魔力ゼロの神殺し
デンチュウ
序章 500年後の科学技術
「この論文は素晴らしい!だがこれは我々に預からせて欲しい!」
高層ビルの最上階の一室。決して広いとは言えない部屋の中、誰にも言わぬようにと念押しをされ入室すると誰もが知っている有識者がずらりと並んでいた。テレビや科学雑誌に取り上げられている人やノーベル化学賞を受賞した人までいる。中央にポツンと置かれた椅子に腰掛けるように言われたがこれではまるで一流企業の面接のようだ。
「あの…何も聞かされないまま誰にも言わずにここまで来るように言われたんですが、これはなんですか?」
不機嫌そうな顔をしていると、椅子に座るなり論文を預からせて欲しいと言った1番偉そうなおじさんが前のめりになりながら口を開く。
「この論文は読ませてもらった。実に素晴らしいものだ!必ず世界を変える物になっている。ただ、これを君はマサチューセッツ工科大学の卒業論文として発表すると聞く。本当かね?」
「まぁ、そのつもりですが何故それをあなたが持ってるんですか?バックアップも取らずに紙媒体として自分の部屋に保管していたんですが?」
「それは…いや、それよりも君はただ分かりましたと答えれば良い!単刀直入に言う!この論文は世に出てはならない!なのでこの論文はこの場で破棄とする。以上。」
「えぇー!それだと今から論文書き直しですか?それはさすがに…」
「はぁ、これは日本政府の決定だ。君なら1ヶ月もあれば適当に書いてもノーベル賞くらい取れるだろ。話は以上。ご苦労だった。」
話を一方的に終了され、反論の余地もなく部屋から出された。特に苛立つような感情もなくエレベーターに乗り込み地上に降りる。何となくは分かってはいたが、せっかくだしとちょっと本気を出したのがいけなかった。
「はぁ、抑えたつもりだったんだけどなぁ。また検閲に引っかからない程度の論文を書き直すのめんどくさいなぁ。」
ため息をつきながら大きい自動ドアをくぐりビルの外にでて、一人暮らしのアパートに歩き出す。
「やぁやぁ!遅かったでござるなぁ!龍也殿!」
「あぁ、タカシかぁ。先に帰ってればよかったのに待ってたの?」
「何を言ってるでござるか!せっかく龍也殿が日本に帰ってきてると言うのに何もせずにアメリカに返すわけがないではないか!」
ビルの入口の柱の陰から出てきた幼なじみのタカシと一緒に並木道を歩く。普通幼なじみと言ったら可愛い美少女だったり、俺をお兄ちゃんと慕ってくれたり、はたまた1つ上のスタイル抜群のお姉さんだったりが相場だが、俺の場合は違う。小太りで四角いメガネをかけて頭にバンダナ。一昔前のオタクそのもの。いや一昔前の漫画やアニメに出てくるTheオタクである。
「で、論文はどうであったか?」
「どうも何も破棄だとさ。反論は認めん!的な感じでさ。」
「それは酷いでござるな!まぁ龍也殿だったら論文の一つや二つ何とも思わないでござろうが。強いていえば、めんどくさい!って思ってるでござるね!」
タカシはとにかく居心地がいい。俺が生きてきた17年の中で最も信頼してる親友だ。
物心着いた時から小学校が終わるまでずっと一緒だった。俺は小学6年生が終わると同時にアメリカに飛んでタカシは日本に残った。
アメリカに行く理由は親の都合ではなく、小学6年の時に試しにやった東京大学の入試問題に全問正解できてしまったからだ。
周りは俺を持て囃したがタカシだけは普通の友達として接してくれた。今でもそれは変わらない。例え世界が揺らぐ発明を見ても。
「龍也殿はこのまま帰宅するでござるか?せっかくだしどこかで食べて帰らぬか?ハンバーガーくらいだったらおごるでござるよ!」
「せっかくだしそうしたいけど、おごられるのは嫌がからなぁ、こんな事もあろうかとハンバーガーならさっき買っておいたから!」
「ややや!しかし龍也殿は手ぶらではないか!まさかそのイカしたロングコートの中にでも?しかしポッケの中にハンバーガーとはいかがなものでござるか?」
「いや、違うって!ほら!」
龍也が指を鳴らすと、龍也の右の薬指にしている指輪が光を放ち、ドロっとした液体が現れその刹那それがハンバーガーに形をかえる。
「ほら、せっかくだしってチーズビックハンバーガー買っといてやったんだからありがたく頂きな!」
「えぇー、いやいやいや!また変な発明でござるか?見た目は有名店のハンバーガーそのものでござるがちょっと過程を見ると気持ち悪いでござるな!」
「安心しろって!紛れもなく有名店のハンバーガーだからさ!」
「龍也殿が言うなら…はむっ…ふむふむ、本当にハンバーガーでござる!」
「だからそう言ってるだろ!」
タカシは小さい頃から龍也の発明を見ているせいか多少驚くだけで腰を抜かしたり誰かに言ったりもしない。
「また凄い発明でござるなぁ、21世紀にこの発明はあっていいものでござるか?」
