9/23(水) 部田凛々子⑤


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 七瀬と詩織先輩を帰らせて、凛々姉と俺はPCの打ち込み作業を片付けていた。

 もう外は完全に暗闇で、部活動の人たちもほとんど帰っているようだ。

 凛々姉は言わないけど、金曜に休んだ分の仕事が溜まっていたのだろう。手伝ったけど、山積みの資料はちょっと引くレベルだった。



「おし、終わったあああああ。凛々姉は?」



 片手で眉間を揉みながらもう片手はあげて、伸びをする。凛々姉はパソコンを閉じて、笑みを浮かべた。



「こっちもきりのいいところまでは終わってるよ。ご苦労さま。お茶はまだある?」

「んーない。ありがとー」

「……まあ入れてあげるけど」



 机にばたんと突っ伏して目を閉じる。ひんやりして気持ちがいい。もうちょっとゆっくりして帰ろ。



「今日は遅くまでありがとう。はかどったよ」



 コポコポコポと、目の前のカップにお茶が注がれる。



「俺いないとき、いつもこんな遅いの?」

「毎日ではないけど……たまにかな。詩織は遅くまで残しておけないしね、か弱い女の子だから」

「いや、凛々姉もか弱……?い女子だから、自分のことも心配しなよ」

「今言葉詰まってなかった?」

「しゃっくりが出そうだっただけっす」



 ともかく、女子をこの時間まで残らせるのは危ないし、たとえ危なくないにしろ、俺がなんか嫌なんだよな。

 文化祭が終わるまではなるべく虎蛇にいるようにしよう。うん。凛々姉の役に立ちたい。



「ここ、ソファがあれば最高なんだけれど……。その点だけは生徒会が羨ましい」



 凛々姉はパイプ椅子に座ったまま壁に頭を預けていた。あんまり見せないけど、結構限界なんだろうなあ。

 よし、そしたらここはちょっとした小鳥遊ジョークで和ませてやるか!



「凛々姉、ハグしてもいいよ?」



 はい小鳥遊チョイスミス! 完全にただのセクハラだったわ。

 と思っていると、ガタガタッと大きな音をさせて凛々姉は椅子を倒しかけていた。

 だけどそこは凛々姉。持ち前の運動神経でどうにか壁にしがみつく。



「は、え!?」



 上ずった声を出すから、こっちも焦る。



「え!? こ、これはハグを30秒するとその日の1/3のストレスが解消されるという脳科学にのっとった誠に最強コスパな的な観点からの交渉であり決していやらしい話ではなく」

「……なに早口で喋ってんの、気持ち悪い。あんたのせいで余計ストレスたまるんだけど。ああ、それ以上近づかないでくださいね」



 鋭利で非難めいた視線に、心に思わぬ深いダメージを負うことになった。みなさん気軽な気持ちでのセクハラはダメ絶対だよ?



「えっと、それは冗談として、凛々姉、もうちょっと時間ない?」

「家には遅くなると伝えているし、チュン太のおかげで思ったより早く終わったから大丈夫だけど」

「そしたら、ちょっと付き合ってよ」



 そう言って、俺は外を指さした。

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