6/25(木) 葛西詩織②
結論から言うと、音和は先に帰ってしまっていた。
いちごらが帰ってからスマホを確認するとメッセージがいくつか届いていて、『帰ったなら帰ったって言えーー!!』というメッセが最後に送られていた。
どうやらなかなか迎えに行かなかったから、俺が先に帰ったと勘違いしたらしい。スマン、音和。
んじゃどうせヒマだし、学校を探索して帰るか。誰かいるかね。
虎蛇にも寄ってみたが、鍵がかかっていた。会長も帰っているらしい。
テスト前は部活もないから、放課後なのにグラウンドもおそろしく静かだ。
たったひとつ、職員室以外で電気が点いている部屋の前で足が止まる。
図書室……。葛西先輩は今日もいるのかな。
そういえばあれから先輩と話してない。つか、どんな顔して会えばいいんだろう。いや……会えないだろあんなに拒絶されといて。
はあ。いいや、今日は帰ろ……。
「きゃ!」
「!」
戻ろうと振り返ると、すぐそばに人がいた。その人は全力で俺を避けて、ひとりで壁に激突していた。
「わああ!! 大丈夫!? ……って、先輩!?」
「いたた……た、小鳥遊くん? ごめんなさい、大丈夫ですか!?」
葛西先輩は壁に寄りかかったままの姿勢で、額をさすりながら俺を見上げた。
「壁にぶつかったのは先輩じゃん、ケガはない!?」
「うぅ、ごめんなさい、ぼーっとしてて……」
そう弱々しく笑ったかと思うと、ふと、何か思い出したように顔を曇らせてうつむいた。
「本当に大丈夫ですか?」
「はい」
「いや涙声なんですけど。どこか痛むんじゃ」
「……はい」
蚊の鳴くような小さな声だったけどはっきりと先輩は肯定した。
豆腐くらい弱そうだもんな先輩。見た目からして虚弱の塊って感じだし。
「とりあえず保健室に……」
「……あの、場所、変えませんか?」
「え?」
あれ? 怪我は?
┛┛┛
自販機前に移動してベンチに腰掛けた。朝だけじゃなくてこの時間も学生はほとんどいない。よっぽど不人気なんだな、ここ。
俺が座ったのを見て、恐る恐る先輩も隣に座った。
「……買い飲み……初めて」
「財布持ってないとかびっくりしたんですけど、先輩どうやって学校で過ごしてるんですか」
「?」
現金を持たない先輩の分の飲み物も俺が買うはめになったんだけど。……喜んでくれてるからまあいっか。
っていうか。なんでこーやって仲良く並んで、りんごジュースなんか飲んでるんだろう、俺たち。
「た、小鳥遊くん」
ふいに先輩が俺の名前を呼ぶ。俺はジュースに口をつけたまま、顔だけ向けた。
「一昨日はごめんなさい。あのときのあなたの顔が、ずっと頭から離れなくて……」
「あーいいっす……」
そんなひどい顔してたのかな。なんかもういい、忘れたい……。
「誘ってくださって、うれしかったんです。とても素敵なご提案でした。でも……私、誰とも一緒に下校はできないんです」
「? なんでですか?」
先輩はふるふると首を横に振った。話せない……か。
先輩にだって、言えないことくらいあるよな。……俺でも、あるんだから。
「ごめんなさい……」
「オッケーわかりました。嫌われてるのかと思ってたから」
「そんなことは、絶対にないですっ!」
あまりの剣幕にびっくりする。
というか葛西先輩が大声出すだけで、めっちゃビビる。
「そ、そうすか? じゃあ、仲直り?っていうのも変だけど……これからもよろしくってことで」
「こちらこそです。……うぅ、言えなくてごめんなさい」
しょんぼりとしている先輩に笑いかける。
「気にしてませんって! よし、じゃあ俺、スッキリしたから帰ろうかなーっと」
「はい」
「先輩は図書室?」
「私も帰ります。えっと、校門までご一緒してもよろしいですか?」
「よろこんで!」
校門まではセーフなんだな。
こうやってできる限りのことでいいから、無理のない程度に、先輩と関わっていけたら。……まあいいか。
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