6/19(金) 野中貴臣④

「あーごめん。雨だったし食べるところがなくて」

「教室は? ……って、ああそうよね」



 会長の視線が音和に移る。



「ああ、うん。コイツを2年の教室に連れて行くのもかわいそうってのもあるんだけど……」



 隣にいる男を指さす。



「先にコイツがキレたわ……」

「飯は落ち着いて食いたい派なのですボク」

「いつもお前がうるせーんだけどな」



 心底げんなりとした様子の俺を見て、葛西先輩がにこにこと頷く。



「そうですね。女の子に囲まれて大変でしょうね」

「は? なんで? 誰が?」



 ちょ、今度は会長がケンカを売ってきた!! 野中うるせーから喋らせんなよ!!

 おそるおそる隣を見ると、意外なことに野中は笑っていた。



「たかおみ、ドエムだったのか……」



 軽蔑をこめた調子で音和がつぶやいた。



「あらあ? どの口が言ってるのかしら、お嬢ちゃん? 人が死んでいる墓地の話でもしてやろうかオラア!!」

「ぎゃーー!! ポマード! ポマード! ポマーードーーーー!!」

「墓地は死んだ人がもともといる場所だし、ポマードの呪文は対ゾンビ用じゃねえから!!」



 いつものように俺をはさんでケンカする二人を止めていると、会長がにやけているのが見えた。



「なん!! すか!!」

「いや。穂積がこんな元気なの初めて見たから」

「ああ、野中にはなついてるんだよこいつ」

「どこが!! なついてないっ!!」



 顔を真っ赤にした音和が俺の腕を引っ張る。



「あたしは、知ちゃんと二人でごはん食べたいのに、たかおみが邪魔するんだよ!」

「邪魔なのはお前だからな。だって俺となっちゃんの絆は海よりも深く、ザトウクジラより重……」

「あたしとの絆のほうが、鉛筆の芯より硬い!!」



 音和はテーブルの上にあった筆記用具のうちのひとつを掴み、野中の額に投げつけた。



「いって!! ……ってかお前これ鉛筆じゃなくてボールペンじゃねーかよ!」

「シット!」

「嫉妬とshitをうまくかけたつもりか? どや顔してんじゃねえ!」



 野中が席を立ち上がったところで俺は膝蹴りを入れた。



「ニャア!!」

「よそ様のおたくではうるさくしないの!」

「変な声出たろー! なっちゃんの過保護! このパパ活クソ野郎ーーー!!(涙)」

「誰がパパ活だ! わーったからメシ最後まで食えって。音和もホラ隙あらば箸で野中の目をつぶそうとしない!」



 両手でそれぞれの手を押さえつけて威嚇すると、二人ともしばらく睨み合ったのち、ぶすっと膨れてきちんと前を向いて座り直した。



「あっはは。どうやってしつけてるのそれ」



 なぜか会長にはバカウケだった。



「バカとはさみは使いようっすから」



 俺はため息をついてみせた。



「なっちゃん」



 口にパンをほおばりながら野中がこちらを向く。



「ところでバカが音和で俺ははさみ、だよな?」



 野中。

 はさみは人間じゃないけどお前は本当にそれでいいんだな?

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