2017年 冬⑥


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 思ってた通り、準備期間の1カ月はあっという間だった。でもそれは、決してまばたきをするような一瞬じゃなかった。

 あたしにとって、こんなにも濃い1カ月は今までになかったと思う。

 ひとりで頑張ってきた今までとは違う。あたしには味方がいる。


 チュン太もきっと不安でいっぱいのはずなのに、あたしの前では常に笑ってくれていて、彼の強さにはとても励まされた。

 それからこれは思わぬ副産物だったけれど、チュン太といると、人が寄って来るようになった。



部田とりたさんって怖い人かと思った! でも違うんだねー」



 そんなことを数人に言われて驚いた。

 あたしは自分が他人からどう見られているか、気にしたことが一度もなかったから。


 だから、見た目のことだって。ううん、見た目はもとより自信がない。


 そんなことをうっかりこぼすと、チュン太は言った。



「あはは凛々姉、それもったいないよ!」



 恥ずかしすぎて思わずカバンで殴ったけど、すごくうれしかった。

 それからあたしはメガネをやめてコンタクトにして、演説の前には髪の毛をショートに切った。


 笑われるかと思ったけど、選挙の日、体育館の舞台袖でチュン太は言った。



「凛々姉はすごいね。再会してわずかなのに、日々、カッコいいを更新してる」

「な、なにを言ってるの」

「でも今日はその一歩だし、これからもっと手の届かない人になるんだね!」

「……え?」



——部田凛々子さんの応援演説は、1年A組、小鳥遊知実さんが行います。



「じゃあちょっち場を温めてくるぜぇ!」



 チュン太が颯爽と舞台へと出て行く。


 あたしはその背中を、口を半分開けたまま見送った。

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