「んーこれはどうだろうなぁ、試しに作ってみたら作れたし、他の学者も21世紀中には作れるんじゃないか?ただ今のところ他言無用な!」
「またそんな代物を拙者にみせて、拙者は龍也殿のせいで歩く秘密事項ではないか!で、これはどのような仕組みでござるか?」
「あはは、悪いないつも。原理は簡単に言うと1度物質を超高温にして気化させ振動を与えて分子レベルに分解して指輪の周りに集めて圧縮戻す時はその逆を…ってわかる?」
「まぁ、何となくはわかったでござる!要は四次元的なポケット的なやつでござるな!」
「んーあれは物質をそのまま異空間にしまうってやつだろ?けどこれは1回分子レベルに分解しちゃうからちょっと違うなかなぁ!」
「んーわからんでござる…」
呆れなかまらハンバーガーを食べるタカシの横で自分の世界に入ったかのように話を続ける龍也で。
「さらにこの指輪の難しかったところは気化した物質を元に戻すところなんだよ!分解するのは簡単だけど元に戻す際に分子レベルで同じ配列で並ばせなければならないってところで、わかりやすく言うとボールペンを分解したとしてペン先の金属の分子が元に戻した時にペン先になければこれは同じ物質のボールペンだが違うボールペンになってしまうという事なんだよ。テセウスの船ってのがあるけどこれは言わばテセウスの船を分解して同じ設計図通りに同じ物を使って戻しただけ。つまり一見ぐちゃぐちゃにジャンクになってしまったテセウスの船をそのままそっくり組みたてた混じりだけのない完全なテセウスの船を完成させることに成功したんだよ!ってタカシ?」
タカシはハンバーガーを食べ終わり並木道の風景を眺めながら、ふと龍也の話が終わった事に気がついて。
「おぉ!なるほど!わかりやすいでござるね!」
「いや、聞いてなかったでしょ?まぁいいよタカシはそれで。」
しばし心地よい無言の中、ロマンチックでも何でもない男2人で並木道を歩きながらふとタカシが口を開く。
「で、結局龍也の論文を突っぱねた乗って誰だったでござるか?知らない人でござるか?」
「いや、俺も顔だけは見たことあったよ。日本政府の防衛大臣だったよ。」
「えぇ!防衛大臣でござるか!?」
「俺は世界の進歩のために論文書いたんだけどなぁ、多分他国に軍事利用されるのが怖かったんだろうなぁ…」
「あぁ、拙者はまた聞いては行けないことを…」
そんな事を話しながらも親友との一時を過ごす2人だったが、静かな並木道に突如アクセル音が響き渡る。
「なぁ龍也殿、あの前から来るトラックスピード早くないでござるか?」
「本当だなぁ、最近のドライバーは運転荒いからなぁ、煽り運転とかもやめて欲しいよなぁ!この前ニュースでもやってたけど…」
「いや、あれヤバいでござらぬか?」
ドライバーからしても見晴らしのいい一本道だがルートがおかしい。道路ではなく徐々に歩道に近づいてくる。いや歩道と言うよりは轟音と共に2人に突っ込んでくる。
「え?嘘でござるよなぁ?あぁ、あぁ、あぁ。」
「タカシ下がれ!」
驚きのあまり身動きが取れないタカシを龍也は力いっぱい外に蹴り飛ばした瞬間、並木道の木々をなぎ払いガードレールを押しのけて龍也に突っ込みそのまま轟音と共に石壁に突っ込んだ。
高層ビルの最上階の一室。決して広いとは言えない部屋の中。皆に他言無用と言い聞かせる男がいた。
「この件はくれぐれも内密に。もちろん政府にも。」
「政府にもですか?しかし政府の指示では?」
「政府の指示は論文の提出阻止と破棄。しかし破棄はしない。こんなもの破棄しては政府、いや、人類の退化。あなた達もこの価値が分かるだろう?」
「確かに、その論文はノーベル賞云々のレベルを超えている。人類が500年費やさなければたどり着けない科学技術が書いてある。これは国を、いや世界を何度でも壊して再生出来る技術。」
「そうだ。だからこれは日本政府が与りそして彼がアメリカに旅立つ前に行き先を変えなければならない。」
「ま、まさか!?」
「私は何も知らない。事故のせいで行き先がアメリカではなく天国になっても、私は知らない。」
先程まで静かな並木道は轟音と共に騒然となっていた。どこからともなく野次馬がゾロゾロと出てきて潰れたトラックを見つめる。
「なんだ?トラックが突っ込んだ!?」
「人を跳ねたらしいぞ!」
「運転手は、ダメだこれは即死だな、一応救急車を!」
戦慄とした表情で震えるタカシだったがふと我に返る。
「え?龍也?龍也ァァァァァ!」
目に涙を浮かべながらトラックに駆け寄り龍也を探すが見つからない。
「龍也?龍也??どこにいるでござるかぁ!!」
野次馬達も加勢に加わり龍也を探すがそこには何もない。血や肉片もない。ただ瓦礫の山。探せど探せど瓦礫だけ。タカシは記憶をたどると一つだけ覚えてる光景が頭をよぎる。龍也が引かれる前に龍也は青白く光そして…
「龍也が…消えた?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます