第314話 【神眼の神災】VSラクス
――ニヤリ。
自分に言い聞かせるようにして目的を再確認した蓮見が動こうとしたときだった。
別の方向から足跡がさらに二つ聞こえ始めた。
それは歩いているのではなく、走っているらしくとても速い何かだった。
――敵か?
そう思い、一旦は足を止める蓮見だったがすぐにその正体がわかったのでラクスに向かって駆けて行く。
こんなに早く二つの足音が接近してくる時点で察しがついたのだ。
一体誰が近づいてきているのか。
「へへっ、やるじゃん俺。だったら俺も負けてられねぇ、スキル『迷いの霧』!」
視界不良を利用してラクスへと近づいて行く。
正面から戦って勝てないのなら正々堂々と戦わなければいいだけ。
例えそれでなんと言われようと、弱者には弱者の戦い方があるのだ。
戦場では勝った方が正義。
ならば――。
「頼むぜ、モグラ君! 高速で動き回ってくれ」
蓮見の言葉に反応し、毒煙を放出しながらランダムに二人の周辺を動き回る。
それを警戒してかラクスの足が止まる。
はっきりと姿が見えなくても蓮見には赤と黄色の点の動きで相手が動いているのか止まっているのかがわかる。それを利用して、ある程度の所まで距離を詰めて、
「へへっ。今回も頼むぜ」
呟きながらラクスを大きな円で囲むようにして四つの自動音響装置を設置と一緒にタイマーをセットする。自動音響装置は第三回イベントで【深紅の美】ギルドメンバーが使ったアイテムの一つである。
――準備完了。
後は時が来るのを静かに待つまで。
起動まで後十秒。
そのカウントダウンこそが。
後、九秒、八秒、七秒。
蓮見の奥の手。
後、六秒、五秒、四秒。
本来は一人でやるはずだったが、ここにきて希望の足音も近づいてくる。
後、三秒、二秒、一秒。
ゆっくりと息を吸って、吐き出す。
「行くぜ! 俺様戦隊紅レンジャー!」
タイミングよく、蓮見の後方の木影から姿を見せるは分身蓮見の二人。
「「おう!!!」」
「何度怒られても消えない炎を持つレッド、紅!」
本体に続くように、二人の分身蓮見も。
「聖火を受け継ぎ、密かに聖火を支え密かに逃走してきたブルー、紅!」
「燃え盛る炎は何者にも捕まえる事は出来ないイエロー、紅!」
「「「三人合わせて紅レンジャー、ただいま参上!!!」」」
この状況下でもやる事はしっかりとやって、バカ丸出しの【神眼の神災】。
でも当の本人は本体に負けず劣らずノリがいい分身達と一緒にこの状況から抜け出す為テンションを上げるのであった。
そして自動音響装置のタイマーが零秒になり作動。
――進化した神災は過去の神災を超える。
蓮見の雄たけびと爆発音がそこら中に響き渡り、たまたま周囲を捜索していた多くのプレイヤー達をも巻き込み戦慄させる。
当然ラクスも――。
蓮見なら何をしても可笑しくない。
その認識がラクスの警戒心を一瞬で最大レベルまで持っていく。
だけどラクスは冷静に。
「これは……第三回イベ――ッ!?」
と、状況把握している所に、三か所同時の通常攻撃による矢が飛んでくる。
一体何が起こっている!?
慌てて、視線を周囲に飛ばすが、毒煙の中に見えるシルエットは幾つかある。
それも動き回っているのか、反撃しようにもどう動いていいかがわからない。
蓮見の声はあちらこちらから聞こえ、爆発音まであちらこちらから聞こえる。
まるでここにいる蓮見が多くのプレイヤーとも戦闘を始めたのか、爆発の音と一緒に眩しい光がうっすらと見える。
「これは……一体……」
そんな事を考えるラクスへ。
「スキル『連続射撃3』『虚像の発火』!」
「スキル『レクイエム』!」
「スキル『連続射撃3』『猛毒の捌き』!」
それぞれのMP量に合わせた攻撃をする蓮見。
それは全てKillヒットとテクニカルヒット狙いに他ならない。
ただし毒の矢だけはなぜか飛んでこなかった。
もしかすると、この視界不良のせいで狙いを外したのかもしれない。
だけど、それでも厄介な事にはかわりがない。
「……ちっ」
舌打ちをして、今どうなっているかがわからないラクスは気配だけで攻撃を捌いていくが、矢が掠り赤いエフェクトが血のように舞いHPゲージを削っていく。
「どうなってる……本当に神眼が何人もいるのか……」
このままでは負けると思い、初めに見えたシルエットへ向かって動くラクス。
「まぁいい。これで全てが解決だ。スキル『ペインムーブ』!」
レイピア専用スキルの六連突きによる連撃は確かに蓮見の身体を貫いた。
そしてニヤリと微笑むラクス。
どうやら逃げ遅れたらしく、レイピアの最後の一突きが蓮見の心臓を貫いていた。
「残念だったな」
ニヤリと勝利を確信したラクスに。
「あぁ……残念だった……そっちがな」
不気味に微笑みながら光の粒子となり消えていく分身蓮見。
まるで何かから注意を逸らすような口ぶりで言った。
「スキル『虚像の発火』!」
後方から聞こえてきた声にラクスが振り向くと、炎を纏った矢が飛んできた。
――!?
強引に身体を捻り、急所を逸らす。
だけど反応が遅れたせいで左肩へと矢が刺さり、痛みを覚えた。
苦痛に顔を歪めながら矢をすぐに抜き、前を見るとさらに三本の矢が目の前まで迫って来ていた。
「一体何がどうなってる……。あれはエリカの開発品のダミー音声ではないのか……?」
事前に得ていた情報に惑わされるラクス。
「私を舐めるな! スキル『竜巻』!」
自身を中心とした風を巻き上げ一緒に飛んできた矢を吹き飛ばし、最後に見えたシルエットの方へと駆け抜ける。
「スキル『アクセル』!」
それから飛んでくる矢の方向からシルエット越しに気配を感じる蓮見へと攻撃する。
「その程度の小細工は無駄だ! これで今度こそ終わりだ【神眼の神災】! スキル『睡蓮の花』!」
レイピアがピンク色のエフェクトを纏いキラキラと光輝く。
――狙うは心臓。
遠距離攻撃を得意とする敵に取ってレイピアの攻撃範囲は完全に危険地帯となっている。更には装飾品にて毒対策は万全だがこの視界不良はどうにもならない。竜巻で煙を巻き上げても毒煙の中を駆け巡るモグラが新しい毒煙をすぐに放出して視界を確保できないのだ。だけどその程度の小細工ではラクスは止められない。それを証明するかのように何の迷いもなく突撃したラクスの一撃はまたしても蓮見の心臓を精確に貫いた。
――ニヤリ。
今度こそ勝った。
そう思った。
手ごたえは確かにあるし、シルエットが分解され光の粒子となっていってるのがなんとなく見えた。
これは間違いない。
ついに【神眼の神災】を倒した。
そう確信し、心が喜びを実感し始めた時だった。
「へへっ、流石ですね。ですが、まだ甘いですよ」
最後の言葉を残し消えていく分身蓮見。
その言葉に違和感を覚えたラクスはすぐに周囲を警戒し集中する。
が、気配はもう感じない。
それにさっきまで聞こえていた蓮見の笑い声、爆発音、眩しい光が見えなくなっていた。
だけど本当にもう終わりなのか? そんな疑問が心の中で生まれた。
なぜあの男は最後にあんな言葉を言い残したのだろう。
その意味がわからない。
「かかった。賭けは俺の勝ちだ! 飛んでいけ猛毒の矢!」
突如として声が聞こえてきた上空に目を向けると、【神眼の神災】が悪魔の微笑みを浮かべていた。ラクスの脳が大音量で警報を鳴らし、この場から逃げろと身体に警告する。
視界不良による【神眼の神災】の十八番と言えば……。
「手榴弾のばら撒きからからの大爆発!?」
ようやく蓮見の狙いがわかったラクス。
「スキル『アクセル』!」
全力でこの場から逃げようとするラクスへ猛毒の矢が降り注ぐかと思われた時だった。全ての矢が途中から軌道を変更して明後日の方向に飛んでいく。その先には手榴弾とは火力が桁違いのエリカ特性の巨大爆弾が二十以上設置されていた。
走っていく中で毒煙の中に爆弾が仕掛けられていることに気付いたラクスの頬から汗が滴り落ちる。
「……まずい」
そして――。
今度は目の前で爆弾の一つが眩しい光を放ち始める。
慌てて回避行動を取り、頭から地面に向かってダイブし爆発に備えるラクス。
「すみません。でも俺にはこんな単純な手しか思いつかないので」
一人空を飛び、遥か彼方へと飛んでいき、自分だけ安全圏まで行く蓮見にラクスはようやく周りが【神眼の神災】を警戒する理由を理解した。
――直後。
プレイヤーキラー対決の末、神災はプレイヤーキラーへと降りかかる。
爆弾が一斉に爆発し再び森を容赦なく跡形もなく焼き払い、ラクスのHPゲージを全損させた。ついでに偶然にも近くを通りかかったプレイヤー何十人かも一緒に巻き込み、その内の二割はHPが全損した。だけど空中散歩をし鼻歌を歌い始めた蓮見がその事実を知るよしはなかった。
二度も【神眼の神災】を倒したラクスはわけがわからなかった。
アイツに本当の意味で止めを刺すにはどうすればいいのかと……。
こうして【神眼の神災】VSプレイヤーキラーの戦いは【神眼の神災】が勝利する形で幕を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます