第325話 姉妹揃っての誘惑


「なら早速罰ゲームです! 今日一日蓮見さんは帰るまで私を甘やかしてください!」


 そう言って勢いよく飛びこ……突撃し蓮見の太ももの上に身体を乗せてきた瑠香。


 ――!?


 その衝撃を持って知って蓮見の意識は現実に引き戻される。


「えへへ~、ってことでまずは頭撫でてください!」


 年下ポジションを利用した満面の笑みでの上目遣いに不覚にも瑠香を女として蓮見の脳が認識する。それに今日は姉妹揃って私服なのだが、胸元が見えそうで見えない服がなんともたまらなく儚い。

 胸が小さい為に不自然に出来た空間と服の中から姿を見せようと膨らみを強調してくる。

 特に無防備に身体を近付けてくる瑠香の場合、蓮見が視線を下に向けると、首の下から僅かな膨らみがいい具合に見えてしまう。


「……わ、わかった」


 戸惑いながらも、視線を顔の部分にまであげて頭を撫でてあげる。

 すると猫のように自分から頭を押し付けてきた。


 ――か、可愛い。


 そう思っていると今度は七瀬が隣に座って来て、蓮見にだけ聞こえるように耳元で囁く。


「今、瑠香の胸元ちゃっかりみたね?」


 ――ドキッ!?


 つい、身体が反応してしまう蓮見。


「い、いえ……そんな事は……」


「嘘つくならお姉ちゃんとしてそれなりの……」


「み、認めます。す、すみませんでした」


「ふふっ、今日は素直だね。まぁ蓮見なら見ても文句は言わないんだけどね~。それに今日は姉妹揃って同じ服だし私も気を付けないとつい見られちゃうね」


 クスッと笑い、からかってくる七瀬に反応に困ってしまう。

 からかわれていることはわかるのだが、七瀬の言葉の意味がよくわからない。

 蓮見なら文句は言わないの意味だ。

 他の者なら良くて、俺なら良いと理由が皆目不能だった。

 もしや、油断させておいて最後に……なるほど、そう言う事か!

 ふふっ、残念ながらその手には乗らないようにしたいが……本能が、視線が、吸い寄せられてしまう。

 一体どうしたものか……。

 一度首を横に振り、煩悩を払い蓮見が質問する。


「瑠香の罰ゲームはわかりましたが、先に七瀬さんからの罰ゲームの内容も聞いておいていいですか? じゃないと、心臓が持ちそうにありません」


「そう言えばお姉ちゃんは蓮見さんに何をしてもらうの?」


 頭を撫でられて、頬が緩み、幸せそうな瑠香。

 そんな瑠香も知らなかったのか、七瀬の言葉に興味の眼差しを向ける。


「二人共そんなに気になるの?」


「はい」


「うん」


 息を呑み込む蓮見に七瀬は微笑みながら口を開く。


「ひ・み・つ♪」


「……え?」


「今はね。それよりほら瑠香を可愛がってあげないと可哀そうよ。この子中々人目があると甘えん坊さんだけど恥ずかしがって甘えないし、素直になれないのよ。ってことで瑠香のお姉ちゃんである私もついでに少しでいいからお願いね~」


 そう言って身体を預けてくる七瀬。

 姉妹というだけあって、その本質的な部分は大きく変わらない。


「ちょっとお姉ちゃん! 余計な事は言わないで!」


「あらあら、そんなにムキになってから~」


「ばかぁ!」


 顔を真っ赤にした瑠香が大きな声で叫び、蓮見の胸に顔を埋めて再び甘える。

 それを横目で見て、口角を少し上げて微笑むと七瀬は七瀬で目を閉じた。

 蓮見は何が正解で何がどうなっているかがわからないまま、瑠香の頭を撫でてあげる。


「それにしても少し熱いわね~」


 そう言って服の上の方を掴み動かす事で風を感じる七瀬。

 だが、服の上の方を動かす度に七瀬の胸元が程よい感じで蓮見の視界の隅に入ってくる。小さな膨らみは確かにあり、その頂上にあたる部分は下着で隠されている。チラッと七瀬の顔を見るとまだ目を閉じているので、もう一度さり気なく確認。色は黒で大きさは……。


「……あっ」


 気付いた時には片目を開けており、視線がかさなった。

 そのまま小声で呟いてくる七瀬。


「ホント、単純ね」


「す、すみません」


 落ち込む蓮見を他所に。


「我慢するってやっぱり辛いでしょ? 罰ゲームなんだからしっかりとその辺耐えないとダメだよ」


 と、誘惑と一緒に蓮見の心を揺さぶり刺激してくる七瀬。


「私は美紀とは違って見たぐらいでは怒らないから安心していいよ。男ならこれが正常だって受けて入れてるからね」


 これはこれで蓮見には効果抜群。

 視界に入った映像は蓮見の妄想を膨らます破壊力を秘めており、今もわざと空間を作っているのか僅かに見える膨らみを見せつけるように身体の向きを調整してくる七瀬。手を伸ばせば届く、触れる、そんな一見無防備にして功名な作戦とも考えられる距離感に蓮見の心は我慢を強いられる。


 理性と本能の狭間で繰り広げられる桶狭間の戦い。

 それはあまりにも残酷で険しく、手を伸ばしても、出しても、ダメな戦いでもあったと知った。


「今日は身体のミサイルを爆発させて、白い爆弾を私の街に落とさないでね」


 そんな姉に負けじと顔を上げて、上目遣いでニコッと無邪気な顔を向けてくる瑠香はやはり純粋な子供っぽくてとても可愛い。


「大丈夫です。その時は私がお相手になりますから」


 だけど、その言葉は問題しかなかった。

 やっぱり姉妹。

 何度も言うが、本質は変わらない。


「でも我慢できないときは正直にいいなよ? 責任取ってくれるなら、受け入れてあげるから」


 突っ込みどころ満載ではあるが、どう反応していいかがわからない。

 素直に、本心に従ってお願いします! とでも言った日には……どうなるかわかったもんじゃない。


「わ、私もいいですよ」


 照れながらも、便乗してくる瑠香。

 その時、少しばかり態勢を動かしたのが瑠香の運のつき、蓮見の目が瑠香の膨らみと下着の色を一秒にも満たない時間で脳に記憶してしまったのだ。

 色は黄色で大きさは七瀬よりさらに少し小盛りで、何がとは言わないが少し浮いていた。それは蓮見の脳内桶狭間の戦いに早くも終止符を打つ結果となる。


 理性と本能。

 勝者は本能となってしまった。


 だが、そこで。

 理性が最後の力を振り絞って蓮見へと囁く。


 お前はどっちを選ぶと言うのだ?


 理性が残した最後の言葉に蓮見の本能が迷い抑制される。





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