第509話 帰還


 レベッカの弟子。

 かつて過去の現実世界において美紀の嫉妬対象となった金髪美女であり、同じく世間(ゲーム内)から金髪美女と呼ばれるもう一人が次のイベントで出場予定となっている。通称金髪美女二人組なんて呼ばれている。師匠と弟子の容姿体格は何一つ似ていないが……。もっと言えば言葉遣い、特にレベッカは日本人と変わらないぐらいに日本語が上手と……まぁイベントには関係ないのでその話しは機会があればするとしよう。ただ師匠に託された想いを無駄にはできないと逃げるパーティーメンバーの追跡をする七瀬の前へと立ちはだかるように現れたアリアとクレア。


「わぉ~救援要請があって来てみればまさか綺麗なお姉さん一人に追われていたとはとてもビックリ~で~す~」


「最近の男の人はひ弱で困りますね~」


「おっと! そこのお姉さん。追いかけっこはここまでですよ?」


「ここから先は私たちが相手しま~す」


 そう言って七瀬の通り道を塞ぐようにして立ちはだかる金髪美女の二人。

 雰囲気から自信があるように見える。

 どうやら腕に自信があるらしい。

 ちょうど骨のない連中だなと思っていたので七瀬は準備運動がてらに目の前の金髪美女二人の相手をしてあげることにする。


「べつに私は構わないけど、後で後悔することになっても知らないわよ?」


 足を広げて杖を構えながら七瀬が警告をする。

 本能が油断するな、と訴えかけてくる。


「ふふっ。その言葉そっくりそのままお返ししま~す」


「そうです~。私たち結構腕には自信がありま~す。さぁ、覚悟してくださいね! ミズナさん」


 七瀬からしてみれば向こうがどう思っているかは置いといて、いつの日か【神炎の神災者】のファンとなり、影ながら魅了し嫉妬相手となっていた人物でもある。


「なら遠慮なく行かせてもらうわ! スキル『アクセル』『水手裏剣』!」


 五枚の水手裏剣を飛ばすと同時七瀬は敵の懐へと飛び込んでいく。

 魔法使い、すなわち遠距離攻撃を得意とするプレイヤーでありながら、自ら敵との距離を縮めてくる七瀬にアリアとクレアが驚いた表情を見せる。


「これはなにかありそうですね」


「アリスここは私から行きまーす!」


「オッケー、援護は任せてくださーい!」


 七瀬はそのまま手に持った杖を槍のように扱い距離を詰めてきたクレアへと攻撃する。そのまま小刻みに動き杖を自由自在に操り連撃。対してクレアは双剣を使い七瀬の攻撃を捌き隙を見て反撃。


