第426話 二日目逃避行から始まる


 二日目。

 本日はダンジョン探索に加えて幽霊(お化け)退治が可能となっている。イベント参加プレイヤーは廃墟となった屋敷の探索とは別に昨日は見るだけしかできなかった幽霊を倒す事が可能となっている。ただし当然攻撃すれば反撃されるためむやみやたらに攻撃するのはオススメできない。また特定の条件を満たすことで出現する幽霊(お化け)はとても稀少価値が高く見つけたら絶対に倒しておきたい。


 イベント一日目とは違う場所の蓮見は身体をぶるぶると震わせて周囲に視線を飛ばす。


「みみみぎ……よーし! ひ、だり……よーし! ぜんぽう……よーし! こうほ……うもよーし! 今日は安全地帯からの開始みたいだな」


 ほっ、と一安心の蓮見は胸に手をあて安堵のため息をつく。

 昨日みたいにいきなり背後に出て来られては心臓がビックリしてしまう。


「んで、ここはどこだ……」


 辺りは薄暗い。

 広さは小中学校の体育館程度。

 照明は付いているがチカチカしている。

 昨日は恐くて寝不足だし、昼間は美紀達と現実逃避のため遊び疲れていることからきっと気のせいだ。目がチカチカしているだけ……。

 床にはレッドカーペットが敷かれている。

 壁は本物の血だと思うがそれは思い込み。

 きっと良く出来た血糊がベターっと引っ付いているだけだろう。

 出入口は幸いなことに一つだけ。

 ただし緑色の扉にも血糊がべったりと付いている。

 冷静に自己暗示を加えて状況を判断していく蓮見。


「くそっ……エリカさんに貰った武装はまだ使うわけにはいかない……ここはどうするべきだ……?」


 昨日の活躍を提示板で知ったエリカは美紀達にバレないようにイベント前に蓮見にあるアイテムをくれた。


「困った時は私を頼って……とイベント前言われたが今がそうだとか言ったら流石のエリカさんも怒るよな……」


 アイテムツリー欄の中にある文字を見つめて蓮見。

 周囲には幽霊だけでなくプレイヤーもいない。

 幸いなことに口が滑っても独り言が誰かに聞かれる心配はない。

 刻一刻と流れる時間はイベント終了までの合図。

 だが、ここで慌てていては昨日の二の舞なので、蓮見はまず大きく深呼吸をする。


「世界は俺をカッコイイと思っている。……だから今の俺を見ても皆が皆俺をカッコイイと思っていて、きっと昨日の俺の逃走劇を見たらあまりのカッコ良さに女の子達が十中八九鼻血を出してぶっ倒れると思うんだよな……つまり俺は世界の平和のためにログアウトした方がいいと思うんだが……なぜだ……世界は俺をログアウトさせてくれない。ログアウトボタンを試しに押したのに『ただいまログアウトできません』とエラーメッセージが出る。現実世界で混浴を実現する為に俺はログインこそしたが、今なら一足先にログアウトしてもバレないと思ったのに……世界は俺を好きすぎて別れを拒んでいる……どうすればいい……俺?」


 気でも狂ったのか顎に手を当てて誰もいない空間で一人身体をぶるぶると震わせ渋い声で決める蓮見。イベント時間中は参加プレイヤーはログアウトができないと何度も運営から告知はされていた。だが、蓮見は情報を何一つ自分の力で集めていないため知らない。なので、現実逃避を始めていた。


「違う。世界が俺をカッコイイと思っているんじゃなくて俺がいるから世界が成り立っていると考えれば納得がいく。つまり世界は俺を必要として俺はその世界と愛おしくも別れようとしている。一方通行の恋は残念ながら叶わない。なぜなら俺には愛するべき人がいる。そう俺には――あれ……その理屈を言うと俺も……今は××に片想い……ってことは一方通行の恋……ってことになるのか? だったらだめだめ……やりなおーし」


 一度深呼吸をして。


「なぜなら俺には愛する女の子達がいる。俺の夢は世界を見捨て五人の女の子達と一緒に生涯を暮らしハーレム生活を送ると言う夢がある。だから世界よ――」



 その時だった。



 怒った世界――幽霊たちが蓮見に嫉妬して一斉に床、壁、天井からすっーと入って来ては何処か怒ったような顔を見せ近づいてくる。『幽霊』『お化け』と表記された存在はHPゲージとMPゲージが全個体に存在する。だけど半透明で存在によってはなぜか片手に鎌をもっていたりとお化けやめて死神にでもなったのかなと思われる存在もチラホラと見える。実はここにからくりがあり名前や持っている武器によって運営は個体ポイントを全て変えているのだが、まるで浮気はよくないと言いたげな展開に蓮見の口が止まり、全身から冷や汗が止まらなくなる。



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