第422話 朱音その背中に可能性を見た


 予想外の展開になった蓮見は目を覚ます。

 どうやら気絶していたようだ。


「…………」


 玉座がジンジンする。

 そう思い確認する。アレが潰れていないかを。

 なんとか大丈夫そう。


「あら、目覚めた?」


「七瀬さん?」


「アンタも無茶するわね」


「……あはは」


「どうしたの?」


「いや……混浴……」


「そのことなんだけど、ダーリン頑張ったし私は一緒に入ってあげても良いわよ」


 ニコッと微笑み顔を覗き込んでくる朱音。

 そのまま上半身を起こす。

 すると七瀬が膝枕をしてくれていたのだと気付いた蓮見は「ありがとうございます」とお礼を言って会釈する。


「まぁ、私もいいよ」


「なんだかんだ海に来たんだしその時に決めましょう」


「そうだね」


「ほら、二人共いつまでそこにいるの? 瑠香達の所に行くわよ」


 そう言って立ち上がる朱音。

 朱音の視界の先では美紀達が楽しく浅瀬で遊んでいる。


「そう言えばお母さん。一つ聞いてもいい?」


「なに?」


 よいしょ、と立ち上がりながら七瀬。


「今日のイベントって特別招待状を持っているプレイヤーだけ参加できるはずだけどお母さんは持ってるの?」


「えぇ。あれは売買できるアイテムだから、今日のイベントに自信がない子に譲ってもらったわ」


「ふーん。なら私と一緒か……」


 そのまま蓮見に背中を見せて、一人なにかを考えながら七瀬が美紀達の元へと歩いて行く。

 そんな背中を見て二人。

 浮かない表情を浮かべる。


「……お母さん」


「……朱音さんね」


「なんでここに来てずっと作り笑いしてるんですか? ビーチボールで遊んでる時は違った気がしましたけど……」


 その言葉に朱音の表情が真剣なものになる。


「……能天気に見えてよく見てるのね」


「…………?」


「まぁ作り笑いしてるのは事実だけど……それが?」


「気付いたのは俺じゃないですけど。新幹線の中でお母さんがいないときに七瀬さんが言ってきたんです。お母さんは私達ではなく俺に何かを期待している風に時々見えるって」


「ふーん。それで?」


「先に言っておくと俺には無理です。だって俺はいつも全力でその場を楽しんでいるだけですから。だからお母さんや七瀬さん後は瑠香のように才能に恵まれた人にどうこうできる力はない。だけど……」


「……なに?」


「そのきっかけぐらいは俺にだって作れるかもしれません」


「どうやって?」


「……さぁ? ……敢えて言うならイベントを通してですね」


「……ねぇ」


「……はい」


「一応確認だけど今日のイベント内容知ってて言ってる?」


「いえ」


「そう。一応教えておくとお化けでるみたいよ」


 ニコッと微笑み、そのまま美紀達の方へと歩き始めた朱音の言葉に蓮見は背中がゾッとした。

 せっかくカッコ良く色々と決めたと心の中で自負していただけにそのわだかまりはすぐに大きくなり形容しがたいモヤモヤした気持ちを作りだす。

 視界が急にぐるぐるし始めた。

 具合が悪いわけではない。

 だけど、お化けと聞いた瞬間全身におぞけが走った。


「……あぁぁぁァァァぁあああああぁぁぁああああ!!!!」


 ついに発狂せずにはいられなくなった蓮見は最後の手に出る。


「おっしゃ!!! なんでもかかってこいやーーー!!!」


 そのまま走り始めた蓮見は朱音を追い抜き美紀達の元へと行き、全力で現実逃避を始めた。


 その光景を見た朱音は。


「ふふっ、相変わらず面白いわね。でもそれだけ。まだ不合格」


 とボソッと呟いた。


「おっしゃ! 混浴かけて第二ラウンド開始じゃ!!!」


 そんな元気の良い声が夏の海に響き渡る。

 皆の笑顔がより一層明るい物になった。

 これは紛れもなく蓮見の持っている力。

 だからなのかもしれない、だからこそ――。

 多くの者が惹きつけられるのかもしれない。

 そして楽しい時間はあっという間に過ぎ、夜へとなった。


 別荘に戻った六人は夕食をすませてから、リビングに集合。

 そこからお風呂前に夜のイベント攻略の為、ゲームへとログインした。




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