第315話 祈る運営室
「楽園で楽しむ~とある少年は永遠の物語はまだ始まったばかり。果てしなく広がる火の海は全てを消し去り灰にしてしまう~。太陽のように熱く消えはしない魂は今も熱く鼓動し主へ力を貸す燃料のようだぁー……」
以下略。
勝手に作った歌を歌いながら空中散歩をする蓮見。
これには意味がある。
――MP回復。
自分のやった事を理解しているのか理解していないのかよくわからない歌は戦場へと響き、進行方向はフィールドの中心地である事から徐々に多くのプレイヤーの耳にも入る。そして、進行方向を変更する者達が続出していた。
その歌は当然運営室にもバッチリ聞こえており、返ってくるは歓声ではなく悲鳴だとは当然蓮見は知らない。
「なぜそうなったぁぁぁぁあぁぁあああああ!!」
「お前が歌うとロクなことがねぇええええええ!!!」
「なんで里美と離れるんだよ……お前はぁああああああああ!」
「……お姉さん泣きたくなっちゃったぁぁぁぁ」
発狂したくなる気持ちを抑え。
「……勘弁してくれ……」
モニターを見て責任者は心の声を漏らした。
先ほど社長から「神災を進化させたい気持ちはわかるが、ほどほどにしておけ」と小言を頂いた早々こんな事が起こってしまえば頭が痛くてしょうがない。
こうも自分達のペースを乱されると、幾らエンジニアを雇い数で対抗しても蓮見の問題を起こす速度が早すぎて対応が間にあわ……できない!!!
そもそもの話し。
ステータスはトッププレイヤーですら、基本的には四桁台に行くか行かないかで今は調整されているのだが、一人六千台まで勝手にいかれると大人の事情としては大変困るのだ。正確にはその程度ならまだ問題がない。何が問題かと言うと、一番厄介な人間がその前人未到の領域(六千越え)に踏み入れてしまったことだ。事実他のプレイヤーでは蓮見のようなスキルの使い方をして一時的にSTR四千越えなどして一撃必殺等と言って楽しんでいる。だけど蓮見の場合は楽しむの次元が他の者とは違う――特にサーバー負荷になるような事しかしないので運営サイドとしてはマジで止めてもらいたい案件なのだ。蓮見の真似をしてフィールド破壊をするプレイヤーがミニイベント終わりから増え、今まで必要としなかったことにサーバー負荷がかかりだしたかと思いきや、クレーターや焼け野原を息をするかのように作り続ける蓮見は毎度毎度その規模を拡大していた。
今も何のメーターと数値がとは言わないが、危険区域まで瞬間的に何度かいくなど心臓に悪い現象が運営室で起きているのだ。それにいち早く気付いた社長からのラブコール(小言)の真の意味がこれなのだ。あの社長がここまで言うのはかなり珍しく、もし第四回イベント中にサーバー処理が間に合わず落ちたなど起これば間違いなく新聞、TV、インターネット、SNS等で問題(大きく取り上げられる)となる事は間違いない。そうなれば会社としては信用問題にかかってくるのだ。そうなると幾ら【神眼の神災】が大好きな社長でももう楽しんでいる余裕はなくなる。第四回イベントに合わせて、ソースコードの見直しから修正・改善とプログラムを出来るだけ軽くするなどの対策は出来る限りしていたが、その分蓮見が暴れられる余力を作ったと後付けだが解釈できるこの状況に大きなため息がでた。
「こうなったら【神眼の神災】が落ちるのが先かサーバーが落ちるのが先か……勝負ね……最悪どっちも同時に落ちる……かもしれないわね」
――女は真剣な眼差しで口を開いた。
「いや上手い事言っているが、それどれが正解?」
「【神眼の神災】が落ちたらある意味それはそれで板が凄いことになって信じられない程のサーバー負荷がかかるぞ? ルフラン戦の時がそうだったからな」
続けて、別の男が言う。
「――んで負荷に耐えきれず処理落ちしたら社会的に俺達のプライベート時間がさらになくなるぞ?」
そして別の男。
「つまり【神眼の神災】を経由して、そのどちらかが起きたらサーバー負荷からの世間対応とゲームバランス見直しから修正までを早急にするってことでOK?」
「そうよ♪」
女は諦めたような声と眼差しを四人の男に向けて微笑みながら頷いた。
その微笑みはとても美しく男達を魅了する程。
それは恋人にすら見せた事がなく、人生で初めての経験だった。
まさか初めての相手が職場の同僚になるとは思いにもよらなかった女はこれも何かの縁だと思い自分を納得させる。こうなった以上全員道連れである。誰一人逃がしはしないし、誰一人家へ帰すつもりもない。誰が不死鳥を最後に作った奴の責任だぁ!? もうこうなった以上、それを凌駕しているではないか!
「だからとりあえず【神眼の神災】様のご機嫌が直るまでつい先日社長に無理言ってさらに増設したサーバー様が耐えられる事を祈りましょう♡」
「……つまりこっちはこっちで【神眼の神災】VS【サーバー】ってこと?」
「そうよ♪」
世の中不思議な物でお金を幾らかけてもなぜか元がすぐに取れる事もあるのだ。
当然その分代償(リスク)を払うことになるわけだが、彼らの判断は間違っていなかった。もし当社のけち臭い役員幹部を脅し社長を納得させサーバーを増設し強化していなければ今頃どうなっていた事だろうか。彼らは過去のイベントでしっかりと学んでいた。イベント前には必ずサーバー強化をして如何なる【神災】にもサーバーを耐えられるようにしておくということを。
「ちなみにお前はどっちかと言うとどっちが勝つと思う?」
「ん? それは当然……サーバー様に決まってるじゃない」
妙に空いた間に、男達が小さく首を上下に動かし察する。
この女間違い。
今迷ったあげく嘘ついたな、と。
アイコンタクトで意思疎通を図る男達の逃げ道を塞ぐようにして、
「そうでしょ? 皆。」
と、質問をすることで仲間意識を芽生えさせる。
「「「「…………」」」」
大きく見開かれた黒い瞳は言葉に困る四人の男達だけを見ており、瞳には困る四人の男達の顔がハッキリと映っている。
――私を見なさい!
そんな圧を無言で掛ける女に負けた男たちは息を呑み込み言う。
「「「「……あ……あぁ、そ、そうかもな」」」」
((((そうであってくれ……頼む。唯一の救いはスキル残数がもうだいぶ少なく残り時間が少ないことだが……どうなるかな……))))
「そうよね♡ 私貴方達とならこの先ずっと一緒でも構わないかも♪ なーんてね♡」
――ドキドキ。
高鳴る心臓。
こ、これが恋なのか?
そう思いたい、そうであって欲しい。
それは男も女も同じ――。
こうして別世界で見ている者にもドキドキ(意味深)を与えてくれる蓮見はモニターの中で今も優雅に鼻歌を歌い一人空を経由して飛んでいき、ついに目的地付近にまで到達した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます