第二話 第二次産業への発展

 工場を作るとは言っても、アニミストは前世では存在しなかった鉱物だ。

 どのように利用価値を高めればいいのか、前例がない。多少悩むものはあったが、なるべく早く収益化しないといけないというのもあり、難易度がなるべく低い工業品から始めることにした。時間もない俺たちは、メルルに手伝ってもらい『クリエイト』駆使しながら工場を立ち上げた。


 そして、今はその見学に来ている。ニーダとの約束通り雇用しているのは全てパレッタの住人だ。その中でも鉱山採掘の仕事がなくなってしまった人、または採掘の仕事が不向きな人に工場に来てもらうことにした。


「リュウ様、この度は誠に感謝しております。ようこそお越しくださいました」


「ああ、セーラ君か。工場の状況はどうだ」


 高身長ですらっとしたスタイルの黒髪エルフが俺に声をかけた。


 エルフで黒髪なのは人間とのハーフである証拠であり、非常に珍しいのだという。寿命はエルフのそれと同じだが、魔力は人間のそれになってしまうらしい。


 セーラは当初鉱山で働いていたが、体格も筋肉質ではなく、あまり力仕事に向いていないように見えたのでこの工場で雇うことにしたのだ。気が回るし、頭の回転も悪くない。だから、この工場の管理を任せることにしている。


「うぬぬ、セーラさん……!!」


「あらあら、ちびっ子もこちらにいらしたのですね。身長は高くなりましたか?」


「ちびっ子じゃないもん!! ち、ちょっとは伸びたかなー……」


「はあ……。お前たちもう少し平和にできないのか……」


 俺がセーラを気にかけるようになってから、メルルが変に突っかかるようになった結果がこのありさまだ。


 身長差のある二人は相変わらず火花を上げている。こうなることがわかっていたので、あまりメルルを連れてきたくなかったのだが、どうしても俺についてきたいとごねるので、仕方なく連れてきている。


「……工場の状況でしたわね」


 仕切り直し、といったところで、セーラが工場を案内する。


「予想以上に順調に進んでおります。最近ようやくこのアニミスト冷蔵庫の販売網が固まりましたので、これからも順調に売り上げが伸びていくと思われます。これから交換用のアニミストが必要になってくるかと。それらも合わせて生産していく予定です」


 アニミストは簡単に言ってしまえば魔力を注入しなければ解けない氷だ。


 触るとひんやり冷たく、夏場では冷式カイロのように使用している家庭もいる。しかし、今まで生産していたアニミストは冷却機能がさほど高くなかった。一部家庭では木箱にアニミストを入れて保存をしていたようだが、それでも食品の長期保存は困難だった。


 ただし、俺はアニミストの冷たさが固体によって異なることを知った。アニミストの純度が高ければ高いほど、より冷たくなる。そして、適切な純度まで上げることが出来れば冷蔵庫を作るうえで十分な冷却機能を得ることが出来る。


 冷蔵庫といってもそれほど大層なものではない。

 密封した木箱の中に断熱性のある厚紙を何層にも敷き詰め、純度を高めたアニミストを箱の底にはめ込むようにしただけだ。分解すれば一瞬でバレそうだが、スピード感を意識して製造した結果だ。仕方があるまい。


「交換用のアニミストを製造するラインはあるのか?」


「アニミストの冷蔵庫を製造するラインを使おうと思っておりますが、想像以上に飲食店での利用が拡大しており、そこがネックとなります。今の製造ラインだけでは十分需要を満たせるのかわかりません。ラインの増設が今後必要になるかと」


 最初は家庭用ではなく飲食店や生鮮品を扱う商店などに冷蔵庫を売っていた。


 流石にビジネス利用となると冷蔵庫も必然的に大きくなってくるし稼働率も高い。交換用アニミストの在庫もある程度蓄えておかなければならないだろう。


「わかった、ラインの増設をしよう。必要であればメルルもライン部品を『クリエイト』出来る。助けが必要であれば言ってくれ」


「ふん!! 誰がこの乳デカ女の手伝いなんてしますか!! プイッ!!」


「メルル君、主人である俺の命令だ。ビジネスに私情を入れるんじゃない」


「……はーい……」


 続けてセーラは様々な形と純度のアニミストが陳列された部屋へ俺たちを案内する。


「研究開発のチームですが、純度をより高くすればもはや水を凍りにするほどの冷却機能を持つことを発見いたしました。冷蔵庫よりも長期的な保存が必要になる食品などに活用できるかと」


「わかった。まずは事業用にその商品を作ってみてくれ。生鮮食品で長期保存したいという需要はあるはずだ」


「かしこまりました」


「引き続き頼むぞ、セーラ。君には期待している」


 セーラは頬を赤らめる。


「は、はい、リュウ様……。仰せのままに……」


「むす――――っ!!」


 メルルは顔を赤くした。

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