第21話 冥王笑う

 体中がバラバラになってしまいそうだ。

 顔面がひどい痛みを発する。

 視野が何も見えない。


 真っ赤、いや、紫になっている。毒の色だった。


「なんとかしなさい! このままではリュウケンが死んでしまいますわ、そんなの許さないんだから」

「今なんとかやっているわ、わたくしの【傲慢の癒し】と【祈り神の祝福】をやっているのですから、心配はきっとありませんわよ憤怒のサリィーよ」

「あの化け物こっちに来る。リュウケンが倒せないならいくら僕の暴食の力でも倒せないんだ」

「はわわわわ、王子様が死ぬ、うちの希望の王子様が死んでしまう」

「これはまいったのよ、主が死んでしまうのです」

「ゴーナ姉さんまだ諦めちゃだめ、彼女がいるわ」

「ここは任せて、ルシュフ、回復は継続して」

「うん、分かってる。ベリーあなたならなんとか」


「して見せる。いや絶対に回復させる。ルシュフとベル様以外はあの化け物の足止め、きっと倒せない、時間稼ぎよ」


 ルシュフとベリーが僕の事を治療してくれている。

 あまりの激痛で俺様モードからどんどんと萎えてしまって、現在僕モードになっている。


 僕の過去を振り返ると、

 面白い事はあまりなかったと思う、

 村からやってきて街に馴染む事が出来ず、

 冒険者達に騙されて、

 死を覚悟してゴミのダンジョンを攻略した。


 沢山の希望が詰まっている7人の素敵なモンスターこと美少女達が仲間になってくれた。

 それだけで僕の人生は跳ね上がった。

 これからいい事があるんだと、

 数億の敵に対して、僕達は命がけで戦った。

 レベル12000もあれば、なんだって出来るそんな気がしていたんだ。



 だけどそれは甘い事で、

 意識が消えてなくなりそうになりながら、

 僕は悲しくなった。

 もっともっと彼女達と思い出を作りたかった。

 それはきっと未来で達成出来るんだって。


 その時だった。

 薄れ行く意識の中で、5人の美少女達の悲鳴が上がった。

 2人は俺様の治癒に当たっている。

 少し考えればすぐに分かるはずだった。


 きっと冥王に攻撃されているのだろう、

 また悲鳴が上がった。

 きっと死んでいないだろう、 

 そう信じたい、

 暗闇の中、


 また悲鳴が聞こえた。


 もう耐えられない、ここで僕だけが死ぬのは許されない、

 仲間達が美少女達が死んで行くのだろう、

 そんなの耐えられない、

 そんなのそんなのそんなのそんなのそんなの、


 その時糸が突然切れた音がした。


 全てが覚醒する。

 いつしか僕は立ち上がり、

 辺りを見渡していた。


 感覚が研ぎ澄まされている。


【スキル:神の覚醒】を覚えました。

【神の覚醒:瀕死の時に発動し、圧倒的なパワーを引き出す】


 萎えていた気持ちがどんどんと跳ね上がって行く、

 俺様モードになると、

 大きな声で立ち上がり、

 攻撃によりぼろぼろになっている5名の仲間達を見せる。


「憤怒のサリィー、暴食のネメ、嫉妬のレイディー、強欲のゴーナ、色欲のサキュラよくやってくれた。後は下がってくれ」


【はい!】


「それと傲慢のルシュフと怠惰のベリー助かったいつか恩を返させてくれ」


「まったくリュウケンの背中がなくなるという事はベッドがなくなるという事なのよ、だから死ぬのは許されないのいくら背中がベッドだからって死体の背中で寝たくないもの」

「は、はは、俺様の背中がベッドか、それもいいなぁ、うん、俺様のベッドを使うがいい」


「あなたが死んだのではと思って心臓ばくばくだったんだからね、もう少しお嬢様をおいたわりなさい、回復魔法連発は疲れるんだからね」


「それは済まない事をした。今から冥王をぶっ倒す」


 俺様は前に突き進む、

 そこではげらげら笑っている冥王がいる。


「おお、男の勲章だねぇ」


 どうやら俺様の顔に斜め傷の跡が出来ているようだ。

 それは男として嬉しい事だろう、


「さて、ぶっ倒すぞ、冥王、いやブランディ―」

「うっひゃああああ、楽しい楽しい殺し合いだぁああ」


 俺様は竜魔人の剣を右手に構えるのと同時に【魔剣召喚】を発動させる。

 そこに現れた魔剣は細長い剣というよりかは、刀をさらに長くさせたもの、

 確か別な国で使われているとされる太刀と呼ばれる武器だった。


 左手だけで持ち上げる事が出来るのか、少しだけ不安だったけど、

 なんとか持ち上げる事が出来る。

