5
森。葉が生い茂り日光もあまり届かない薄暗い森。閑散としており、涼しい風が吹き込んでいるためか、とても静寂で不気味さに包まれている。でも嫌いじゃなかった。元々人通りの多い場所は苦手だったから、こういう環境は非常に望ましい。
パキッと乾いた枝を踏み折った。なんという心地よい感触か。音も良い。これからも見つけたら踏んでみよう。
顔に露で濡れた葉っぱが当たった。冷たい。濡れた。これは不快だ。次からは当たらないよう気をつけよう。
少し離れた場所で何かが飛んでいるのを見つけた。ヒラリヒラリと薄い羽で飛んでいる。奇妙な生物だな。アレはなんだろうか。もしかして、舞い遊ぶように姿を見せた虫なのかな。
木枝の上を小動物が駆ける姿を見つけた。可愛いな、アレ。しっぽがクルンってなってて、手足がちっちゃくて。此方に気付いて足を止めて見つめてきた。クリンとした目も愛らしい。
あっ、濡れた葉っぱだ。避けよ。
「ここら辺ぬかるんでるから気を付けてねー」
「ん。大丈──うわっ!?」
「おっと、言ったそばから転び掛けてるじゃないか」
足が前に滑り、体が後ろに傾いた。フィナ姉に体を支えられ何とか転倒を免れる。助けが無ければ背中から盛大に転けていただろう。危なかった、と胸を撫で下ろす。
「ん······ぬかるみに足を取られただけです······」
「それを注意しろと、私は言ったつもりなんだけどな」
確かにそう言われていたかもしれない。他の事に意識を向け過ぎて聞いていなかった。
フィナ姉の呆れた声にボクは黙る事しか出来なかった。
「ふふっ。手間のかかる妹だねぇ。余所見しても良いけど、足元には気をつけるんだよ」
「んぅ······ごめんなさい······」
ボクらは森の中を歩いている。とても広大な森。何処を見ても同じような木々が生えており、右も左も分からないこの森をフィナ姉は迷いの無い足取りで進んで行く。
フィナ姉の左手には例の犬──じゃなくて狼が吊るされている。狩った獲物だから持ち帰るらしい。奪った命を無駄にする行為が狩人の禁忌だと語っていた。
持ち帰るという事は食べるということだよね。狗肉はあまり美味しくないと聞いているが、狼はどうなのだろうか。多少の興味はある。そんな思いで解体作業を手早く行うフィナ姉から視線を外した。
因みにフィナ姉の右手にはボクの左手が収まっている。頼んだら握って貰えた。やはり手を繋いでもらった方が安心する。目は使えるけれど安定感が違うんだ。
「ユキ、疲れてないかい?」
「んっ、それは大丈夫です!」
「ははは。疲れたら直ぐに言うんだよ。わかったね?」
「んっ!」
それからボクらは暫く歩き続けた。不思議と足が痛くなることも無く、休憩も取らずに歩き続けられたのだ。身体能力がミソッカスなボクが疲れなかった。その理由に関して特に考えはしなかった。
そしてフィナ姉の住む場所、エーハイアントという村に辿り着いたのだ。
※ ※ ※
村は村と呼ぶには些か奇妙な形をしていた。というのも、ボクにはこれらが唯の木々にしか見えなかったのだ。
ツリーハウスという表現をすればいいのだろうか。ただ、あれは木の上に作るものであるのだから、意味は違って来るのかもしれない。
この村の家は全て木に造られていた。木で、という事ではない。木製の家ならまだ良かった。ここにある家は全て木に造られているのだ。と言うか、木が家になっているのかもしれない。
太い樹木の中をほじくって抉り出したのか、それともそういう外見に寄せて作ったのか。どちらにしても凄いとしか言えない。利便性はどうなのか知りたくなった。
「どうしたの?早くおいで」
「ん、あ、うん!」
立ち止まっているとフィナ姉に手を引かれた。慌ててボクも足を動かし始める。
辺りを見渡しながら、フィナ姉の後を着いていく。何か視線を集めているような気もするが、フィナ姉は何も反応せず歩くのでボクも黙って従った。
訝しげな目、奇っ怪なものを見る目、様々な視線がボクらへと向かう。まぁ、そういう目線は慣れている。昔から異様に見られている事は察していた。そしてそういう人達の目線を気にしていたらキリが無いという事も分かっている。話し掛けてくれる人だけを相手すればいいのだ。
故に離れた所から見てくるだけの人達には構わなかった。
フィナ姉の家は村の奥にあるらしく、少し早歩きで村を進んだ。そして1つの家に辿り着く。
樹木にくっ付いたドアを引いてその中に入った。
広さはそこそこ。普通の生活をする分には申し分ない。フィナ姉が何かをいじって灯りを点けたので、明るさも十分。
ただ、人の気配は無く、フィナ姉の家族が住んでいるようには思えなかった。それらは部屋の中の物寂しい雰囲気を悟ったのだ。
「はー、今日は一段と人目を集めた。ユキが可愛いから注目されたのかな」
「ん、いや、そんな事無いと思いますけど······」
「案外と外れてないと思うよ?ユキの銀髪は綺麗で目立つからねぇ」
そう言ってくれたフィナ姉に頭を撫でられ、ボクは気持ち良さに目を閉じた。
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