第352話 なにかのフラグですか?


「ん? 私を見つめてどうしたの?」


「……いえ、……その……なんでもありません」


 流石に美紀の下着を見る為に見つめていました、などとは口が裂けても言えない。

 もし言えばエリカの柔らかい笑顔に角が生える事になるだろう。

 ここは怪しまれないようにそれらしきことを言っておく。


「ただ……エリカさんってたまに急に甘えん坊になるなーと思っただけです」


 これこそ完璧なるアフターフォローだろう。

 実際にエリカは嬉しそうに微笑みながら顔を赤くし照れているように見える。

 また甘え上手なのか子猫のような仕草で頭を蓮見の手に押し付けてくる仕草は実に可愛く年上だと言う事を一切感じさせない。


「じゃなくて話し戻して美紀とエリカさんは次のイベント参加でいいんですか? 一応見る限りではチームでもソロでも良さそうだけど……」


 脱線し始めた話題を戻し、そのまま美紀の隣に来て手を伸ばすが、


 ――ぐぎっ!


 と変な音を立てて曲がった。


「胸は触るな変態」


「ちょっとだけ……」


「だーめ! ほら見てみなさい。蓮見が鼻の下を伸ばし始めたじゃない……」


「ごめん……んで、イベントは?」


 今回は不発でバレたと落ち込む七瀬。


「ん~そうね~……私はソロでいいかな、今回は」


「ん? どうゆう風の吹き回し?」


「たまには蓮見とも戦ってみたいな、って。ね? 蓮見もそれでいいよね?」


 蓮見の頭をポンポンと軽く叩きながら質問してくる美紀。

 だけど脳裏に第一回イベント以来負け記録更新中の記憶しかない蓮見には美紀の好奇心溢れる笑顔が小悪魔の笑顔にしか見えない。


「「「あぁー」」」


 美紀の言葉に同調するように七瀬と瑠香。それとエリカが口を合わせて声をあげた。


「それは確かにあるかも」


「でもお姉ちゃん? それだと皆でできないよ?」


「まぁ、そこはね。でも蓮見とイベントで戦うのってなんだかんだミニイベント以来だしそれはそれで楽しそうじゃない?」


「……たしかに」


 姉妹の会話に蓮見の背中から冷や汗が出始める。

 とても自然な流れでアイテム不足分を補おうと内心仲間頼りに余裕を見せていた心に余裕がなくなってきたからだ。このままでは一人で戦うことになると思い慌てて打開策を考える。ここで肯定しては間違いなく後には退けなくなる。ミニイベントの時みたく全員から狙われた日にはマジで蓮見最後の日なんてことになるかもしれない。あの時は運よく生き伸びたが次はどうなるかやってみないと分からない。


「だけど美紀?」


「なに?」


「美紀はそれでいいのか? 確か美紀は俺と一緒にゲームをしたいって言ってた記憶があるんだが、今回ソロだとそれが出来ないと思うんだがどうだろうか?」


 見たか!

 この完璧な攻撃を。

 俺だってやるときはやる男なんだ。

 そう何度も命を狙われてもたまったもんじゃないからな。


「でも同じゲームで同じ時間にイベントを通して時間を共有ってのも親しい間柄だからこそできる一つの形だと私は思うよ?」


 美紀の言葉一つで完璧な攻撃と思えた一撃が木端微塵に粉砕され固まる蓮見。

 瑠香は少し考えてから、表情が無となった蓮見を見て、


「それは有りかと思います。それにお母さんが認めるぐらいには蓮見さんももう強いので正直一人でも大丈夫ですよ」


「そうね。お母さんには手を出して私達には手を出さない根性叩き直してあげるわ」


 と、七瀬は母親に対する嫉妬を蓮見へと向けた。


「……え?」


「うそ、うそ、冗談よ♪」


 穢れを知らない純粋無垢な笑顔の七瀬に蓮見は嫌な予感しかしない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る