 というよりかはとてつもなく軽く、

 太刀の鞘を引き抜くと、鞘を地面に置いておく、

 魔剣召喚を解除すると、その鞘ごと消滅するはずだ。


 右手には竜魔人の剣、

 左手には長大な太刀。


 すごくアンバランスだけど、

 迷っている暇はなかった。

 地面を蹴った。

 次の瞬間には、2人は激突していた。


 問答無用とばかりに、毒の剣と錆びの剣を振り回す。

 もはや振り回すとしか言いようのないぐちゃぐちゃの剣技を見せてくれるのが冥王であった。

 冥王ブランディーはとても楽しそうに毒の剣と錆びの剣を芸術作品ではなく、

 破壊する王様のような剣技だ。


 俺様は太刀でガードしては、そのリーチの長さを利用して、

 次から次へと攻撃を浴びせる。

 もはや槍で突っつく感じで、

 近づいた瞬間、竜魔人の剣で、地面に衝撃を当てると、自分の体を空に弾き飛ばす。

 着地した時奴の背後に到達。


 同じ手は通用しない、


 走り出す。

 太刀で突き刺す。

 またトランプのカードを捲るのではなく、

 入れ替わるように表と裏が変わる。


「同じ技は通用しないぞおおおお」


「これが同じ技ならねぇ」


 そのことは予測していなかったが、

 殺気を感じる。

 どこから?


 下だと気付いた瞬間、

 空中へ飛翔、

 地面から冥王ブランディ―が出現、


 まるで1つの空だの中に沢山の体があり、

 そこから地面に潜ったり、出てきたり、

 恐らく体とどこかで繋がっていて、

 今3人の冥王ブランディ―を見ている。


「一体どういう事何だ?」


「知らない? 死を感じるとね、体の中に死が生まれる。その死は1つの体の死、その死を受け入れると、それは同化する。別な人の体を同化し自分の体にする。そして繋がっていれば吸収した分増やせる。まぁ気持ち悪いだろうけど」


 そう言って奴は5体に分裂した、

 ただしそれぞれの体の一部が繋がっている。

 試しにその繋がりを両断して見せたのが冥王ブランディ―であった。


 その体はまるでミイラになるようにしぼんでいくと、蒸発する。


 俺様は訳が分からない、

 こいつはなんなのだ。

 死体を吸収する。つまり先程のモンスターの死体を蒸発さていたのもそういう原理なのだろうか、


 こいつは幾つ、いや何体の死体を体に入れているのだ。


「15万体それが僕の死体の数、あらゆる戦いで吸収していった。仲間のモンスターが死ねば吸収して、人間の死体が出来れば、それも吸収する。とてもとても都合のいい体何だよ、こんな体にしてくれた両親には感謝しないとねぇ、だ、か、ら、君にも1つの死体となってもらおうか」


 ゆっくりと相手の行動を見る。 

 先程から奴は無駄口を叩いている。かまってちゃんなのだろうか?

 だが冥王ブランディ―が次から次へと語ってくれる内容、

 それはほぼ意味のない事ばかり、

 こいつは話がしたいのだろうか?


 それは分からないけど、

 すごくやばい奴なのだろう。

 だけどこいつは俺様にとって、不思議と理解できる対象なのだ。


 こいつは寂しいんだ。

 独りぼっちで沢山のモンスターを仕切っていても、

 それは結局は1人なんだから、


 俺様は頷くと笑みを浮かべる。


 冥王ブランディ―はこちらを見ている。


「俺様はお前が気に入った」

「それはどういう事なんだい?」


「君は寂しいんだ」

「寂しい? それはどういう感情なんだい?」


「1人でいたくない、だから体の中に沢山の死体を容れて満足している。それだとお前がしたい事が出来ないからだ。お前はそれに気づいていない」

「なんだと?」


「お前はおしゃべりがしたいんじゃないのか?」

「おしゃべり?」


「先程からお前敵同士なのにすごく話しかけている。それってさ、おしゃべりがしたいんだよ」

「そう言う事なのか? だけど」


「条件を出す。俺様が本体のお前をぶん殴ったら、友達になろう、そしてお前が俺様を殺せたら、俺様はお前の体の一部となる」


「ふ、ふふ、友達と言う物がどういう物なのかは分からない、それでもそれはやる価値があるだろう」

 

 冥王ブランディ―は笑っていた。

 俺様は竜魔人の剣と太刀を構える。

 相手も毒の剣と錆びの剣を構える。


 ごくりと生唾を飲み込んだ時、

 全てが始まった。


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