遠い夜明け(改題しました)―戊辰戦争で徳川慶喜が大阪城から逃げなかった結果、最悪の未来を辿った世界を知る何の力もない老人が、黒船来航直後から、幕末の英雄たちと一緒に歴史の再改変に挑みます

遊海 実

第零話 BAD END

歴史とは違う。


江戸城が燃えて、崩れ落ちていく。

何故だ。どうして、こんな事になったのだ。

本来の歴史では、江戸は無血開城。

江戸の街は被害を受けることなく、江戸っ子は無事に明治維新を迎えたはずなのに。

燃え盛る街、逃げ惑う人々、吹き飛ばされる建物、瓦礫の下で死んでいく人々。


砲撃しているのは、何処の船だ?

イギリスか?ロシアか?それとも、アメリカか?

船は遥か遠くにあり、船の形は見えても何処の国の旗なのか見えやしない。

聞こえるのは砲撃の轟音。

砲火の後に街が吹き飛ぶ。

攻めて来なかったはずの異国の船がどうして、ここにいるんだ?


俺か?俺が悪いのか?

今よりも良い明日を求めた結果がこれなのか?

本来の歴史が奇跡なんであって、それ以上の結果なんて、求めてはいけなかったのか?

歴史を変えようなんて、烏滸がましいことを考えるべきではなかったのか?


こちらの甲鉄船は、何処にいるんだ。

甲鉄船なら、この時代の最新鋭艦。

何処の国の艦隊にも対抗できるはずじゃないか。

まさか、もう異国の艦隊に撃沈されてしまったなんてことはあるまいな。


今、江戸にはこの艦隊に対抗する戦力はないようだ。

もともと、日本は海に囲まれた国。

全ての沿岸を守ることなんて出来ないんだ。

だから、海軍が必要なのに。

艦隊が、誰も止めるものがいない中、砲撃を繰り返している。


何か方法はないのか?

このまま、日本は異国に支配されることになるのか?


まったく、どうして、こんなことになってしまったんだ。

これなら、何もしない方がマシだったじゃないか。

俺は余計なことをするべきではなかったのか?


これから挽回する手が何処かにあるのだろうか。


江戸が燃えていく。

燃え盛る炎が迫る中、瓦礫の下敷きになりながら、男は思う。


砲撃を受けながら燃え上がる江戸の街。

折り重なり燃える死体の山。


それが、男が最後に見た光景だった。

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