新進気鋭パーティの雑用係が追放されて盲目剣聖様の世話係になるお話
めぇりぃう
新進気鋭パーティの雑用係が追放されて盲目剣聖様の世話係になるお話
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「金輪際、俺達のパーティに関わるな」
バラーシャという水産業が盛んな町の、とある宿の一室にて、5人の若者達が集まっていた。内女性3人は椅子に座り、用意された茶菓子とお茶を楽しんでいる。残りの男性2人の内、片方は入口で尻もちを着いて、もう片方はそれを見下ろしていた。
見下ろして口を開いた人物は、身の丈程の大剣を背負い、竜の鱗で造られた鎧を身に纏う青年。外見的特徴と言えば、真紅とも呼べる短髪と瞳。異性から良くモテる彼の名をグレッドと言い、最近名を上げ始めてきた冒険者パーティである『金龍の息吹』、そのパーティリーダーを務めている。
冒険者という職業におけるパーティには、その格を表すランクという制度が用いられていた。一番格下であるFから始まり、最上格のSまでランク付けされている。
『金龍の息吹』というパーティのランクは、上から3つ目となるBランクである。近々、更に1つ上のAランクになれると噂されている程、パーティの実力は若手の冒険者の中では抜きん出ていた。同期に結成された他のパーティが、殆どCランクに到達できていない事実を知れば、彼らの実力を多少なりとも理解することが出来るだろうか。
大剣使いのグレッドを初め、槍使いのルーブ、弓使いのマグリーン、魔法使いのイフェローの4人共が、それぞれ天才と謳われる実力を誇っている。圧倒的な火力で如何なる敵もぶっ飛ばしていく方針を掲げているパーティであった。
そんな注目を集めているパーティの中で、結成当初から2年間苦楽を共にしてきたメンバーが。リーダーたるグレッドに解雇処分を言い渡されていた。
告げられ、驚愕の表情を浮かべる人物の名をファナ。武器の類は身につけておらず、防具もボロボロの革鎧を継ぎ接ぎして、紙に近い防具を何年も使っている。こんな、まるで前線に立っているような格好ではないが、それもそのはず、彼はこのパーティの雑用係であったからだ。
雑用係と聞けば、パーティの中での下っ端、というイメージをもつかもしれない。あながち間違いとは言いきれないが、これは列記とした役割なのである。欠かせない、欠かしたくない役割。これが"雑用係"に対する高位冒険者達の一般的なイメージだ。
何故かと言うと、冒険者という職業柄、大抵のクエストが遠出して行うものであるからだ。その際の食事や装備の整備など、長旅に必要となってくる細々としたものが発生してくる。それらは各々が整える必要がある。戦闘に長けていたとしても、こういった事に疎い者は冒険者に多い。しかしそこなえば、クエスト失敗という危険性も現れてしまう。それを解消したのが、非戦闘員の雑用係だ。
戦闘以外に重要な事を彼らに任せ、自分達は戦闘に集中することが出来る。一方で雑用係もパーティとして含まれる以上、報酬金を得る権利を有する。高難易度のクエストは報酬がかなり多いため、雑用係は自分で稼ぐことの出来ない報酬を頂くことが出来るのだ。
これが雑用係というパーティの立ち位置である。
ではここで少し、"ジョブ"という産まれた時に神より与えられる力について簡単に説明しよう。
神より与えられしジョブ。それは〈剣士〉であったり〈建築士〉であったり、〈料理人〉であったり、果ては〈勇者〉というジョブまで、様々なものが存在している。多種多様に在るジョブの中から、生涯で1つのみ、神より直々に与えられるのだ。
このジョブは産まれた時より決められており、体のどこかに現れる紋章に依って、その者が持つジョブ定めている。それぞれのジョブを冠した紋章。〈剣士〉ならば剣を元にしたような紋章が、〈建築士〉ならば、〈料理人〉ならば、〈勇者〉ならば、と。それぞれの紋章が体に現れる。
生後間も無くして、幼児の性別の次に知らされるものがジョブである。そこで喜ぶものもいれば、悲しみ、落胆する者もいる。親が望むジョブが選ばれないケースはよくあることだ。
選ばれるジョブには法則性は無い、と言われている。親のジョブを継ぐ可能性が1番高い、ということだけは噂されているが、もちろん遺伝しない場合の方が多くある。辺境の地にある〈農民〉や〈漁師〉など、非戦闘系のジョブ持ちしかいない小さな村で、〈勇者〉が誕生したという記録も存在している。そのように、ジョブは神の気まぐれによって決まっているのだ。
更に話を続けるとしよう。
通例、自分が選ばれたジョブを元に、将来の職業を選択する。
例えば〈剣士〉に選ばれれば、その先にある職業は騎士であったり冒険者であったりする。〈建築士〉は言わずもがな、建築に関する職業に。〈料理人〉も同じだ。〈勇者〉というものは少し特殊だが、それ相応の役割を担っている。
このように、神より与えられしジョブは、その人の人生を決める。そう言っても過言ではない。
