このとき、私は愚か者に襲われていた。真の実力差を見抜けず、この私に暴力を振い、あまつさえ金品を奪おうとしている。

「何言ってんだ、お前。頭わいてんのか」

 そう言いつつ、私の鞄を開ける。くそ、この場で私の真の力を解放することができれば、こんな愚か者を倒すことができるのに。

「なんでぇ、これ。包帯と眼帯? なんだよ、自分が怪我すること分かってて常備してんのか」

 まさか、私の力を抑えるための神聖な道具をあんな汚い手で触るとは、許せん。こうなれば、やむを得ない。少しだけで、力を解放して成敗してやる。

「私の荷物から手を離せ」

 渾身の力をこめた拳を愚か者の腹に打ち込む。決まった。私の力を抑えたとはいえ、少々やり過ぎたかもしれない。

「ってぇな。てめぇ、軟弱なパンチで何どや顔してんだよ」

 私の腹を抉るような痛みが襲い、自分が蹴り上げられたのだと理解する。まさか、私の拳を受けて立っていられるとは、もはやこいつは人間ではないな。もしかすると、こいつも前世では何かしらの戦士だったのかもしれない。

「ちっ、金もほとんど持ってない。とんだハズレを引いたな」

 鞄を無造作に投げ捨てて、愚か者は去って行く。私は未だ、痛む腹を押さえながら地面を這う。

 本来の力を出せなかったとはいえ、まさかこんな風に私が負けるなんて屈辱的だ。

 次に会うときは、私の真の力を持って屠ってやる。そう誓い、立ち上がり、その場を後にした。

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真の力を解放する者 志央生 @n-shion

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