第四話 天才の家
エルフの副族長はスケールがでかかった。とにかくスケールが大きい。
確かに拠点が欲しいとは言ったが、これほどまでの面積は想定していなかった。
彼曰く、パレッタ自体は大きな町なのだが、民家が一か所に集中してしまい、有効活用できていない土地がわんさかあったのだとか。本来であればそれらを農地などに利用すればいいのだが、鉱山があったため採掘事業で変に盛り上がってしまったのだという。
使わないよりかは使ったほうがいい、しかも俺であればいい具合に有効活用してくれるだろう、という算段のもと俺にパレッタの都市部の半分の面積がある土地をもらった。
もちろん口頭での譲渡ではない。しっかり土地利用権書はもらっている。
豪邸、というよりかはもはや小さな町が立てられる面積である。土地の中には森も含まれるので、多少は整地しなければならないが、やろうと思えば都市開発が出来る。なんということだ。
固定資産税もないし、この世界で土地は多くあって損はしないのだが、それでも一気に全ての土地を埋め尽くすほどの活用が出来るわけでもない。俺はとりあえず三階建ての石造りの家を、土地の一角に建てることにした。
数か月が過ぎると、大工から工事が完了したと報告を受けた。今その確認に来ているのだが、客観的に見て豪邸である。もはや城といっていいかもしれない。
「わー、すごいですね!! ようやく宿生活から抜け出せます!!」
「中々いいインテリアだ。パレッタの大工も侮れないな」
とりあえず自分がいつでも寝られる床が確保できれば良かったので、大工に適当に希望と予算感を伝えた後は放置していたのだ。床はきれいに赤い絨毯で敷き詰められ、客室やトイレは複数用意された。体を鍛えるための訓練部屋もあれば、書庫もある。
もはやこの豪邸だけで生活が完結してしまう。引きこもり万歳だ。
庭を確認したところ、馬小屋も設置されていた。要望は出していないが、この世界では当たり前のように必要なのだろう。
「いやーとうとうここまで来ましたね、リュウ様!! 最初はどうなることかって思ってましたよ。私は嬉しいです……。とっても嬉しいんです……。ただ……!」
メルルは俺の後ろについてきていた黒髪エルフを指さす。
「……でも、なんでこの乳デカ女が来てるんですか!!」
「ああ、セーラ君か。俺が呼んだのだ。丁度今日は工場も休日だしな」
「休日か、平日かの問題じゃありません!! なーんで、この部外者が私とリュウ様の愛の巣に入り込んでるんですか!!」
「愛の巣って……。変な誤解を招くような発言はよしたまえ。俺たちはそんな関係ではないだろう。……メルル君、もちろん君とこの家で同居するとは言っていたが、君とだけとは一言も言っていないぞ」
「……はいいいいいいいい!?」
セーラは上目づかいで俺を見つめた。
「私もこちらに住んでよろしいのですか……?」
前々から思っていたが、胸が大きいせいで服の間から胸の谷間がチラ見してしまう。しかも顔がかわいい。子供的なかわいさはメルルのほうが上だが、美人としてかわいいのはセーラである。容姿は誠に扇情的だが、彼女はあくまでも部下だ。
変な気を起こしてはならないぞ、隆一郎。自分を律するのだ。
俺は胸を見ないよう、目線をセーラからそらしながら話す。
「あ、ああ! 別にかまわない。そもそも君は孤児で家がないのだろう? 私としても君といつでも話が出来るというのは好都合だ。部屋も余っているし、適当に好きな部屋を使ってくれたまえ」
「えええええええ!? り、リュウ様あああああ、そんなああ……!! およ……、およ……、およ……!」
スポットライトが当たった悲劇のヒロインにのように、メルルは半泣きになりながら地べたでうろたえている。
「大丈夫ですよ、メルルさん。私はあなたのようなちびっ子なんて眼中にありません。勝手に外で砂場遊びでもしていてください。……私はリュウ様と大人の遊びを楽しんでいますので……。ふふっ」
「ムッキイイ――!! リュウ様は私みたいにスレンダーで小さめの子が好きなんです!! 証拠としてほら、奴隷の指輪があるでしょう! リュウ様はこの私のナイスボデーに欲情したから性奴隷として私を買ったんです!!」
「ちょっと待て、メルル君!! お前はあくまでも俺の手伝いとして買ったのであって、君を性奴隷として買った覚えはない! 変な情報を流すな!!」
まさか新居での生活がこんなに前途多難だとは思いもしなかった。
女同士の争いはなぜこんなにも恐ろしいのだ。
「いいですよ、だって私はリュウ様と一緒の部屋で、一緒のベッドで寝ちゃいます!!」
そういって、メルルはダッシュで俺の部屋に入りこもうとするが、俺はメルルをつまみ上げる。
「……俺は君と寝るつもりはない。もちろんセーラ君とも寝るつもりはない。メルル君、もう夕方だ、寝たいのであれば自分の部屋へ戻るんだな」
「それでも、私は諦めません!! あきらめ……」
俺は奴隷の指輪を指さす。
いいのか、本当にこれを発動してもいいのか、というジェスチャーである。
流石のバカでも意味をくみ取ったようで、メルルは項垂れながらすごすごと自分の部屋に帰っていった。
「セーラ君、今後の鉱山と工場について軽く話したかったのだが、今ので疲れてしまった……。君も来たばかりで荷ほどきもあるだろう。明日また会話させてくれないか」
「ええ、もちろんです、リュウ様。明日またお話いたしましょう」
メルルとは違い素直な部下であるセーラは、そのまま自分の部屋に戻っていった。
俺は部屋に入った途端、ベッドに倒れこむ。
つまらない学会に一日中参加したぐらいの疲労感が俺を襲っていた。メルルが『クリエイト』で作ったベッドは宿のベッドよりもふかふかで気持ちが良い。全身が包み込まれるようだ。
このようなキャットファイトが毎日行われるのだろうか。二人とも自分に好意を頂いてくれるのは純粋に嬉しいが、間に挟まれるというのは精神安定上辛いものがある。もう何も考えたくない。
「はああああああ……。疲れたああああああ……」
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