アルマン

第15話

 「いろいろお世話になりました」

 そう言って、シャハルが頭を下げると、隣でニグムも頭を下げる。その後ろで、カルロソは「ありがとさん」と、軽く手をあげる。

 「いやいや、また来てくれよ。な、マヌス?」

 リイバさんは、ニッと笑ってマヌスへと視線を移す。マヌスは、少しそっぽを向きながら答えた。

 「……あんたの依頼だったら、何度でも治すから」

 「……そりゃ、ありがたいねっ!」

 「あんた、アルマンのことが知りたいんだろ? ちょっと待ってて」

 そう言って、マヌスは駆け足で店へと入り、一分も経たない間に一冊の本を持って、また駆け足で戻ってきた。

 「これを書いた人と関わっている人を探すのがいいと思う」

 「なに、これ」

 マヌスから差し出された本を、シャハルは受け取り筆名のところを見る。筆名は、『プリーム・アルヒコ』と書かれていた。

 「この人が、アルマンを最初につくった人だって言われてるんだ。いつか、俺はこの人の弟子になりたいって思ってたけど、十年以上前に亡くなってる。でも、この人に関わっていた人はまだ生きてるはずだ。出身は、フピテールだって言われてる。あんたら、これから行くんだったら、この人のことを少しでも調べてみたらいいと思う」

 「……ありがとう」

 そう言って、シャハルはマヌスに本を返す。マヌスはニッと笑って、「それじゃ、またいつか」と。

 「うん、またね」

 シャハルはそう笑って、荷台に乗り、大きく手を降った。


 

 「プリーム・アルヒコ、ねえ……。カルロソ、知ってる?」

 荷台でおおきく揺れる体。シャハルはもう慣れたかのように、上を見上げながらカルロソに問う。カルロソは「そーだなー」と返す。

 「ギルドで、数回くらいはその名は耳にしたけど、深追いしたことはないからなあ」

 「つまり、知らないってことね」

 「そういうことだ。まあフピテールに行けば何かわかるだろ。フピテールまで一日はかかるから、しっかり体休めとけ」

 「この揺れじゃ、体休めないわよ」とシャハルは返し、ニグムへと視線を移す。そして、そっとニグムのマヌスによって磨かれた肩を撫でた。

 「前より綺麗になって良かったね」

 「マヌス、すごい」

 「ほんとに。ただのくそガキじゃなかったのねー」

 そう苦笑いを零し、シャハルは小さく「怪我させてごめん」と呟いた。



 空は青色から紺色へと変わり、道はずれで火を真ん中に、シャハルとニグム、カルロソの3人で火を囲むように座った。

 「また野宿」と、小さく呟くシャハルに、カルロソは「我慢しろ」と言い放つ。

 「しっかし、お前さんの弓の腕はほんとすげーなー」

 カルロソはそう言いながら、途中の森でシャハルがしとめたウサギをさばいていく。

 「まーね」

 「こりゃ、ギルドの奴らがお前を欲しがるのはわかるなあ」

 そう苦笑いして、カルロソはさばいたウサギの肉を火にかける。そして、上を見上げた。

 「今日は良い夜空だねえ」

 「えっ、気持ち悪っ」

 「……ほんとお前、いい性格してやがるな」

 「お褒めの言葉どーも。お肉、もういい?」

 「……どーぞ」

 シャハルは、カルロソから焼けたお肉を受け取る。そして、息を吹きかけ、冷ましてから口にした。

 「あちち」と小さく声に出し、シャハルはゆっくりと肉を食べる。そんなシャハルを苦笑いして見ながら、カルロソも自分の分の肉を口にした。

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