「中々やるじゃん」


 不敵に微笑みながら攻撃のペースを上げていく七瀬にクレアの表情に戸惑いが生まれる。


「水手裏剣躱したと思ったらすぐに私の背後を取りにくるとはね」


 連続攻撃の一瞬視線をそらしてアリアの動きを牽制する七瀬。

 トッププレイヤーの威圧がアリアに警戒心を与える。


「この人……強いッ!?」


「油断しないでクレア! スキル『一閃』!」


 背後からの攻撃に対して七瀬はすぐに対処へと入る。


「スキル『導きの盾』! さらに『ダブルライトニング』!」


 スキルモーションに入ったタイミングで次はクレアが攻撃を仕掛けてきた。


「……やばっ」


「させませーんよ! スキル『幻影の舞』!」


 二つのスキルの処理が終わると同時に七瀬は逃げるのではなく、足の裏を爆発させたかのように思い切ってクレアの方へとダイブする。


「間に合って! スキル『ディメンションマジック』!」


 そしてアリアの攻撃を導きの盾で防御し二つの雷で反撃。

 さらにはスキル『ディメンションマジック』の効果で効果範囲対象内の人物と場所を入れ替わることによってエスケープ回避に成功した七瀬はすぐにクレアの方へと振り返る。


「スキルが空振りとすると隙が大きくて苦労しそうね」


「なッ!? なんで背後に居るのデスか!?」 


「私一応魔法使いだから。それと魔法使いだから遠距離攻撃も得意なのよ。スキル『焔:炎帝の怒り』!」


 言葉に反応して出現した赤い魔法陣が赤く光始めると、周囲の空気を圧縮し放たれた。勢いよく燃え盛る炎は一直線にまだスキルの空振り途中のクレアへと飛んでいく。


「舐めないでくださーい! この程度痛くもかゆくもありません!」


 こちらもスキルでの攻撃が防がれ反撃を喰らったアリアがやせ我慢をして声をあげた。


「スキル『ブリザードソード』!」


 アリアが青白く光輝く剣を大きく一振りする。

 すると地面から氷が出現し一直線に伸びていき、今まさにクレアに被弾する手前の炎と衝突した。


 炎と氷。


 お互いがお互いを相殺しようと激しい火花を散らしてぶつかり合う。


「焔とは言え私の一撃を受け止めるか」


 七瀬は目の前の光景を見て呟く。


「私のブリザードと対等とは……」


 アリスは目の前の光景を見て呟く。


 そして――。


「やっぱりあの子たち手を抜いてるわね……」


「「あの人まだ本気じゃありませんね……」」


 と三人が三人相手の力量を見抜く。

 たった数手武器を交えただけだが、正しく相手の底力がどこにあるのかを見抜いた三人。それだけ戦闘経験豊富な三人はお互いを警戒する。


「一つ聞きたいんだけど二人はどこのギルド所属なの?」


「私たちですか? それは秘密デース」


「NO-流石に何もしらなかったとは言え【神炎の神災者】様の拠点に手を出し【神炎の神災者】様のお怒りを買うことは想定外でした」


「情報伝達不足と言うのは大変恐ろしですね」


「不慣れってのもありますけど、ギルド長に後で怒られてしまいそうデース」


 その言葉に七瀬は「なるほど」と頷いた。

 確かにこの二人ならどこのギルドにいても可笑しくはない実力を持っているだろう。なにより嫌な予感がする七瀬。どの道まともに答えない所と彼女たちの返答から察するに向こうは向こうで戦う気はあると見た七瀬はクスッと笑う。


 不慣れってことは普段から意思疎通が出来ていないから。

 だとすると、考えられる可能性は大きくわけて四つ。


 一つ。普段から情報を共有し意思疎通が行われていない。


 一つ。意思決定者の統括力が低くされていないのではなく意味を成していない。


 一つ。急増メンバーで作られたギルドのため横の繋がりがまだ不安定。


 一つ。上記以外の可能性。


 七瀬は「ふ~ん」と呟きながら考え、最も嫌で最も可能性が高そうな物だったことを考えて動くことに決める。


 どの道今から追いかけた所でアイツら全員を叩くのは無理。仮に叩いても私たちの本拠点の場所は割れる。そしてそれが何処に、が一番の問題なのだが、流石に口を滑らせたり割ってはくれなさそうなのでこちらはこちらで収穫があったと判断する。


「一ついいことを教えてといてあげるわ」


「なんでしょう?」


「その片言の日本語違和感があるわ。じゃーね、ペテン師のお二人さん」


 七瀬はアイテムツリーから取り出した煙玉を使い、戦場を後にした。

 嫌な予感が現実になったことを考え、急いで拠点へと戻り情報を共有するためである。



 そして残された二人は――。


「あれ? バレテましたか」


「Wao-。どうやらミズナさんは勘が良い人みたいですね」


 と、七瀬が向かってあろう方向を見て呟いた。

 上位ギルド認定書を持ったギルドが名前の改名をして箱を作った。

 後はその中に新規のメンバーを入れて出来た一つが彼女たちが所属するギルドである。

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