第三十六章 まだまだ終わらない最高の夏休みイベント

第430話 美紀の中にある二つの心


 二日目のイベントが終わりログアウトした。

 大暴れした蓮見は達成感を全身で感じやりきったと清々しい顔ですぐに布団に入りぐっすりと眠る。自分らしく自由に楽しく満足のいく結果が残せたと自負しているだけあり昨日とは違い深い睡眠に秒で入る事ができた。


「…………」


 だが、美紀はそうはいかなかった。

 蓮見の神災を避けながら二日目も順調に館探索と幽霊退治をしてイベントポイントを稼いだ。それがランキングに反映され順位が上がれば普段なら大満足なのだが今日は違う。目の前で楽しそうな蓮見を見て嫉妬してしまったからだ。


「……はぁ~」


 ため息をついて自室で一人ベッドの上で天井を見上げるように仰向けになった美紀。

 パジャマ姿で後は寝るだけなのだが、どうしてもそんな気分になれないでいた。


「あんなに楽しそうなはすみぃ~。私と二人きりの時はあの笑顔全然見せてくれないくせに……皆の前では見せるんだから。それに順位ちゃっかり上げて圧かけてくるし……」


 恋心とライバル心。

 この二つが美紀の心の中で芽生えていた。

 自分だけに見せて欲しい笑顔を自分にはなかなか見せてくれない。

 普段から本人にバレないようによく見ているだけあってすぐに気付いてしまう。

 本当はその笑顔私にも見せてと言いたい。

 それだけ美紀自身が蓮見を好きだと認めてしまえば少しは違うのだろうが重たい女だと思われたくない為になかなか素直になれないでいた。

 学校では橘ゆかりと会話する時にわざと蓮見の気をさり気なく引くような事を言うのだが、学校では全然反応してくれない。そのくせ、仲の良い男友達とは楽しそうに会話してたり遊んでたりするのがこれはこれで嫉妬の対象である。当然ゲームでもそれはある。なんであんなに自分を出しておいて結果まで簡単に出してくるのかということである。それも毎回毎回後半の追い上げが「お前本当に初心かッ!? 絶対熟練者だろう!」と言いたくなるぐらいにその何と言うか方向性は少し違うにしてもそれに通ずる何かがあると言うか。なにより自分の予想斜め上を常にいく蓮見には正直驚かされ続けている。本人にそれを言うのは癪なのでいつも黙っているが、本当は誰よりも恐い。気付けば自分を簡単に追い抜いて強くなるんじゃないかって思えるから。そして自分を見てくれなくなるんじゃないかって。正攻法での勝負なら正直蓮見程度何回挑んで来てもあまり恐くない。というか本気でやればまともに私の相手にならないと思う。だが、本気かつ絶好調の蓮見は人が考えもしないことを当たり前のようにして勝ちにくるため正直あまり勝てる気がしない。だからなのだろうか。勝つか負けるか、そのギリギリ限界の舞台を用意してくれそうな蓮見と戦いたいと思うのは。いや事実明日はそのつもり。やるからには全力で勝ちに行く。だけどやっぱり不安。今では【異次元の神災者】とまで呼ばれる蓮見が簡単に負けてくれるとは思わないが、もし私の期待外れだったらと思うと。もしそうなったらこの恋心と一緒に蓮見に対する好奇心も薄れてしまうのではないかと……。少なくとも今は大好きな人と大好きなゲームが偶然にも繋がっている。だから今の時間がとてもかけがえのない時間で恋しい。もし今の関係が一生続くならずっと幼馴染以上恋人未満でも美紀自身はいいと思っている。これ以上先に行く勇気がないからこうして自分に多少の嘘をついているのもまた事実なんだけど。


 こうして色々と考えているうち、うとうととしだした美紀は静かに瞼を閉じて眠る。

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