9/23(水) 部田凛々子⑥

 ……たっしっかー。あったあった。



 野中のロッカーを探って、目的のブツを出す。凛々姉にはバケツに水をくんで待ってもらっていた。



「ありがとっ。行くよー」



 凛々姉の手からバケツを受け取り、階段をのぼる。



「チュン太、これ以上はなにも……」

「あれ? 凛々姉って屋上行ったことなかったっけ?」

「え、屋上?」



 屋上の扉を開ける。凛々姉は恐る恐る外に出て、しばらく言葉を失っていた。



「……きれい」



 ようやく口からこぼれたとおり、今日は星がよく見える。



「黒い海もまたいいよねー」



 バケツを下ろして、フェンスに寄りかかる。凛々姉も隣に来て、夜を眺めた。



「気持ちいい……」



 潮風が吹き、夜空はきれいで、自然に囲まれた俺たちの街。

 そしておもしろい先輩が隣にいる。いい人生なんだよなあ、俺。



「で、この時間から掃除?」

「いやだ、これだからまじめちゃんは!! ほら、花火しようぜ」

「…………ええっ!?!?」



 手に提げていたビニール袋から、「お徳用!」と書かれた割とでかめの花火を取り出す。



「ばっ! ここ学校! 火災探知機とか……」

「屋上だからないけど」

「いやでも、向かいの校舎の先生に見つかったら……!」

「端でやれば大丈夫っしょ〜。野中といつかやろうって買ってたんだよなー1年のときに」

「だったら、そんな大事なものを使ってもいいの?」

「また買えばいいし。今日、凛々姉と、学校で思い出作りたいなって思って」



 凛々姉が無言になる。暗くてよく見えないけど、たぶん怒ってはない……よね?

 花火を出して並べて、スマホのあかりで説明書をなんとなく見る。



「あ、あたしこんな校則違反、今までやったことないし。これ誰かに見つかったら、虎蛇だってかなりヤバいわよ」



 隣で凛々姉はそわそわし始めた。確かに今問題を起こすとまずい……。



「んじゃ、今日はちょっとだけにしようぜ。どれからやるー??」

「やるのはやるのね……」



 観念したように、凛々姉はカバンを置いて隣にしゃがみこんだ。

 あたしはこんなとこにいられるか! って出て行かなかったのが意外だったな。

 まあそうやってひとりになったら、殺人鬼に殺されるのがオチだもんね。フラグ回避してえらいぞ凛々姉♪


 先生たちに見つからないように奥側のフェンスに座って、手持ち花火に火をつけた。チリチリと先の花びら紙が燃え、根元に点火し、色のついた火が噴射する。



「わあ……!」



 あかりに照らされた凛々姉の目が輝く。



「そのままじっとしてて。火もらうね」



 自分でも手持ちを選び、凛々姉の花火に近づける。先端が燃え、少し待つと同じように火が噴出した。



「火はバトン方式でつけてください」

「わ、わかった」



 ただの火なのに、どうしてこんなにわくわくするんだろうなあ。令和になっても古くからある花火、みんな好きだし。

 と、凛々姉の花火の威力が弱々しくなっていく。



「凛々姉、次の花火の用意用意!」

「ええっ、どれ?」

「いや俺もどれがどんなだか知らんし」

「確かにそうよね。じゃあこれにする」



 選んだ花火の先を、俺のまだ元気な花火の根元に寄せてくる。

 ……なんかこの行為、改めてドキドキするな。

 妄想がたくましいせいで、ちょっと口数が減ってしまう俺だった。

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