もちろん、ジョブが指し示す職業以外の職業を選ぶ者も居る。親の家業を継ぐために、自身が抱く夢を叶えるために、与えられたジョブに無関係な職業に就く場合もある。
しかし、そのジョブを持った者と比べると、その仕事に対する能力が圧倒的に劣ってしまう。天と地の差と言っても良いほどの。
その差を作る要因の一つに、スキルという異能が存在している。
スキルはジョブに関連したものしか取得することは叶わない。他のジョブに関わるスキルは、決して得ることが出来ないのだ。
〈剣士〉ならば初めに取得する《スラッシュ》というスキルがある。このスキルは剣を振る時に発動可能で、切れ味を上げる技だ。1度使うと再使用までにクールタイムを多少要するものの、この技1つあるかないかだけで攻撃力に大きく差が開く。
〈魔術士〉というジョブでは、"魔法"と呼ばれている特殊技能の補助スキルが多く存在する。《魔力回復》や《詠唱破棄》など、魔法を使う上で必要となってくる技能を、スキルという形で会得することが出来る。
そして、どれほどの努力を詰んだとしても、〈剣士〉では無い者が〈剣士〉のスキルを得ることは出来ない。〈魔術士〉では無い者が〈魔術士〉のスキルを得ることは出来ない。
このようにジョブ持ちとジョブ無しでは、根本的な才能が違ってくる。初めから作られている差は、簡単に埋まらない。例え、ジョブ無しが何年も剣の鍛錬を続けたとしても、剣を持って1日目のジョブ持ちに劣ることも有り得てしまう。
ジョブ無しはジョブ持ちに勝つことは出来ない。それが一般常識であった。
さて最後に、〈雑用〉というジョブについて話をしよう。
一般的に、ジョブには優劣なぞ無いとされている。神より与えられたもの。そこに差は無いと、そう世間では言われている。
しかし、人間というものは他者と比べたがる生物だ。同じジョブで比べるのなら可愛いものだが、違うジョブ同士で比べてしまう。
ここで比較対象に挙げられてしまうジョブこそが〈雑用〉なのである。
と言うのも、〈雑用〉にはスキルが多種多様にあるからだ。料理関連、掃除関連、武器の整備やら何まで様々なスキルを会得することが可能である。一見、非常に優秀なジョブに思える。
が、どれも本業と比べると見劣りしてしまうものばかり。〈雑用〉はやはり雑用係という枠組みから抜け出ることが出来ない。これを料理関連のスキルを例に挙げて説明しよう。
〈料理人〉であれば、下処理から調理、盛り付けに至るまで、その全てをスキルによる恩恵が与えられる。料理に関することなれば、殆どをスキルによって最高な出来に仕上げることが可能なのだ。
一方で〈雑用〉は、下処理という作業しかスキルで補うことが出来ないのだ。それ以外の調理には対応していない。
どこまで極めたとしても、その手の本職に勝ることは無い。しかし、多くのスキルを持つが故に、本職と比べられてしまう。
こういう理由により、〈雑用〉というジョブは普通の職業に就けば下に見られてしまう。〈雑用〉と言うだけでまともな金を貰うことが出来ない。職に就くことが出来ない。
〈雑用〉は路頭に迷い、そして行き着いた先が冒険者という職業であった。
冒険者とは、基本的にモンスターと呼ばれる人に害を及ぼす生物を討伐する職業である。一攫千金を狙う〈剣士〉や〈魔術士〉などの戦闘職が多く所属している職業だ。
運営のシステムは、民間人より依頼を冒険者ギルドが受け、冒険者の実力に合うように任務を分配する。任務の達成度に合わせて各々個人の実力を示すランクを決定し、ランクが上がれば高難易度だが高報酬の依頼を受けられるようになる。ランクはパーティのランクと同様に、一番格下のFから最上格のSまで振り分けられている。
F、Eは初心者。D、Cは中級者。B、Aは上級者。Sは人外と言われている。
こんな冒険者という職業において、〈雑用〉はとても有能なジョブであった。もちろん戦闘面では一切の活躍はない。しかし戦闘面以外では大活躍するジョブであった。
遠征に出ている時、本格的な料理を出される必要なんて無いし、鍛治をするような場所も時間もない。簡単に美味い飯を作ることが出来て、簡単に武器のメンテナンスを行えて、身の回りの手伝いをしてくれる〈雑用〉は、とても重宝される人材であったのだ。
こうして〈雑用〉を持つ者の殆どは冒険者へと流れて行った。そして冒険者ギルドは、〈雑用〉専用のランクを設けることに決めた。高ランクのパーティに、あまり使えない〈雑用〉が入り、報酬だけを受け取るという事を避ける為である。お互いに合ったランクでパーティを組めば、不和が起こらないだろうと判断したのだ。
雑用係ランクにはFからAまでが設定されている。このランク付は、他の冒険者ランクとは違い、検定料を払って試験を受けなければならない。活躍に応じてランクが上がるわけでないということだ。試験を受けないという選択肢もあるが、ランクを持たない者がパーティに雇われることは無かった。その為、高い検定料を払って試験を受けなければならなかった。
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