第428話 暴れる神災竜を目撃した
簡単に言うならば混浴(私利私欲)の為に館を徘徊し燃やし尽くす、と言っている蓮見。
傍から見たソレは一体どう見えるのだろうか。
イベント二日目にして多くの者を魅了し絶望させる悪魔か閻魔それとも魔王か。
それともプレイヤー達のやる気をあげる起爆剤か。
「あはは……アハハ! 反撃の狼煙を今こそあげようぞ……正義の味方俺様戦隊!」
現状幽霊たち以外に神災戦隊を止める存在はいない。
だがこうなった蓮見を止めるのは容易ではない。
かつて十人の選ばれしトッププレイヤーが協力してやっと神災を止める事が出来た事実を忘れてはいけない。なにより最後は十人が十人死に物狂いに生を実感するまでに追い込まれたことも。そんな相手にただの幽霊が勝てるだろうか‥‥‥‥。
燃え盛る炎をバックに蓮見が聖水瓶を次から次へとばらまき引火させていく。
大きな羽を動かし空中浮遊を続け、風を生み出しては炎の海を拡散させる。
屋敷の廊下を伝い広がっていく炎の海は数多の幽霊たちを巻き込む。
廊下と繋がる部屋はプレイヤーが扉を開くと同時に侵入し炎が占拠していく。
炎の前では運営が念入りに考え作り込んだ罠も意味をなさない。
炎から逃げるプレイヤーが部屋の扉を開く度に僅かな隙間からでも炎は浸食。数分後、まだ炎が出回っていないはずの方向からも悲鳴の声が聞こえてき始めた。
「きゃぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
「いやぁあぁぁぁぁぁぁあぁああ!!!」
「たすけてぇぇぇぇーーーーー」
「だ、だれかぁ……!」
「あ、あつぃ~~~」
いつしかあちこちで無造作に向けられる俺様全力シリーズ。
何度も言うが残念ながらそれを止める事はプレイヤーにはできない。
例え朱音ほどの実力者でも。
死ねないプレイヤーにとっては一体どんな環境なのか。
熱い、息苦しい、眩しい、クラクラする、そんな環境なのだろうか。
そう思うと同情する余地はあるのだろうが、そんな同情を今のテンションアゲアゲ蓮見がするわけもなく。悲鳴とは別に歌声がプレイヤー達の耳へと聞こえてくる。
「……これから始まる俺様劇場~みんな覚悟はできたかな~期待のドキドキは大チャンス、今日も俺様大活躍♪ 燃えろ~燃えろ~心臓~今日こそ一番目立ってモテルんだ! バーニング、バーニング、バーニングハート今日の俺は今までと違う♪」
蓮見は神災竜の姿で鏡面の短剣を複製し手にもつ。
水は膨張すると体積を増大させる。
それを正しく理解しているだろうと思われる神災の異名を持つ男は次から次へと鏡面の短剣を複製しては地面に投げつけ強引に水を作り始めた。頃合いをみて、【亡命の悪あがき】を使う。
レッド蓮見のすぐ近くで発生する――水蒸気爆発。
無駄な爆発に酸素濃度が急激に減少。さらに熱せられた蒸気が蓮見の作りだす風によって炎と一緒に館内へ循環を始める。炎をかいくぐり弱った幽霊が近づこうものなら水蒸気爆発と【亡命の悪あがき】によるコンボで一網打尽にする蓮見。
最早難攻不落の神災竜となった蓮見は笑う。
愉快に――。
爽快に――。
ふてぶてしく――。
だがこれはあくまで三箇所あるうちの一箇所からの災害に過ぎない。
当然神災が届かない範囲はあるだろうが、残念ながら神災が届く範囲に居た者達は運がなかったと言える。
「燃えろ、燃えろ、燃えろ俺の熱い闘志♪ 燃えろ、燃えろ、燃えろ俺の心を照らす業火たち♪ バーニング、バーニング、バーニングハート幽霊が見えないぐらいに照り輝く真っ赤な炎が素敵だよ♪」
しばらくして何事かと思い慌てて神災の発生地点にやってきた美紀と朱音。二人は偶然にも道中会い目的が同じ事を確認し足を運んだのだが時すでに遅し。
「あれは……紅。ってことはこのバカみたいな灼熱サウナ地獄はイベントじゃない‥‥‥‥ってことはこれは勢力を拡大しながら後一時間以上は続く……?」
「うそっ!? ダーリン!? あんなに楽しそうにしてる……昨日は死んだ魚の目をしていたのに今は水を得たトビウオ……」
「朱音さん……」
「里美ちゃん……」
「「今だけは手を組みましょう。全力でここから逃げるために!」」
こうして二人は息ができる間に逃げだすことにした。
まだ神災が回っていない安全な場所へと。
「「スキル『アクセル』!」」
そして二人は思った。
(なんでいつもいつもあんなに楽しそうに出来るの? それになんで真剣に頑張る私と同じぐらいにいつもいつも成績がいいの……羨ましいなぁ、ホント。ずるいぃ!)
と。それは美紀が蓮見をゲームに誘ってからの疑問であり、朱音が蓮見を見つけてからの疑問でもある。勝つか負けるかも大切だけど勝たないと面白くないのがゲーム。だけど蓮見は勝つか負けるかと楽しいか楽しくないかも同じぐらいに大事にしている。それは見たらすぐにわかる。だからこそ密かに憧れてしまう。そして影響されてしまうのかもしれない。
二人は神災の火の手から逃げる途中顔に笑みを浮かべ、ボソッと自分にしか聞こえないぐらい小さい小声で呟く。
「これは三日目が楽しみだね……はすみぃ~♡ 昨日は一人ゲーム終わったら部屋に引きこもってたから心配だったけど全然大丈夫みたいだね。はすみぃ~が負けたら私の我儘沢山聞いて貰うからね♡ でももしはすみぃ~が勝ったら昔みたいに一緒にお風呂でも混浴でもいいよ~勝てたらだけどね、うふふっ♪」
「ダーリンいいわね。これ負けたら本当に混浴になっちゃうのは恥ずかしいけど……リスク取っ手でもダーリンと戦いたくなっちゃった♡ 私の熱い想い今度こそ受け止めてね♪」
と、二人とも明日が楽しみで仕方ないような甘い声を発し、それぞれの想いを胸にイベント二日目は幕を閉じる。
同時刻。新規の板では神災竜について話しあいがおこなわれることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます