第390話 神災その身を持ってして天地創造を成し遂げる


 スキル『爆焔:炎帝の業火』、スキル『竜巻』、この二つを神災戦隊の三人は同時に口にしていた。それが意味する事象 はただ一つ。炎の竜巻。狙いを定めずに火属性ダメージ無効を利用した業。それは『爆焔:炎帝の業火』の炎を竜巻の風で上空へと強引に押しやり炎の竜巻を作ること。だが、蓮見が使う『爆焔:炎帝の業火』と『竜巻』はステータスの関係上どうしてもオリジナルに劣る。今まで幾度となく向けられてきた炎と同じく邪魔されてきた竜巻を合わせた必殺シリーズは炎の竜巻へと生まれ変わる。だが、それでも洞窟の天井は打ち破れない。


「火柱が三つ……」


 それは美紀の言葉。

 美紀達から見たらそう見えるのだろう。

 だけど忘れてはいけない。

 竜巻はスキル使用者を中心に渦巻く風を作りだすスキル。

 つまり、神災モードかつ覚醒を使用した『神災モード2』の蓮見が全力で走り始めるとそれに連動して火柱も動くというわけで……。


「ゆ~あ~しょっくー欲望(妄想水着)で鼓動早くなる~」


「ゆ~あ~しょっくー期待(お触り)で鼓動早くなる~」


「――彼女求め寂しい心今熱く燃えてる~この夏ははっちゃける夏だと~」


「「「お母さんの期待に応える為~俺は楽園へと旅立つ~♪」」」


 神災戦隊の歌がボス部屋へと響き、最早美紀の表現通り火柱にしか見えない竜巻が勢いよく一ヶ所――ボス部屋の中心地に向かい移動していく。


 そもそも炎とは、酸素濃度の高い方向へと動くことで被害が拡大していく。


 当然頭の良い皆さんはご存知だろう。

 ならこの後起きる展開も――予想が付くだろう。

 それはなにも皆さんだけでなく、美紀、七瀬、瑠香、朱音、ルフラン、葉子、リューク、スイレン、ソフィ、そして誰よりもこの中で神災を追い続けてきた綾香も瞬時に予想が付いた。


 個々に発生した火災が空気中の酸素を消費し火災の発生していない周囲から空気を取り込む。そして局地的な上昇気流が生じ、燃焼している中心部分から熱された空気が上空で集まり――ボス部屋の天井付近でそれが炎を伴った旋風になるとした場合。


 起こりえる現象は――ただ一つしかない。


「これは疑似的な……火災旋風ッ!」


 流石は美紀。

 百点満点の答えだろう。

 ただし蓮見が言う通り、万全の状態ではが、三つの火柱が合流した直後。

 悲劇は起きた。

 本来火災旋風の内部は秒速百メートル以上に達する炎の旋風であり、これに巻き込まれると高温のガスや炎を吸い込み呼吸器を損傷することがある。とは言え、『爆焔:炎帝の業火』をもってしても千℃は出せないし、なによりただの『竜巻』では秒速百メートールも出ない。それでも蓮見がやろうとしたことは結果として正しかった。三つの模擬火災旋風は事実として合流する事で勢力を一気に拡大しボス部屋全体へと瞬く間に広がった。そして、水爆の水蒸気とは比べ物にならない熱せられた空気は全員の呼吸を瞬く間に困難な物へと変えていく。


 ――ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ。


 それでも火災旋風は収まる事を知らない。

 火属性ダメージを常にプレイヤーへと与えながら、綾香とソフィが毒煙を逃がす為に空けた穴から酸素を取り込み力を付けていく。


 その穴から火災旋風により発生した竜巻状の炎が姿を見せる。


 それは天高く伸びていき、偶然にも混沌の洞窟の近くにいたプレイヤー達が空を見上げるもその終わりが肉眼では捉えきれない高さまで伸びていた。


 そしてお忘れではないだろうか。

 鏡面の短剣の属性を……。

 水は百度以上になると状態変化を起こす性質がある。

 つまり、神災戦隊が持っていた鏡面の短剣の水が膨張し体積を増大、天災の異名を持つ男は次から次へと鏡面の短剣を複製しては地面に投げつけ強引に水を作り始めた。火災旋風の中心部では既に別の爆発が――起ころうとしていた。


 それはことなくしてすぐに訪れる――水蒸気爆発。


 ボス部屋全体に間髪入れずに起きた水蒸気爆発は呼吸困難で苦しむ者達へと容赦なく襲い掛かる。当然息がまともにできない者達がそれをガードすること等あり得ない。


「きゃぁぁぁっ」


「うわぁぁぁぁ」


「がぁ……ぁっ」


 それは当然蓮見自身も同じ。

 それでもこの男は鏡面の短剣を複製しては地面へと突き刺し水を作り続ける。

 間もなくして、HPゲージが底を尽きたイエロー蓮見が消える。

 その数秒後、ブルー蓮見も消えた。


「すまん、俺様たち……ありがとう……そしてこれでおわりだぁ!」


 そう言って最後の力を振り絞り最後の一本を地面に刺した直後、ついに水蒸気爆発も起きた。二つの俺様全力シリーズ合わさる超全力シリーズ第一弾は蓮見自身をも焼き尽くし襲い掛かる火災爆破水蒸気旋風とでもここでは名付けるとしよう。実際には蓮見は火属性ダメージ無効を持っているので爆発によるダメージと水属性ダメージ、さらには風属性ダメージを受けていたのだ。


 爆発の中心地にいた蓮見が負けボス部屋の扉が鈍い音を鳴らし開く。

 すると風(酸素)が外から大量に流れ込んで来ることから火災旋風は当然新たな酸素を得て更なる力を手に入れる。更に、ボス部屋全体に広がった高温の水蒸気はプレイヤー達の意識を強引に刈り取る凶器と化した。


 故に、神災者はその身を犠牲にその場に残った全員の意識不明を重体へと導き、最後の最後にその身に爪痕を残し敗北した。


 ボス部屋に残った者達は死亡とシステムが判定する直前、特殊限定イベント終わりを告げるブザーがフィールド全体に響き渡ったことで九死に一生を得た。


 こうして悪夢の神災戦隊VSトッププレイヤー達


 の、戦いはトッププレイヤー達の勝利で終わった。

 が、それを見た多くの者はしばらく沈黙した。


 なぜなら後数秒早く神災が発動していたら、と思うと声が上手く出なかったからだ。


 数分後――蓮見やイベント参加者がイベントポイントと討伐報酬ランクによる報酬を手に入れようとしている頃、


 とある――提示板では。

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