第19話 おてて繋いで号泣列車

【自己紹介とあらすじ】


私は、変身ヒロイン、キザキ・アカネ二十三歳!(稀崎明音)


正義の味方として、日常をクズみたいに生きるんだと決意した『わるもん』カップルを自宅に軟禁している女の子!飼い主の責任として、きちんと彼らに名前をつけてあげたわ!!


痴漢にあってもっと確りしなさいと、イノシシのようなJK!に説教をされ、腹立ち紛れに外灯を破壊!!

その後変身ヒーローたちの、月いちミーティングでインターンシップの学生がやってくるって話をされてやってきたインターンシップ の学生がイノシシ JK!

彼女はとことん規格外の対応でビビったわ!

そして、インターンシップの歓迎飲み会のなか、戦隊ヒーローのお仕事。

けれど、あっけなく終わった『わるもん』回収。

なんだかあっけなさすぎて釈然としない思いを抱えながら帰宅、今日も出社よ!




結局。初陣は敵とお見合いしただけで終わってしまった。


それでも、仲間は褒めてくれた。

なので、まぁ、デビュー戦として数に入れておこうと思った。


今回はドームまで立ち上げなくてよかった。

それは、日を跨いでの駆逐作戦になることを意味する。


ドームで日照時間をコントロールしつつ空白の世界を作り出すのがやり方だ。


昨晩は、カンパニーの修復作業員の人たちが部長やトレンチさんシローズちゃんを担ぎ上げ自宅まで送り届けた。

催眠ミストで前後不覚に寝入っていたから。


私は自宅へ自力で戻り、部屋へ入って行った。

オブザイヤーくんとタダグイちゃんのわるもんカップルは寄り添って寝ていた。

もう、すでにカゴから抜け出していてベッドの下が定位置になっている。

二人は大分小さくなった。

わるもんは、愛情がないとすくすく育たない。

それはオオヌキさんと、チカちゃんが私の盗撮映像を見て確信したことだった。

小さくなったというのは、愛情が与えられていないということだなぁと思った。


例えばだけど…。

愛情が与えられずに、ずっとこのまま私が飼っていたとしたらこの子たちはどうなるんだろう…と思った。

会社でのゴタゴタや、正義の味方カンパニーでのお仕事で帰宅できなくなったら小さな粒みたいになって消えて無くなるんだろうか…?


そっと、頭をなでてみると、二匹とも目をさましてゆるゆると膝に乗ってきた。

そして、だれも寝てはならぬを歌う。


「こえぇーわー…、やっぱりこの声…」

深夜に聞く声じゃないわぁ…。


それでも、一緒に練習してたんだなぁと思うと、妙に胸に迫る思いがある。

「だれも寝てはならぬじゃないよ。もう寝るの」


そう言うと、のそのそとカゴに戻っていく。

(そうか、あのカゴはベッドなのか)


ということは、ベッドに戻らずにずっと待っていたと言うことなのかもしれない。

パソコンは開いたままで、YouTubeのだれも寝てはならぬと君と旅立とうのムービーが無数に再生された履歴があった。


さすがに、エロ画像とかこっそり見たりしてないよなぁとおかしくなった。私と見た動画だけを何度も繰り返してたのか…。


おかしくなったけど、何故か泣けてきた。

いろいろあったから情緒不安定だ。

少し眠ろう。

きっと夜が明けたらシローズちゃんがまた迎えにくる。


私は、夢で今日の人型と獣型のわるもんの夢を見た。


私は獣型のわるもんで、人型わるもんを恋しがっていた。屋根裏みたいな迷路の中で、ドロドロの血の涙を流しながら恐ろしい人間に連れて行かれる人型わるもんを追いかけていた。


迷路は複雑で人型わるもんは見えているのに、全然追いつけない。


暗くて狭い屋根裏の通路は木製で、破壊しようと思えば破壊できそうなのに幼い私は涙を流すだけだった。


私は夢の中で、もっと大きくなりたいと心の底から願っていた。





朝、今日も、シローズちゃんは私を誘いに来た。


外で大声で呼ばわる声は変わらない。

私は気もそぞろで、足元にまとわりつく『わるもん』を抱えながら本当に軽く小さくなったなと考えた。

最近構ってあげてなかったし、気になっていたのは、あの人型と獣のわるもんのセットの連行。


彼らは、どこへ連れていかれたのだろう。


野良の獣型は、やはり処理場でおまんじゅうを食べさせられて処理されるのだろうか。

じゃぁ、人型は?


気になる…。

気になってしょうがない…。


圧倒的なマイノリティの一族で、彼らは困ったことに世界が排除しようとしている一部族のようにも思えた。


相変わらず、シローズちゃんは、よく喋った。

私のそばから離れないようにしっかりと手をつなぐようになっていた。女子学生が手をつなぐのは時折見たことがある。だが、社会人でそんな子を見たことはない…何かのプレイのようだったが、考え方に気を取られていて手を振り払うのも忘れていた。


そのまま、電車に乗って会社まで。

部長、優しくなるといいですねー。

昨日あれだけお話したから、大丈夫だと思いますけど…。


彼女は、一種の愛着障害を患っているのかもしれないと、漠然と考えていた。

「今度、先輩のおうち、遊びに行ってもいいですか?」と縋るような目で見てくる。


それはダメだ。

うちには『わるもん』がいる。

しかも、つがいで…。


ごめんね、シローズちゃん。

私、ヒトをおうちに呼ぶのダメなんだー。


そう言うと、シローズちゃんは無表情な顔をして、私を見つめ直して動きを止めた。


アカネ先輩は、私がキライなんですか?

その言葉を発すると、大きな目からぶゎっと、涙が溢れ出てきた。


嫌いというか、苦手なんだ。という言葉を飲み込んで、そんなことはないよ!と言った。


ちがう!ちがいます!アカネ先輩は私のことが嫌いです!だって、あんなにフードコートでお説教しちゃったし!お金払わずに帰っちゃったし!!


と叫んで、電車の中で大声で啜り泣きながら崩れ落ちた。

この子は!!なんで電車の中でこんなに人の注目を浴びるのが好きなんだろう!!


シローズちゃん、一旦降りようか!と体を抱えようとするとだめです!会社に遅れます!と頑として降りようとしないどころか、すごい声で泣きじゃくり始めた。


ぐはぁああ!情緒不安定!!極まる!!


「白水さん!!公共の場で大声で泣かない!零点をつけますよ!!」

私がそう言うと、目からぼたぼたと涙を流しながら泣き止んだ。


周囲がザワザワしているのに今更ながら気づいた。

名物百合カップルとして、この路線での人気者になっていることだろう…。


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