第579話 【神紅の神炎者】 VS 神槍の使い手朱音 後悔



 その言葉に反応して毒矢に混じって紅蓮の矢が蓮見を護るようにして飛んでくる。


「炎は熱源を作ることで私にこの存在を簡単に悟らせないためだったのかしら。でもこれじゃ全然甘いわよ、ふふっ。」


 一旦反撃の手を止めて蓮見の行動を見極める朱音にやはり死角などなく蓮見の攻撃は全て当たることなく空を貫いては次の攻撃に移るもまたそれも同じ結果となってしまう。


「既に神災戦隊も使った。後残ってて警戒しないといけないのはメールちゃんと変身ぐらいだけど究極全力シリーズがいつどのタイミングでくるのかそれがわかればもういつでも止めはさせるんだけどどうしようかしらね~このまま手を抜いて最後まで付き合うかもう見飽きたしすぐに来ないなら終わらせるか」


 ここまで奇策の連発をぶつけてもやはり圧倒的な実力差の前では無力。そう思わずにはいられないはず。それでも蓮見は何度も攻撃を繰り返してくる。

 だったらそのまま力の差を見せつけ蓮見に更なる試練を与えることにした朱音は静かに目を閉じる。

 煙玉で視界が潰される前の蓮見の動きから行動範囲を予測してそこに全神経を集中させる。

 すると、見えないはずの蓮見が三人。

 今どこにいて何をしようとして何本の矢を足場にして何本の矢を自分たちを護る守備に回しているのかそして常に攻撃を仕掛けてくる矢は何本でどこを今飛んでいるのか。僅かな気配や音、そして今までの経験則からそれらをほぼ正確に割り出した朱音は「行くわよ? 私の半分本気に何秒耐えれるかしらね?」最後通牒を言い渡すとスキルも使わずに動き始める。

 たった一人でありながら毒矢の攻撃を撃ち落としながら蓮見の遠距離攻撃を躱し鏡面の短剣を持つ一人目。


「あら。分身だったの?」


 ならばと今度は蓮見が攻撃のために向けた毒矢の攻撃の数々を躱すだけではなくそれを逆手に取り逆に足場にして一気に距離を詰め心臓を一刺し。そこから目にも止まらぬ光速の突きを蓮見が光の粒子となって消えるまで続け確実に仕留める。


「運がいいのね。念には念をと思ったけどこれも外れ。でも残りは一人。もう次で終わりなのよね」


 ちょっと力を解放しただけでスキルも使うことすらなく戦いが終わる。強者となった先に待つのは退屈。その退屈を忘れさせてくれる少年が娘たちからいると言われ、その少年ともう少し一緒にいたいと言われた時は確かに面白そうな子だし娘たちの言う通りだと思ったが……、、、、どうやら気のせいだったらしい。

 成長し力を手にした自分の前では彼もまた例外ではなくすぐに滅びる運命なのだと。奇策からの流れが蓮見の真骨頂。その奇策は大抵相手のスキルを利用し生まれる。だから今回はスキルを殆ど使わなかった。その結果がこれだ。使ったのは力の差を見せつけるために使ったスキルのみ。


「手札がないなら見栄を張らずに大人しくしてればよかったのよ。残念だけどこれでお・わ・り♪」


 ゆっくりと閉じていた瞳を開き朱音が何も見えない煙の中に槍を投げた。


「――グハッ!?」


 どうやら正解だったらしい。

 遠距離攻撃が通じないと思った蓮見が気配を消し近づいてきた所に投げただけ。

 朱音からしてみればただそれだけのこと。

 それだけで相手は負けてしまう。

 蓮見も例外ではなかった。

 脳天を貫かれ光の粒子となって消えていく。


 そう蓮見は負けた。


 一時は周囲を驚かせた神災戦隊はあっけなく朱音一人に潰された。


 それを高画質カメラで見ていた観客たちは言葉を失った。

 蓮見が決して弱いわけではない。

 ただ朱音が強過ぎるだけ。

 こんなのただの一般プレイヤーでは誰も勝てるはずがない、とそう思わずにはいられなかった。


「終わった……のね。ガッガリだわダーリン。私ね、貴方には期待していたのよ。娘や里美ちゃんと同じく私にも忘れた心を取り戻すきっかけをくれるんじゃないかって」


 その目には一粒の涙。

 からからに干乾びた心に雨を降らせてくれるのではないかと。

 私にも救いがあるのではないかと思っていた。

 大切な物を失い。

 今まで取り繕って演じてきた高揚感を得れる戦いはもうできないかもしれない。


 生と死が絡み合うギリギリの戦いはもう――。


 自分を大きく成長させてくれるプレイヤーはもう――。

 

 自分の力が通じない異質の力を持つプレイヤーはもう――。


 自分の知らないプレイスタイルのプレイヤーはもう――。


 自分と同じ頂きに立つ数人しかいないのかもしれない。

 それでも全てを満たしてくれるプレイヤーはもう――いない。


 そう思うと悔しくて悔しくて泣けてくる。

 涙が止まらなくなる。





「……あれ?」




 涙は一体どこへ。

 涙を拭こうと思った朱音はそう思った。





 ――既に異変は――異次元を超え次のフェイズへと移行している。





 それは――。

 覆ることのない現実。

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